第5話
学園に入学してそろそろ一ヶ月が経つが、その間に色んなことがあった。
まず合同授業があったあの日の放課後、寮で読書をしようと本を借りに図書室へ行ってみたらマティアスがいた。少し様子を見ていたら何かに悩んでいる様子だった。まぁ悩ませる原因を作ったのは自分だという自覚はしているが。この世界の魔法はその人の魔力量にもよるが、しっかりと想像することができれば大抵のことは出来る。ただこの世界の人間は魔法を生活をちょっと楽にしてくれるもの位にしか思っていない。それに魔法士や治癒士になれる素質を持つ者でも魔法は攻撃する・回復させられるという程度の認識だ。この認識に対して私が思ったことは"もったいない"だ。前世の世界は魔法が無い世界だったので『もしも魔法が使えたら~』なんてことを世の中の人間は一度は考えたことがあるだろう。でもこの世界は元から魔法が当たり前のようにあり、『もしも魔法が~』と考える人間はいないのだ。
マティアスはこの世界の魔法分野でトップの頭脳を持つだけあって私の使った魔法が一体何だったのかと頭を悩ませているのだろう。そこで私は考えた。確かにマティアスは攻略対象であるが今の私に断罪される要素は何もない。もし断罪されても返り討ちにしてやれるくらいの力を持っているしね。それならこんなハイスペックな人材を放置しているのはもったいないのでは?と思ってしまっても仕方がないよね?それにことあるごとに突っ掛かられるのも面倒だし。
そう考えてアドバイスをしてみたのだ。アドバイスを受け入れるか受け入れないかは本人次第だが反応を見るにいい方向に向かうだろう。ただアナベルとの恋がどうなるかは分からなくなってしまったが。
次に二度目の学園の休日に久しぶりにアンナと会うことができた。前回の休日の時にディランに頼んでおいたから大人しく家で待っていてくれた。
「アンナ、久しぶりね」
「お久しぶりです、マリア様」
「ふふっ、この姿の時はダリアって呼んでって言っているでしょ?」
「あ!し、失礼しました。つい仕事の時の癖で…」
「ほんとアンナって仕事が好きよね。まぁそのおかげで私は楽させてもらってるけど」
「はいっ!仕事が私の生き甲斐なんです!あの時ダリア様に助けていただいてなければどうなっていたか…。本当に感謝してます!」
「そんなに恩に感じなくてもいいのよ?私の方がアンナに出会えて幸運だったんだから感謝するのは私の方よ」
「ダリア様っ…」
出会いは今から六年前、私が九歳、アンナが十五歳の時だ。王都からブルー領へ向かう街道で魔物に襲われているアンナを依頼帰りの私とジークで助けたのだ。
この世界には魔物と呼ばれる存在がいる。基本魔の森の中に生息しているのだが稀に森から出てくるものもおり、人や建物、農作物などに被害が出ることもある。なので自衛できない者は護衛を雇って街道を通っていくものなのだがアンナは一人だった。なんとか間に合ってアンナに怪我は無かったがひどく衰弱していたので屋敷に運んで看病をした。数日して体調もよくなってきたようなので事情を聞いてみるとアンナは王都にある大商会の娘だったのだ。家族は両親と兄が二人の五人家族で、兄達とアンナも両親が経営する商会で働いていた。しかし両親が急な馬車の事故で帰らぬ人となってしまい商会を誰かが継がなくてはならなかったのだが両親は生前にアンナを後継者に指名していたのだ。
それが面白くなかったのだろう、兄達はアンナを陥れ、商会から追い出した。追い出されたアンナは後継者に指名される程優秀であってもたった十五歳の少女だ。一人の力ではどうすることもできず彷徨い歩いていたところを魔物に襲われ、私たちに助けられたというわけだ。
その話を聞いた私はアンナに一緒に商会を立ち上げないかと誘った。冒険者や魔道具師として精力的に活動してお金が随分と貯まったので最初に決めていた目標の"商売をする"にそろそろ挑戦したいと思っていたところにこの出会い。もはや運命を感じたね。アンナは私の誘いに乗ってくれて二人で商会を立ち上げた。それが今や王室御用達にまでなったローズ商会だ。
会長は私(マリア)だが実務的なトップはアンナだ。大商会の後継者に指名されていただけあってアンナの手腕は素晴らしく、立ち上げから三年でローズ商会は王室御用達に。私の知識とアンナの経営手腕でローズ商会は今も成長を続けているがアンナの生家の商会は兄達が共同で継いだようだが上手くいっていないようだ。それに引き換え今やこの業界の有名人になったアンナに兄達が『家族なんだから』と支援を求めているそうだ。
「ほんと、今さら後悔しても遅すぎよね」
「両親には申し訳ないですが、私はもうあの人達を家族なんて思ってませんので支援なんて絶対にしません。そんなことに時間を割くなんて無駄ですもの」
「ふふっ、アンナは随分強くなったわね。でも困ったことがあったらすぐに相談してちょうだいね」
「わかりました!」
「そ、れ、と!仕事を頑張るのは良いけどちゃんと休みを取るように。アンナが休まないと従業員が休みにくくなるんだから。分かった?」
「…努力します」
「必ず休むように。ね?」
「…わかりましたぁ」
「よろしい。休むことで仕事の効率も上がるし新しい発想が生まれたりするものだから前向きに捉えてね」
「やっぱりダリア様には敵いませんね。前向きに休みを取りますのでまた時間があればダリア様とお茶やお出かけしたいです!いいですか?」
「もちろんよ。今度は街に出掛けましよ」
アンナに休みを取らせることができそうでよかった。アンナとのおしゃべりの後、ジークとある場所の訓練場で約束した手合わせをして二度目の休日が終わったのだった。
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