第13話 さすらいジョニー -1- 初めての体験
「ちょ、ちょっと待ってよ!店番なんて無理だよ、できないよ!」
「大丈夫、大丈夫。僕は星のかけらを拾いに行かないといけないんだ。ポップコーンの作り方はさっき教えた通り。できるだけ早く帰るから。じゃあね!頼んだよ!」
「ちょっとー、ゴーウ!」
今日はボクがあやしの市に来るようになって三日目だ。
入り口のアーチをくぐったボクと目が合った途端、ゴウは一方的に「材料が切れちゃう。星のかけらを拾って来るから、その間だけ店番を頼む」と言い残し行ってしまった。
もう、まったく勝手だし、人使いが荒いなあ。店番なんてやったことないのに出来ないよ。
ぶつぶつ文句を言いながらも、ボクはさっきゴウに教えられたポップコーンの作り方を、頭の中でなぞっていた。
ドキドキしたが、ちょっとワクワクもした。
その時だ。
「ソーダ味ちょうだい!」
「二つね!」
いきなりお客さんが来てしまった。あの姉弟だ。
「あ、ごめん。えーと、ゴウさん留守なんだ」
「えー、なんで?」
弟が泣きそうな顔をする。
「えーと、星のかけらを拾いに行ったんだよ」
「じゃあ、ポップコーンないの?」
「す、すぐに帰って来ると思うんだ」
「いつ?いつ?いつ?いつ、帰って来る?」
「あー、ちょっとそれは、わかんないなあ。そんなに遅くはならない……と思う……多分……いや、きっと……」
「多分じゃダメよ。じゃあ代わりにおにいさんが作ってよ」
お姉ちゃんが口をはさんだ。
「そうだ、作って、作って」
弟の顔がぱっと晴れる。
「あ、え?ボクが?ホントに?」
「作り方知ってるんでしょ?」
「あー、えーと、それは、どうかな、いやー、でも」
「作って、作って」
弟が跳びはねながらねだる。
ぶっつけ本番でやれって?
いま練習しようと思ってたのに。
「ボク、作り方知ってるよ!見てて覚えたもん」
弟が目を輝かせている。
見るのと実際にやるのは大違いなんだよ。
えー、本当にやるの?本当に?できるかなあ……
「あのね、まずその赤いスイッチを入れてね、鍋をあっためるの」
わかってる、わかってる。ボクは仕方なく赤いスイッチを押した。
「でね、次にね、鍋に星のかけらを入れるんだよ」
わかってるよ。
「あ、星のかけらは片手で一掴みね。うん、それくらい」
はいはい、わかってます。
「そうそう、鍋の真ん中にね。こぼしたらダメだよ」
はい、こぼしません。
「次は、バターと味付けシロップを一緒に入れるんだよ。先にバター、次にシロップの順でね。シロップ、ソーダ味だからね」
はいはい、言われなくてもわかってますって。
「でね、入れたらすぐにフタをするの。早くしないと跳ねちゃうよ」
わかってます。はい、フタをしました。
「フタをしたらパチパチ音がしてくるからね、その音をよく聞いてね。音が静かになったら出来上がりだから」
フタの下ですぐにパチパチと音がし始めた。
ボクは耳を近づけ、段々と大きくなってくる音に注意を向けた。ドキドキする。
うん?音が止んだかな。ボクはフタをそおっと開けた。
香ばしい香りが鼻先に立ち上る。
ちょっと膨らみが小さい気もするけど、最初にしちゃあ上出来だろう。あー、緊張した。
「うん。シロップがちょっと少なかったけど、まあいいや。合格かな」
勝手に手を伸ばして味見をした弟が指をなめながら言った。
やれやれ、生意気言われちゃってるよ。
ボクは二つ目を作った。
フタを開けるタイミングに注意したので、さっきよりは見栄え良くしっかり膨らんだと思う。シロップの量もちょうどいいだろう。
でもゴウが作ったのとどこか違う気もする。簡単そうに見えて意外と難しい。
「ありがとう。はい、銅貨四枚ね」
お姉ちゃんが右手を差し出した。
そか、ポップコーン一個は銅貨二枚だよね。
「あ、ありがとうございます」
手にした銅貨をじっと見た。
生まれて初めて働いてお金をもらった。
お店の店員さんになった気分だ。初めての体験がなんだか嬉しい。
「あー、君たち姉弟なんでしょ?」
嬉しい気持ちがボクの口を軽くさせた。
「そうだよ」
お姉ちゃんがポップコーンを指でつまんで口に入れる。
「毎日来てるね」
「だって私たちが山から下りれるのは、この一週間だけだもの」
「え?山から下りる?」
「うん、銀河山から」
「ギンガヤマ?」
「そうよ。年に一回、この一週間だけは山から下りてもいいの。お小遣いもらってね」
年に一回、山から下りる?この子たちは一体どんな生活をしているんだろう。
二人とも質素な身なりだし裸足だ。
「私はリリ。弟はタタ。お兄さんは?」
リリは十歳ぐらい、タタは七、八歳だろうか。
「ボク?ボクは、スー」
「スー?ふふ変わった名前。でもかわいい名前ね」
かわいい?年下にかわいいって言われちゃった。でも二人とも憎めない顔をしている。
その目は瞳が大きく星のようにキラキラと輝いていた。
「じゃね、スー。バイバイ!」
「スー、バイバイ!」
姉弟はポップコーンの入ったカップを抱えて駆けていった。
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