第3話

 今日は学園に入学してから初めての休日だ。寮住まいの生徒が家に帰る時は事前に申請が必要になる。アナベルは事前に申請していたようで家に帰っている。アナベルの家は学園から比較的近い場所にあるので短い休日でも帰ることができるようだ。

 私も今日は家に帰ろうと思っているのだが、今から申請するのは面倒だしブルー領は少し遠いので転移魔法で行くことにする。ありがたいことに寮は一人部屋なのでバレる心配は無い。寮にも魔法が使えないように魔道具が設置されているが、これは私が作ったものなので何の問題もなく魔法を使う。


「さてと、家に帰るかな」


 そして転移魔法を使って寮の部屋を後にした。



 転移した場所はブルー家の屋敷ではなく、ブルー領の領都にある屋敷の前だ。ちなみに転移魔法を使う時は周りから私の姿が見えないように隠蔽魔法も使っている。急に人間が現れたらビックリさせちゃうからね。隠蔽魔法を解いて正面の扉を開けて中に入る。


「ただいまー!」


 玄関ホールで私が帰宅を告げると年配の男性と女性がホールにやってきた。


「「お帰りなさいませ、お嬢様」」


「ディラン、マーサ、一週間ぶりね!変わりはない?」


「はい。皆変わりなく過ごしてますよ。さぁ中でお茶にしましょう。」


「ディランの淹れてくれるお茶が恋しかったのよ。早く飲みたいわ」


「お嬢様、私が作ったケーキもありますよ」


「マーサ手作りのケーキ!楽しみだわ!それじゃあ早く行きましょう!」



 さて、ここは私が活動するための拠点にしている屋敷だ。冒険者リア、魔道具師コーリア、ローザ商会会長マリアとして活動している私は多忙だ。ブルー家の離れだと人を入れるのが難しいので拠点としてこの屋敷を買ったのだ。屋敷を買ってからは基本的にこちらで生活していた。私が離れに居なくても誰も気付かないだろうし、念のため魔法で分身を作って置いてきていたのでバレることはなかった。ちなみにこの屋敷に住んでいる者は私の正体を知っている。正真正銘ここが私の家であり、住んでいる皆が家族である。ディランとマーサも私の家族だ。二人は元々亡き母の執事と侍女としてこの国にやってきた。そしてなんと母は大国であるパレット帝国の皇女だったのだ。昔父が帝国に留学していて、その時に出会いお互いに恋に落ちたのだとか。そして結婚して兄と私を産んだというわけだ。

 私には帝国の皇家の血が流れている。それを知った時にあぁ、だから陛下は私を王太子の婚約者にしたかったのかと納得した。家族から蔑ろにされていても帝国の王族の血が流れている私の使い道は色々あったんだろう。まぁこれからも婚約者になることは絶対に無いが。

 母が亡くなってからも幼い私の面倒を見てくれていたのもこの二人だ。ただ私が前世の記憶を思い出す前に父によって追い出されてしまっていたが。以前のダリアローズの記憶から二人は帝国に戻ってしまったと思っていたが、母の忘れ形見である私が心配で王国に残って見守っていてくれたのだ。定期的に会いに来てくれていたのだが父がさっさと追い返していたのだ。ちょうど本邸を探索している時にその話を聞いて本当に呆れてしまった。それで私が追い返された二人を何とか見つけ接触した結果が今だ。

 面倒を見てくれていたのはほんとに幼い頃だったからよくは覚えていなかったが、直感で行動してよかった!あの時の私ナイス!

 二人は私を抱き締めてくれた。前世でも今世でも家族に恵まれなかった私は嬉しくて泣いてしまったのを今でも覚えている。


 ちなみに二人にだけは前世の記憶のことを伝えてあるのだが、どうやら帝国では稀に不思議な力を持つ者が現れるそうで、前世の記憶を持っている私のこともすんなり受け入れてもらえた。


 それからは二人の家に頻繁に通った。ちなみに二人は夫婦である。私のことを孫の様に可愛がってくれたし、マナーや教養なども身に付けさせてくれた。さすが皇女に仕えていた執事と侍女なだけあってなかなか厳しかったが。今の私があるのはこの二人のおかげといっても過言ではない。お金を貯めて屋敷を買ってからは一緒に暮らしている。


「ご馳走さまでした。はぁ、美味しかったぁ」


「それはよかったです。それでお嬢様、学園生活はいかがでしたか?」


「そうだった!美味しいお茶とケーキで今日が学園の休日だってこと忘れてたわ」


「ここはお嬢様の家なんですもの。ゆっくり休んでくださいな」


「ありがとう、マーサ。学園の寮は一人部屋で快適だけどみんながいないから少し寂しいなと思ってたの。でも私に友達ができたのよ!すごく可愛らしいしそれに加えて成績も優秀で努力家のとても良い子なの。治癒士になるのが目標なんですって。この子を商会にスカウトしたいなって考えているんだけどどうかしら?」


「お嬢様の判断にお任せしますよ。お嬢様の人を見る目は間違いありませんから」


「そうですよ。それにお嬢様の初めてのご友人ですもの。大歓迎ですよ」


「もう、二人とも私に甘すぎよ。でもそう言ってもらえて嬉しいわ。もう少ししたら彼女に話してみるわ。近いうちにこちらに連れてくるつもりだからその時はよろしくね」


「「かしこまりました」」


 その後も学園での話をしていると扉からノックの音と男の声が聞こえてきた。


「リア、俺だ。入ってもいいか?」


「あら、ジーク居たのね。どうぞ」


「失礼する。一週間ぶりだな。元気か?」


 そう言って部屋に入ってきたのは銀髪に紫色の瞳の男、ジークフリードだ。彼は私の剣の師でもあり、冒険者リアの相棒でもある。


「私は元気よ。ジークも元気そうで良かった」


「俺はリアが居なくて寂しかったぞ」


 普通は大の男がしゅんとしても可愛くないのだが、ジークだと可愛く見えるから不思議だ。

 ジークは帝国の貴族だ。なんでも昔から冒険者になりたくて家を飛びだしてきたのだそう。それでたまたま一緒に依頼をこなす機会があり、私は彼の剣の強さに圧倒されたのだ。剣を教えて欲しいとお願いしたところ、ジークも私の魔法が気になったようでお互いに教え合うことになったのだ。私はどうやら剣の才能もあったようですぐに習得してしまったが、ジークも天才だったようであっという間に私が教えた魔法を自分のものにしていった。そこから更に意気投合し仲良くなり、お互いの秘密を打ち明ける程の仲になった。ジークは帝国貴族の息子で、私は王国貴族の娘で実際は子供であると。まぁジークは所作からなんとなく貴族かなとは思っていたけどね。私の秘密(主に子供だということ)には相当驚いてたな。私の秘密を教えるのはまずいかなと思ったけど、自分の直感がジークは大丈夫だと告げていたのでその直感に従うことにしたのだ。


 私が八歳、ジークが十七歳の時の出会いだった。それから一緒に行動するようになって今に至るわけだ。


「一週間会わないだけで寂しいだなんてジークは私の恋人だったの?」


「こ、恋人っ!?えっ、いや…リアがよければ…」


「?何慌ててるの?恋人なんて冗談よ。ジークは私みたいな小娘に興味なんてないでしょう?世の中には素敵な女性がたくさん居るんだから恋人ができたらぜひ教えてね」


「…あぁ」


 ジークは寂しがり屋さんだったのね。長い付き合いだけど初めて知ったわ。ディランとマーサは知っていたようでジークを生暖かい目で見ている。ジークのことなら結構知っているつもりだったのでちょっと悔しい。


「休みの度になるべくこっちに帰ってきたいって思ってるんだけどいいかしら?」


「もちろんです」

「いいに決まってますよ」

「ほんとかっ!?」


 みんな快く受け入れてくれて何だか心が温かくなった。


「ありがとう、これからもよろしくね。…そういえば今日アンナは居ないの?」


「アンナは商会の方に行ってますよ」


「そうなのね。最近は会えてなかったから会えたらいいなと思ってたんだけど…。商会の仕事が忙しいのかしら?」


「当然ですよ!なんせローズ商会は王国御用達ですからね。まぁアンナは少し働きすぎなので休ませたいのですが本人が、『働いてないと死ぬ!』なんて言うもんですからなかなか休ませられないんですよ」


「仕事を頑張ってくれてるのは嬉しいけど体調管理も立派な仕事だから休ませないと。他の従業員にも示しがつかないしね。ディラン、アンナに私の次の休みの日は家に居るようにって伝えておいて」


「かしこまりました」


「ふふっ、またケーキを用意しておきますね」


「俺もその日は依頼を受けないでおくかな。…なるべくリアに会いたいし…」


「ジーク、それじゃ体が鈍っちゃわない?依頼があったら受けてくればいいのに。そんなんじゃまた私に負けちゃうわよ?」


「…リアになら負けてもいい」


「何?声が小さくて聞こえなかったけど?」


「っ!じ、じゃあ今度また手合わせしないか?」


「!そうね…確かに私も最近思いっきり体動かしてなかったしいいわよ。じゃあアンナと会った後でもいい?」


「もちろんだ」


「ふふっ、負けないからね?よし、それじゃあ私は自分の部屋で少し作業してから帰るわね」


 自分の部屋で商会の仕事をこなして寮に帰ってきた。寮に帰ると少し寂しく感じたが、家族に会って更に頑張ろうと思えた休日だった。

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