第4話

 初めての休日が終わってまた学園生活が始まった。


「ダリア様に一日会えないだけで寂しかったです!」


「ベルにそう言って貰えて嬉しいわ。ご家族はお元気だったかしら?」


「はい、みんな元気でした!たった一週間ですけど家が懐かしく感じました。ただ学園生活に馴れるか少し不安になってしまいましたが…」


「不安なのはみんな一緒よ。私だってそうよ?でもその不安の中でベルと友達になれて良かったわ」


「私こそダリア様とお友達になれて幸せです!一生分の幸せ使い果たしちゃったかもです!」


「ふふっ、それは大袈裟よ。でももし不安なことがあったら一人で悩まずに相談してね」


「ありがとうございます!」


 話しながら歩いていると今日の授業が行われる訓練場に着いた。今日は魔法科と騎士科の合同授業だ。なぜ合同授業なのかと言うと魔法士は近距離戦闘に弱く、騎士は遠距離戦闘に弱いからだ。普段はそれぞれの長所を生かした戦闘をすればいいだけなのだがそういかない場合もある。自衛出来る手段はたくさんあった方がいいということだ。ただお互いの長所を学ぶための授業なのだが、魔法士と騎士は仲が悪い。魔法士は魔法が、騎士は剣が最強だと思っているのでその卵である魔法科の生徒と騎士科の生徒も仲が悪い。全員が全員というわけではないが歴代どの学年も仲が悪かったとか。私としてはくだらなすぎて呆れてしまうが。お互いにプライドがあるからなんだろうが、魔法も剣もどちらも使えたほうが良いに決まってるのに。そんなことを思いながら目の前の光景を見ていた。


「なぜこんな軟弱な奴らと一緒に授業をしないといけないんだ!」


「はっ、それはこっちのセリフだ。こんな筋肉だけが取り柄の奴らと一緒だなんて信じられない」


「このメガネが!」


「この脳筋が!」


 訓練場のど真ん中でくだらない言い合いをしているのは赤い髪の男と緑の髪の男だ。緑の髪はもちろんマティアスだ。赤い髪の男は騎士科の生徒だろうなとよくよく見てみたら思い出した。


(あ、そういえば攻略対象だ)



 ――ランドルフ・レッド。

 赤い髪に赤い瞳の脳筋キャラだ。上級貴族レッド家の息子で父親は王宮騎士団の団長だ。とりあえず強いやつが好きで弱いやつは嫌いって設定だったかな?初めはアナベルを弱いやつと思っていたが、ある時魔物に襲われて危ない所をアナベルに助けられる。アナベルは震えながらもランドルフを懸命に守ったのだ。その姿を見てランドルフは本当の強さに気づきアナベルに惹かれていく…


(確かこんな感じだったかな?ゲームはただやってただけだからあんまり覚えてないんだよなぁ)


 とても上級貴族同士とは思えない言い争いが続いていたが、教師達がやってきたのでようやく授業が始まるだろう。そう思っていたらなぜか魔法科対騎士科の試合をすることに。どうやら毎年初めての合同授業はお互いの代表者同士で勝負をさせるそう。ひとまず勝敗を決めないと落ち着いて授業も出来ないのだとか。


(私が言えたことではないけど何のために学園に通っているんだか…)


 この場に居るのは私とアナベル以外は全員男子だ。私たちは巻き込まず勝手にやってくれと思っていたのになぜかクラス委員長が代表者に選ばれてしまった。騎士科の代表者はランドルフだ。脳筋ばかりの騎士科では一番賢いのだろう。文句を言っても仕方ないのでさっさとくだらない勝負を終わらせよう。


「ふん、相手が女だからって手加減しないぞ」


 最低だ。こんなやつが攻略対象でいいのか?アナベルが選ばないといいけどと思ってアナベルの方を見ると嫌悪感丸出しの表情をしていた。


「最低ですね。このような方達が騎士を目指しているなんて…」


「ほんとね。そもそも剣か魔法かなんてくだらない争いに巻き込まないでほしいわ」


「ダリア様がお怪我しないか心配です…」


「くだらなすぎるから早く終わらせてくるわ。大丈夫よ、実は私剣も得意なの」


 正体はバレると面倒なので隠していくが、私の力を隠すつもりはない。誰も私が変身魔法を使えるだなんて夢にも思っていないだろうしね。この力は九年の努力の証だ。

 代表者以外は訓練場の端にある見学席にいる。そこには私が作った結界の魔道具が設置されているので安全だ。私とランドルフが訓練場の中央で向かい合う。横目で見学席を見てみるとマティアスがニヤニヤしてこちらを見ていた。


(私が負ける姿が見たいのね。あれだけ剣より魔法が強いって騒いでたのに私が試合に負けても良いわけ?)


 思わず溜め息が零れてしまった。すると試合の判定をする教師から


「基本試合は何を使ってもいいです。ただ大怪我に繋がるような行為は禁止です。危険だと判断したら試合を止めますし、危険行為をした方が負けになります。では正々堂々勝負するように」


「魔法より剣が最強だって証明してやるよ」


「そう、じゃあ私も剣だけで攻撃してあげるわ」


「なっ!?」


「でも魔法科の私が勝っちゃったらごめんなさいね?」


「ふっ!俺を挑発しようとしたって無駄だ!後悔したって知らないからな」


「そっちこそ後悔しないでね。では先生始めましょう」


「…それでは、始めっ!」


「はぁぁぁあっ!」


 試合開始の合図と同時にランドルフが私に斬りかかってきた。私はそれをひらりと避ける。私が避けたことに驚いたようだか続けて攻撃してきたので剣で受け止めた。


(うーん、弱い。ゲームだとそんなに弱くなさそうだったんだけど…。まぁ実力も分かったことだしさっさと終わらそう)


 私は訓練用の剣でランドルフは愛用の剣だ。ランドルフと打ち合いを続けているが端から見れば圧倒的に私が不利な状況に見えるだろう。


「あれだけ言っていたのにこの程度かよ。弱すぎてつまらねぇ、なっ!」


「あら、ちょうど私もつまらないと思ってたところよ。じゃあ終わりにしましょう」


「はっ?」


 私は剣に魔力を纏わせ、自分に筋力を上げる魔法を掛け、剣を振った。すると受け止めたランドルフの剣が折れてしまった。


「なっ!?剣がっ!」


「はい、終わりよ」


 そう言ってランドルフの首に剣を突きつけた。


「っ終了!魔法科の勝ち!」


 先生が試合終了を合図したので剣をおろす。



「剣が折れてしまうなんて、あなたって弱いのね?」


「なんだと!?これはまぐれだ!」


「私の実力が信じられないの?信じられないならよく周りを見てみなさい」


「周りがなんだって…っ、お前!?」


「気づいて貰えて良かったわ。そう、私は試合が始まってから一歩も動かずにあなたの剣を折って勝ったって訳。これでもまぐれだなんて言うのかしら?」


「っつ…!だ、だが最後急に力が強くなった!何かしたんだろ!?」


「そりゃもちろん魔法を使いましたよ?剣と自分の体にね」


「剣しか使わないって言ってただろう!」


「剣だけで攻撃すると言ったんです。嘘は言ってませんよ?魔法で攻撃してませんからね」


「そ、そんなっ…」


「魔法か剣かどちらかだけが強いと決めつけるのはどうかと思うわよ。現に私はどちらも使ってあなたに勝ったんですからね。要は使い方です。それを理解できない限り、あなたは私に勝てないですよ。さぁ先生、試合も終わりましたし授業にしましょう。学園は学ぶための場所なんですからね、しっかり学んでいかないと」


 そう言ってマティアスを見ると悔しそうな顔をしていた。


(うん、ざまぁみろ!)



「くそっ…今の俺じゃあんたに勝てる気がしない…」


「そりゃそうよ。剣とか魔法とかってこだわっているうちはね。もう少し視野を広げてみることをお勧めするわ。さぁとりあえず今は授業を受けましょう」


「…分かった」


 意外と素直な性格をしているのが何だかおかしくて笑ってしまった。


「ふふっ、素直でよろしい」


「っ!…今さらなんだが名前を聞いても良いだろうか?」


「私の名前ですか?私って結構有名人らしいのでご存知なのかと思ってました。まぁ悪い意味での有名人ですけどね。では改めて、私はダリアローズ・ブルーと申します。これからも授業が一緒になると思いますのでよろしくお願いしますね」


「ブルー家の…。失礼な態度で申し訳なかった。こちらこそよろしく頼む」


「反省してくださるならそれで結構ですよ。では失礼します」


 見学席からアナベルが駆け寄ってきてくれた。


「ダリア様本当に素敵でした!私もあんな風にかっこよくなりたいです!」


「ありがとう。じゃあ授業をしっかり受けましょうね」


「はい!あ、あとで先ほどどんな魔法を使ったのか教えて貰えますか?」


「ふふっ、ほんとベルは勉強熱心ね。もちろんよ」


「えへへ、ありがとうございます!よしっ、まずは授業頑張ります!」


 そうして試合の後は特に争うこともなく無事に授業は終わったのだった。

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