第11話 シルクハットの親分 -3- 自分の価値
クマは来るお客さん全員に「どう?どうよ?」としつこく聞いていた。
笑って対応する者もいたが、露骨にイヤな顔をする者もいた。
クマは誉められると喜色満面になるが、本人が期待する返事がないと途端にがっかりとした表情を見せる。それは端から見ていて、とてもわかりやすかった。
ゴウのところへ戻ってみた。
「親分のところへ行ってたね」
ゴウは待ってたよという顔をした。
「親分って?かき氷屋さんのこと?」
「シルクハットの親分」
「シルクハットの親分?」
体が大っきいから確かに親分って感じだ。
「いろいろ質問されたかい?」
「質問というか……」
「ふふん、根は悪いやつじゃないんだけどね。なんていうかなあ、欲しいんだろうな、いろんなものが」
「いろんなものが欲しい?どういう意味ですか?」
いろんなものが欲しいって、どういう意味だろう。
「昔は暴れん坊だったらしいんだ。本人あまり話したがらないけどね。その頃にできた額の傷を隠すために帽子を被っているって聞いたよ」
あの大きな体で暴れ出したら大変だろうな。ケンカでもしてケガをしたんだろうか。
「大した傷跡じゃないのにね、周りの者も気にしちゃいないさ。でも本人は傷跡そのものよりも過去の自分を恥じているというか、それを隠したい気持ちがあるみたいだね」
他人にとっては大したことじゃなくても、自分が気にしていることは隠したくなる。
ボクは親分の気持ちが少しわかる気がした。
「いつもあの帽子を被っているから、シルクハットの親分と呼ばれ始めたんだ」
「でもなんでシルクハットなんですか?珍しい帽子ですよね」
「なんでも、どこかの国の昔の大統領の写真を見て、あの帽子に一目惚れしたそうだよ。強い者や力を持つ者に憧れるあいつらしいよ」
大統領に憧れたのか。大統領って国で一番偉い人だもんな。
「どう?どう?どうよ?ってしつこく聞かれました」
「うん、それそれ。それ直らないね。親分はずっとそうなんだ。スーはしつこくそう聞かれてどう思った?」
「正直に言っていいですか?」
「うん、言ってごらん」
「正直言って、うざかったです」
「だよね。うんざりしただろ?」
「あ、はい」
結構しつこく聞かれた。正直うんざりした。
「なんで親分はあんな風に聞きたがるんだと思う?」
「えー、どうなんだろう」
「スーは他人に自分がどう思われているか、どう映っているかが気になるかい?」
「はい、それはとても気になりますよ」
それはとても気になる。自分が周りの皆と少し違うと知ってから、余計にどう見られているかが気になっている。
「他人に自分がどう思われているかを知りたいって、誰だってそう思うんだけど、必要以上に他人の評価を気にし過ぎることはないんだよ」
「でも……」
「必要以上に気にし過ぎる必要はないんだって」
ゴウが繰り返す。そんなこと言っても気になるものは気になるよ。
「なんで気になる?」
「え?なんで気になる?」
「うん、なんでかな?」
「それはやっぱり心配だから」
「なんで心配なんだろう?」
「なんで心配?うーんと、それは、自分が変に思われていないかって気になるからかな」
「自分が変?変ってなに?それって、自分が皆と違うんじゃないかってこと?それじゃあ、また普通って何だ?って話に戻っちゃうね。皆、違ってるのが普通じゃなかったかい?」
「え?」
頭の中がこんがらがってきた。
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