アナベル・ホワイト
私はアナベル・ホワイト。下級貴族ホワイト家の長女です。家族は父と母と弟と私の四人家族で、自分で言うのもなんですがとても仲の良い家族です。ホワイト家は領地を持っておらず、父が王宮に出仕して得る手当てだけで生活をしなくてはならないため、貴族とは名ばかりの生活をしています。生活は楽ではないけれど、大好きな家族がいるので幸せに過ごしています。ただ家族と過ごすのは幸せですが、家族以外の人と関わるのはとても苦手です。その理由は私の見た目にあります。父と母、それに弟は茶色の髪に茶色の瞳とよくある色をしているのですが、私だけは白い髪に何色と言うのが正しいのか分からないような不気味な色の瞳をしているのです。幼い頃は私の色がおかしいことに気づきませんでしたが、成長していくにつれ、そして弟が生まれたことにより私だけが違うことに気づいてしまったのです。今までを思い返してみると、家族以外の周りの人たちからは距離を置かれていることにも気づきました。気づいてしまったら怖くて怖くてたまらなくなり、父に『どうして私だけちがうの?』と泣きついてしまいました。父はそんな私を優しくなだめてくれました。そして私の色が違う理由を教えてくれました。父が言うには、ホワイト家には稀に私の様な色を持つ子どもが生まれてくるそうです。理由は分かっておらず、両親がどんな色をしていても生まれてくるのだそう。ただその色を持って生まれてきた子どもには同じ特徴が見られるようで、その特徴というのが回復魔法の素質が突出していることなのだそうです。そして私も例に漏れず、幼い頃から回復魔法だけは自然と使えるようになっていました。父が教えてくれたことを理解することはできましたが、それでも周りはそんな事情を知っているわけないので周りからの視線は変わることはありませんでした。
それから成長して、父は知り合いにお金を借りてまで私を学園に入学させてくれました。
『学園でアナという一人の人間を見てくれる人に出会えるはずさ』
そう言って私を学園に送り出してくれました。私には今まで友達と呼べる人はできませんでした。学園でも嫌な思いもするかもしれないとも考えましたが、私に流れる血がそう思わせるのか、自分の力が人々の助けになるのであれば人々のために使いたいと。そのためにはしっかり魔法を学べる学園に通えることは嬉しかったのです。周りから距離を置かれ友達もいませんでしたが、家族が私を愛してくれました。家族が居なければこの状況に耐えることはできなかったと思います。しかしいつまでも家族に甘えてばかりはいられません。私のためにも家族のためにも学園で頑張ろうと決めました。
そして学園の入学式。私は緊張しながら会場に向かいました。入学式の会場には私と同じく新入生がいましたが、私が会場に入るとコソコソと話しながらこちらを見ている人が沢山いました。
(あぁ、やっぱりここでも同じか)
頑張ると決めた心が急速に萎んでいくのを感じました。さっさと自分のクラスの席に座り、早く入学式が終わってほしいと俯いていました。私の願いが叶ったのか、そのあとすぐに入学式が始まりあっという間に終わってくれました。入学式が終わり教室へ移動するまでの間、顔はなるべく上げずに視線だけで辺りを見てみると
魔法科は男子生徒ばかりだということに気づきました。男性と友達になれるとは思わないので、私はこれからの三年間を一人で過ごさなければならないのかと落ち込みました。落ち込んだ気持ちのまま、周りの視線を気にしながら教室へと向かいました。そして教室に着き自分の席を確認するべく顔を上げると、なんと教室には一人の女子生徒がいたのです。彼女が私の視界に入った瞬間、今までに感じたことのない胸の高鳴りを感じました。運命とはこのことを言うのではないかと直感的に理解し、彼女に近づきたいと思いました。今までの人生でこんなに積極的な気持ちになるのは初めてで戸惑いもしましたが、私の足は彼女に向けて進んでいました。
「初めまして!アナベル・ホワイトです。これからよろしくお願いしますっ!」
「…ダリアローズ・ブルーよ。よろしく」
これが私とダリア様との出会いでした。
それからはダリア様と一緒に学園生活を過ごしていました。ダリア様は上級貴族ブルー家のご令嬢なのですが、下級貴族の私にも良くしてくれます。それにダリア様は一度も私の色を気にする様子がありません。むしろかわいいと褒めてくださりどのような反応をすればいいのか迷う時もありますが、私がどんな反応をしようとダリア様は笑ってくださいます。
ダリア様は、強く賢く美しい方です。私は学園に通うまではダリア様のことを全く知りませんでした。ダリア様が表に出ていなかったことと、私が周りの視線を気にして外に出なかったからなのですが、学園で耳にしたこれまでのダリア様のお噂は信じられないものばかりでした。病弱令嬢や我儘令嬢、不細工令嬢など、それはもう悪意しか感じない噂でした。ダリア様本人は気にもしていないようですが、今まで何も知らずにいた自分が情けなくなりました。しかし今さら過去を嘆いても仕方ありません。これからもダリア様とお友達でいられるよう努力をしようと決めたのでした。
そんなある日、見知らぬ男子生徒が私たちの教室にやってきました。話を聞いているとどうやらダリア様のお兄様らしいのですが、とても不愉快な方でした。大声で怒鳴り偉そうに喋っていましたが、兄というのはこのような不快な生き物なのでしょうか?さらに二人の会話で私が衝撃を受けたのはダリア様が言ったこの発言。
「そうなのですか?私に兄という存在がいるのは知っていますが、生まれてこの方一度も会ったことも話したこともありませんのでいきなり兄だと言われても…」
血の繋がった家族なのに一度も会ったことがないなんて信じられない気持ちと、あぁだからダリア様の噂は悪意があるものばかりだったのかと納得してしまいました。でもダリア様はそんな噂など全く気にしていないのに私がくだらない噂に怒っていてはダメですね。そんな自分に落ち込んでいた私にダリア様から
「実はね私には血の繋がりはないけど大切な家族達がいるの。ベルが嫌じゃなければ今度紹介したいのだけど、どうかしら?」
と嬉しいお誘いをいただきました。お互い夏季休暇中に時間を作ってお泊まりをすることになりました。とても楽しみです。
そしてやって来た当日。楽しみにしすぎて約束の時間より早く待合せ場所についてしまいましたがこの待ち時間でさえも楽しく感じていました。少し待っているとダリア様がやってきて、荷物をあっという間に魔法で運んでくれました。本当にダリア様は気遣いも完璧な素敵な女性です。 それから二人でお店を見て回り、途中で美味しそうな食べ物を食べたり、本を見たりかわいい雑貨を見たりと、とても充実した時間を過ごしました。そしてダリア様の屋敷に向かう道中で楽しみの一つであるご家族の件の話になりました。
「この後なんだけど、帰ったら私の家族を紹介してもいいかしら?」
「ようやくダリア様のご家族に会えるのですね!楽しみにしています!」
「以前も言ったけれど血の繋がりは無くてもみんな大切な家族なの。ベルも仲良くしてくれると嬉しいわ」
「もちろんです!でも私こそみなさんにダリア様のお友達として認めてもらえるか…」
「ふふっ、その心配はいらないわよ。私の初めてのお友達のベルにみんな会いたがってたわ」
「そうなのですか?えへへ、私がダリア様の初めてのお友達だなんて嬉しいです」
「それとね、多分私の家族と会うと驚かせちゃうと思うの。だから先に謝っておくわ」
「何か驚くようなことがあるのですね?分かりました!心の準備をしておきます!」
「ありがとう。詳しくはその時に話すわね。さぁ着いたわ。ここが私の家よ」
「はい!…わぁ、素敵なお屋敷ですね」
ダリア様のお屋敷は素敵でしたし、ディランさんとマーサさんも本当に素敵な方達でした。ダリア様を大切に想っているのが伝わってきました。他のご家族は夕食後に会えるとのことで、夕食はダリア様と二人でいただきました。ダリア様が絶賛されていたマーサさんのお料理とても美味しかったです。食後は談話室に移動しお茶をいただきながら楽しくおしゃべりをしていました。するとディランさんからご家族がお帰りになったと伝えられました。ダリア様からは事前に驚かせてしまうかもとは言われていましたがどんな方達なんでしょう?期待と不安が混ざりあった気持ちでその時を待ちます。
「ディランありがとう。それじゃあ二人ともこちらに。紹介するわ。友人のアナベルよ」
「アナベル・ホワイトです。本日はお会いできて光栄です」
密かに練習してきた挨拶がうまくできて少しホッとしました。
「あぁ、俺はジークだ。冒険者をしている。よろしくな」
「私はアンナです。ローズ商会で働いています。よろしくお願いしますね」
「はい、よろしくお願いしま……っ、えっ!?」
ジークさんにアンナさんって有名人と同じお名前だなと思いながら顔をあげると、まさにその有名人が目の前にいて驚いてしまいました。
「え、銀色の髪に冒険者、ジークさん…それにローズ商会のアンナ、さん……えっ、『銀の狼』と『商売の申し子』…?」
「ふふっ、さすがベルね。そうよ『銀の狼』のジークに『商売の申し子』のアンナよ。二人も私の家族なの」
「え、えっーーーっ!?」
驚かないのは無理でした。
「先ほどは失礼しました…」
「ベルが謝ることじゃないから気にしないで。でもやっぱり驚かせてしまったわね。ほんとあなたたちは有名人ねー」
「リア…お前に言われたくない。それに『銀の狼』とか恥ずかしすぎる…」
「ジークの言う通りマリア様には言われたくないですね」
「それもそうね…。悪かったわ」
三人は自然に会話をしていましたが、私には分からないことがあったので直接ダリア様に聞いてみることにしました。
「…あのぉダリア様。お二人が言うリアさんとマリアさんというのはダリア様のことですか?リアなら愛称かもしれませんがマリアというのは別人では…?」
「…いいえ、それも私の名前なの。あのねベル、今から私の秘密を見せるからあんまり驚かないでね?」
するとダリア様が魔法を使ったようで見た目が変わっていきました。青い髪に青い瞳のダリア様がいた場所に茶色の髪に赤の瞳の女性が現れました。そして私はこの方を知っています。
「リアというのは私の冒険者としての姿なの。そして、」
さらに金色の髪に桃色の瞳の小柄な女性に姿が変わりました。そしてまたしても私はこの方を知っていました。
「マリアはローズ商会での私の姿なのよ」
そう言い終わってから元の姿に戻ったダリア様。私はこの出来事にとても感動していました。
「『竜殺しの乙女』に『王国の女神』…。まさかこのお二人がダリア様だったなんてっ…!ダリア様素敵ですっ!!」
「あ、ありがとう。今まで黙っていてごめんなさい」
「いえいえいえ!全然気にしていません!むしろこんなすごい方が私のお友達だったなんて、こんな幸運はありません!」
「ベ、ベル、少し落ち着きましょ?ディラン、マーサ、みんなにお茶をお願いね」
改めてお茶をいただきようやく落ち着くことができました。
(うぅ、恥ずかしい…)
ただダリア様の秘密の姿を見たらみんなこうなるはずです。仕方がないのです。そう自分に言い聞かせました。その後も会話が続いていましたが、ダリア様からさらに信じられないような言葉がかけられました。
「それとね、前から考えてたことがあるんだけれど、ベルさえ良ければ学園卒業後にローズ商会で働かない?」
「え、わ、私がですか!?ローズ商会に!?」
「そうよ。ベルと一緒に過ごすようになって、ぜひ一緒に働きたいと思ったの。友達だからという理由ではないわ。ただ純粋にベルの人柄や努力する姿をこの目で見てきたからこそなの。無理にとは言わないから、考えてみてくれないかしら?」
「ダリア様…。私、嬉しいです。こんな私を必要と言ってくれる人がいるなんて。しかもその人が私の大切なお友達だなんて、本当に嬉しい。…私のこの見た目を気にせずに仲良くしてくれたのはダリア様が初めてなんです」
泣くつもりなんてこれっぽっちもなかったのに目から涙が止まりませんでした。この見た目で家族以外に親しい人はおらず、家族だけが私の世界の全てでした。それが学園に通うようになって、ダリア様とお友達になって世界が広がりました。治癒士になりたいと強く思えるようになったのもダリア様が私のことを一人の人として接してくれたからです。
「…私は幼い頃からこの白い髪と何色かも分からない不気味色の瞳で周りから距離を置かれてきました。そんな私が学園に入学したとしてもお友達なんてできないだろうと思ってたんです。でもダリア様を見て素敵な方だな、お友達になりたいな、そう思って勇気を出して話しかけたらダリア様は私の見た目なんてこれっぽっちも気にせずに仲良くしてくださいました。それだけでも嬉しかったのに、私のことを見て、認めてくださって本当に嬉しいのです」
「ベル…」
私はダリア様のお役に立ちたいと常日頃から思っていました。そしてそのチャンスが目の前にあるのです。私に迷いはありませんでした。
「ダリア様のお力になりたいとずっと思っていました。私で良ければぜひ一緒に働かせてください」
今の私では全然お役に立てないかもしれませんが、この先もダリア様と共に過ごせる未来を夢見たっていいですよね?
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