第13話
今日はとうとうアナベルが泊まりに来る日だ。アナベルに早く家族の紹介をしたくて、夏季休暇が始まって割りとすぐの日がいいと言ったら快く承諾してくれた。なので今日は朝からソワソワしている。そんないつもと様子の違う私に気づいたマーサに
「お嬢様、お友達との待ち合わせはお昼を過ぎてからなんですから少し落ち着いてください。ほら、スープが冷めてしまいますよ」
と言われてしまった。今は朝食を食べているところなのだが、マーサに言われて目の前にある料理を見ると全く減っていなかった。
(そりゃそう言われちゃうわ…)
「ごめんなさい。マーサが作ってくれた料理が冷めるなんてあってはならないわ!」
そう言ってから急いで食べ始めた。私はお菓子も料理も上手なマーサに胃袋を掴まれてしまっているのだ。
「そんなに急いで食べなくても料理は逃げませんよ。でもお嬢様がめずらしく子どもらしくて微笑ましいですけどね。ね、あなた」
「えぇそうですね。お嬢様は"前世の記憶"という不思議な力をお持ちだからなのか非常に大人びておりますが、私たちにとってはお嬢様はいつまでもかわいい子どもなのです。ですからいつでも頼ってくださいませ」
「マーサ、ディランありがとう。二人とこうして一緒にいられて私は幸せよ。でもいつまでも子ども扱いはちょっと恥ずかしいわ」
少し拗ねたように口を尖らせるとマーサもディランも笑っていた。
「うふふっ、私たちのお嬢様は本当にかわいらしいわ」
「あぁその通りだな」
「もう二人ともっ!」
何気ない会話をしながら食べる食事はいつもより美味しかった。その後は商会の仕事をこなし、昼食を終えるとアナベルとの待ち合わせの時間が近づいていた。領都の広場で待ち合わせをしており、この屋敷からは比較的近いので歩いて向かう。広場に着いたので辺りを見回してみると、ベンチに座っているアナベルを見つけた。馬車で広場の近くまで来たのだろう。泊まりに必要な物はこちらで用意すると伝えていたので荷物はアナベルの足元にある鞄だけのようだ。私はアナベルに駆け寄りながら声をかけた。
「ベル!」
貴族令嬢として駆け寄るのははしたないが、今の私は平民なので気にしない。するとアナベルが私に気づいたようでベンチから立ち上がった。
「ダリア様っ!」
アナベルもこちらに駆け寄ってきそうな勢いだったが、私が彼女の前に辿り着くのが先だった。
「お待たせしちゃってごめんなさい。無事に会えて良かったわ!」
「いえ!私も先ほどこちらに着いたばかりなので気にしないでください」
「そうなのね。元気にしてたかしら?」
「はい!でもダリア様に会えなくて寂しかったので今日会えるのを楽しみにしてました!」
「ふふっ、私もよ。今日を楽しみにしてたわ。それじゃあ早速だけど行きましょうか」
「はいっ!あ、荷物を持っていかないと!」
「アナベル、これは内緒よ?」
「えっ?」
アナベルに小声で話しかけて辺りを見回してから荷物に手をかざすと、ベンチの下にあった荷物が消えた。
「えっ!?ダ、ダリア様?」
「荷物があると大変だから先に私の家に送っておいたわ。後で詳しく教えてあげるけど内緒ね?」
「わぁ~、さすがダリア様!はい、ぜひとも教えてくださいっ!もちろん内緒です」
私が口元に人差し指を当てて言うと、アナベルも私の真似をして口元に人差し指を当てた。
(か、かわいすぎるっ!さすがヒロイン!)
「ありがとう。さぁ行きましょう!」
それから二人でお店を見て回った。途中で美味しそうな食べ物を食べたり、本を見たり、かわいい雑貨を見たりと、とても充実した時間を過ごした。楽しすぎてあっという間に時間が経ち、そろそろ屋敷に帰ることにした。帰る途中にこの後の予定を伝える。
「この後なんだけど、帰ったら私の家族を紹介してもいいかしら?」
「ようやくダリア様のご家族に会えるのですね!楽しみにしています!」
「以前も言ったけれど血の繋がりは無くてもみんな大切な家族なの。ベルも仲良くしてれると嬉しいわ」
「もちろんです!でも私こそみなさんにダリア様のお友達として認めてもらえるか…」
「ふふっ、その心配はいらないわよ。私の初めてのお友達のベルにみんな会いたがってたわ」
「そうなのですか?えへへ、私がダリア様の初めてのお友達だなんて嬉しいです」
はにかむアナベルもかわいいなと思いながら話を続ける。
「それとね、多分私の家族と会うと驚かせちゃうと思うの。だから先に謝っておくわ」
「何か驚くようなことがあるのですね?分かりました!心の準備をしておきます!」
「ありがとう。詳しくはその時に話すわね。さぁ着いたわ。ここが私の家よ」
「はい!…わぁ、素敵なお屋敷ですね」
扉を開けるとディランとマーサが出迎えてくれた。
「「おかえりなさいませ、お嬢様」」
「二人ともただいま。早速だけど紹介するわね。私の友人のアナベルよ」
「アナベル様、ようこそいらっしゃいました。私は執事のディランと申します」
「うふふっ、お嬢様のご友人にお会いできて嬉しいですわ。私は侍女のマーサと申します」
「は、初めまして!アナベル・ホワイトと申します。お会いできて嬉しいです。よろしくお願いいたします」
「ディランとマーサは夫婦で私の育ての親なのよ」
「素敵なお二人とご一緒だからダリア様も素敵なのですね!」
「「アナベル様はよく分かっていらっしゃる」」
「もうっ恥ずかしいのだけど!ほら早く中に入りましょうよ!」
紹介したらなぜだか急に私を褒め出すものだから恥ずかしくていたたまれなくなった。急いで会話を切り上げさせて中に入るように促した。三人は物足りなさそうな顔をしていたが知ったこっちゃない。せめて私がいないところでやってほしい。夕食までまだ時間があるのでひとまずアナベルを部屋に案内する。
「この部屋を使ってね。荷物はテーブルの脇に置いてあるからよろしくねマーサ。じゃあまた夕食でね」
「かしこまりました」
「素敵なお部屋です!ありがとうございます!」
私はディランを連れて自分の部屋に向かう。部屋に着いてソファに腰掛ける。
「お茶をご用意いたしますか?」
「うーん、もうすぐ夕食だし今はいいわ。そういえばジークとアンナはいつ頃帰ってくるのかしら?」
「お二人とも夕食には間に合わないと仰っていました。おそらく食後のお茶の時間には帰ってくるでしょう」
「分かったわ。…ふぅ、さすがに少し緊張するわね」
「アナベル様にお嬢様の別の姿もお見せになるのですか?」
「そうね、リアとマリアの姿を見せることになると思うの。だってジークとアンナは有名人だからそんな二人と家族だなんて不思議がられちゃうでしょ?それに私がベルに隠し事をしたくないのよ」
「お嬢様に素敵なご友人ができて、私どもも嬉しい限りです」
「ふふっ、ありがとう。それとベルをローズ商会にスカウトしようと思っているわ。彼女はとても優秀なのよ」
「ほほぉ、そうなのですか。いやはや楽しみですな」
「でも受け入れてくれるかが不安で緊張してるの」
今まで隠していたことをさらけ出すのはどうしても不安になる。この世界で初めてできた友達を失いたくないのだ。
「大丈夫ですよ。お嬢様の人を見る目に間違いありません。私たち四人がその証拠になりませんか?アナベル様はどんなお嬢様でも受け入れてくれるはずです。お嬢様だってアナベル様がどんなお姿をされていても受け入れるのではないですか?」
「…その通りだわ。ディランにハッキリ言ってもらえて少し落ち着いたわ。ありがとう」
「いえ、私はただ事実を言ったまでです。それでは私はそろそろ夕食の用意をして参りますので一旦失礼します」
「ええ、よろしくね」
ディランが部屋から出ていき、部屋には私一人になった。ソファにもたれ掛かり目を瞑る。先ほどの会話で落ち着くことができた。
(緊張するなんて私らしくなかったわね。きっとベルは受け入れてくれるわ。…まぁ驚かせてはしまうだろうけど)
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