第15話 さすらいジョニー -3- 二十枚の銅貨
ゴウはなかなか帰って来なかった。
ポップコーンは十個売れて、作り方も段々と手慣れてきた。フタを開けるタイミングもコツを掴んだ気がする。
店番は最初いやだったが、やってみれば段々楽しくなってきていた。
「よー、お待たせ」
ゴウが星のかけらを詰めた大きなバケツを両手に、やっと戻って来た。
「悪い、悪い。どうだった?」
「まあ、なんとか、やりました」
「だろう?思いきってやっちゃえば何とかなっただろう?」
「はい、まあ、そうかな」
何とかなったかな。まあ、確かに、何とか。
「働いてみた感想は?初めてだろ?」
「あ、はい。初めて。意外と楽しかった、かな。ふふ」
ちょっと照れくさい。
「ふふん、お金を稼ぐって大変だろ?」
「はい、それは全くその通りです。大変ですね」
「でも、楽しくもあった」
「はい、そうなんです。初めての体験でドキドキはしましたけど、やって良かったです」
「ははあ、そりゃ良かった。こんなの事前に話してじっくり考えて準備なんかしてたら、やらなかったんじゃないの?」
「確かに」
確かに不安だし面倒くさいとか考えるし、やらない理由をいっぱい考えて、結局やらなかったかもしれない。
「スーのチャレンジ作戦、大成功だな」
「え?チャレンジ作戦?」
「ははは、今日の売上は全部スーのもんだ。アルバイト代として取っといて」
「え?全部ですか?」
銅貨二十枚もある。
「でも材料代とか……」
「スーが店番してくれたおかげで、星のかけらをこんだけ仕入れたから当分大丈夫だし、他の材料代なんて知れてるよ」
「でも」
「それで買い物もできるだろ?」
「はい、じゃあ、遠慮なくいただきます!ありがとうございます!」
本当に全部もらっていいのかな。
昨日両替の話をしたから、ゴウがアルバイトを考えてくれた気がする。
でも素直に自分でお金を稼げたことがとても嬉しかった。
「人生初のアルバイト、お疲れさま、イエーイ」
ゴウがハイタッチをしてきて、ボクは釣られて胸の高さに手を上げた。手の平に触れたゴウの肉球は柔らかで弾力があった。
なんだかとても嬉しかった。
「僕もさ、このあやしの市で初めて働いてお金を稼ぐ経験をしたんだよ」
ゴウが嬉しそうな顔をした。
「え?ここで初めて?」
「そりゃそうだろ。働いている猫って見たことあるかい?」
「ああ、それはそうですね。ないですね。ボクもおかしなこと聞いてます、ふふ」
ゴウがもうすっかり人間のような感覚になっていた。そのことが自分でおかしかった。
「僕がこれまで世話になった家は、パン屋や喫茶店や使用人が何人もいるようなお屋敷もあった。だから人間が働く姿は見ていたよ。だけどまさか、自分が働くなんて考えたこともなかったからね。ふふん」
そりゃそうだよね。猫は別に働かなくていいもんね。猫っていっつも寝てるし。
「実際に自分でやってみて働くことの大変さと楽しさが少しわかったよ」
「大変さと楽しさ、ですか」
「ああ、そうだ。お客さんがいっぱい来ると大変で疲れるし、来なきゃ来ないでそれも疲れる。でもどっちがいいかというと、僕はやっぱり忙しい疲れの方が嬉しいね」
そんなものなのかな、ボクはまだそこまではわかっていない気がする。
「仕事のゴールは誰かを笑顔にすることだって誰かが言ってたよ。今じゃその意味がわかる」
誰かを笑顔にすること?かあ。
あの姉弟やポップコーンを買いに来たお客さんたちの、帰って行く時の顔が浮かんだ。
「そんな体験が面白くってね、まだしばらくはやってみようと思ってるんだ」
ボクも貴重な体験ができた。
ゴウのやり方はちょっと乱暴だったけどね、ふふ。
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