第4話 CIA参上

 <ワンワンワン、ウーワンワンワン>


 数日後の夕方、外で飼い犬のゴンの吠える声がした。二人とも帰り支度をしていた時だった。

 普段はほとんど吠えることのない犬なので、渡辺は不審に思い、窓を少し開け外を確かめた。

 ちなみに、ゴンは渡辺が拾ってきて最初の生体ワープの実験台にした生き物である。そのまま捨ててもよかったのだが、実験に貢献してくれた義理もあり、飼うことにした。ジュリーの娘カレンによくなついいている。

 まだ6時を回ったところだが、曇り空の下、あたりはすでに薄暗くなっていた。車が数台とまり、黒い人影が何人もうごめいている。

「おい、囲まれてるぞ」

 ジュリーに小声で伝えた。

「CIAか、トリックのオヤジの言ったこと本当だったんだわ」

 

 <コンコン>


 ドアをノックする音がした。

 二人は、抜け足差し足で、ある装置の台の上に立った。そう、あの改良型ワープ装置である。ジュリーが「女の敵」だとして倉庫に放り込んでいたあれだ。トリックの言葉を信じたわけではなかったが、とりあえず念のためということで、引っ張り出して充電しておいたのだ。

 男たちは、ドアを開けて入ってきた。

「なんだ、お前たちは」

 渡辺が叫んだ。

「何よ、あんたたちなんかに拉致らちされてたまるもんですか」

 ジュリーも金切声かなきりごえをあげた。

「いえ、拉致などとんでもない。交渉に来たんですよ」

 ディック・スモーラー・ジュニアが,揉み手をしながら近寄ってきた。

「お前らCIAだろ、そんな手にのる私たちじゃないわ」

 ジュリーはそう言うと、手を振ってバイバイをした。

 二人は、ディックの目の前で緑色のプラズマに包まれると、次の瞬間消え去った。


「今度のはすごい。本当にすごい。この目で見たよ。前のとは比べものにならない。まさにスタートレックの転送装置だ」

 ディック・スモーラーは大統領執務室にいた。ディックは、ボキャナンに見てきた事の一部始終を興奮して話した。話に脚色を付ける必要はなかった。ボキャナンも興奮した。

 スタートレックの大ファンだったこの男は、エンタープライズ号の転送装置にミスタースポックが立ち、現れ消えるシーンが何よりも好きだった。  

「ディック、俺も見たい。早くもってこい。二人も一緒だ。1億ドルだ。二人に1億ドルづつ出そう。安いもんだ。戦闘機2機分だ。たったの2億ドルで合衆国の将来は安泰だ。

「パキス・アメリカーナ、ブラボー!」

 そして、執務室から出ようとするディックに言った。

「いいかディック、いかついの何人も連れて行くから疑われるんだ。今度は一人で行けよ」

「イエッサー」  

 ディックは出て行った。

 駆け出しの下院議員の頃、よくパーティーで耳をがらせミスタースポックのものまねをして支持者を笑わせていたこの男は、誰もいなくなった執務室でミスタースポックのものまねをまた始めた。

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