第30話
「ん?カカポ、グズグズを呼んでこい」
「え?どうして?」
北の方角を見ていたレイラが俺にグズグズを呼ぶように言いつけた。
俺、今から告白しようと思ってたんですけど何でグズグズが出てくるの?
「龍がやって来たからだ。どうやらあの龍は決まった時間になると来るようだな」
「……レイラ、あの、その……」
俺はグズグズを呼びに行く前にレイラに想いを伝える事を決意した。
今伝えなかったら、多分これからも伝える事は無いと思ったからだ。
「どうした?何か言いたいのか?」
「この旅が終わったら、今度はレイラの仲間を探す旅に付いていっても良いか?」
俺はどうしても『好きだ』の一言が言えなくて、それだけ絞り出すように言った。
これでも最大限の勇気を出したのだけは分かって欲しい。
「……そうか、お前は私の旅に付いて来てくれるか。長い旅になるぞ?」
「どこまでも付いていくよ。例え、一生かかったとしても」
レイラが俺の想いに気付いてくれたかどうかは正直、自信が無い。
彼女が言葉通りの意味だと解釈してしまったら、俺はただのピエロだ。
「そんな事を言ってくれたのはお前だけだ。私は幸せものだな」
「……じゃあ俺、グズグズを呼んでくるよ」
俺は逃げるようにしてグズグズを呼ぶために走り出した。
グズグズは一体、どこで何をしているのだろう?早く見つかれば良いが。
「カカポさん、どうでした?」
「うわ!?そんなところに隠れてたのか?」
俺はグズグズが石碑の影から姿を現したからとても驚いた。
コイツどこかに行ったと思ったら、ずっとここで待ってたのか?
グズグズって本当は忍者とか暗殺者に向いてるんじゃ?
「レッサーデビルは隠れ潜むのが得意ですから。で、ちゃんと言えましたか?」
「勇気を振り絞ったけど、好きとは言ってない」
俺には好きの一言を言う勇気がどうしても出なかった。
好きと言っていたら、伝わったか伝わってないかなんて気にしなくてすむのに。
「でもそれに近い事は言ったんですよね?」
「一生付いていくって言った」
「結構、思い切った事を言いましたね?」
グズグズは目を丸くして、たいそう意外そうな顔をして俺を見ていた。
何その目?あきれてるの?感心してるの?
「そんな事よりグズグズ、龍が来たんだ。急いで準備しないと」
「もう、準備なら出来てます。後は乗るだけですから大丈夫です」
グズグズは俺がレイラに告白しようとしている間に、旅支度を終えていた。
これだけの荷物をたった一人でまとめるのは骨が折れた事だろう。
「気を遣わせたみたいで悪いなグズグズ。この礼はいつかするよ」
「気にしないで下さい。なんてことは無いただのお節介ですから」
グズグズはそう言うと俺の前を荷物を持って歩き出した。
普段は小さく見える彼の背中が今だけはやけに大きく見えた。
「グズグズ!」
「どうかしたんですか?カカポさん」
俺はグズグズの背中を叫ぶように呼び止めた。
何か言いたい事があったのでは無い。ただ、何かを言いたかっただけだ。
「絶対に進化の秘薬を手に入れような!?」
「もちろんですよ。どんな事があっても絶対に手に入れて見せます」
そう口にしたグズグズの表情を俺は何度か見た事があった。
時々彼は思い詰めたような、強い決意を固めたような表情をする。
俺はグズグズの後を追うように荷物を持ってレイラの元へ向かった。
「意外と早かったな。もう少しかかると思っていたぞ?」
「この素材で最後だからな!やる気も準備も万全だぜ!!」
「行きましょう!皆さん」
俺とグズグズが到着した時には、まだ龍は駅に来ていなかった。
グズグズがあらかじめ荷物をまとめておいてくれたおかげだ。
俺たちは余裕を持って龍に乗ることが出来た。
「龍の上って思ってた程、乗り心地悪くないですね?」
「蛇行さえしなければもっと乗りやすいのだがな」
龍は空中を飛んでいるから、ガタガタ揺れたりしなくて乗りやすかった。
龍に乗っていると、何だか昔見たアニメのワンシーンが頭をよぎってしまう。
「坊や良い子だ寝んねしな」
「何だ?その歌は?」
「元の世界で聞いてた歌だ。子供が龍に乗ってるんだ」
「子供が龍に乗りながら歌うのか?」
正確には子供が歌うのでは無い。子供が乗っている映像と一緒に歌が流れるだけだ。
アニメなんてレイラやグズグズに説明してもピンと来ないと思うし、何て言おう?
俺たちは龍にゆられながら南の高地を目指した。
俺たちが南の高地を目指して龍に乗っていると太陽が沈んだ。
辺りは星がきらめく夜空となり、見たことの無い星座が並んでいた。
「あの星はアレガだ。夏にしか見られない星で季節の訪れを告げる」
「……アレガ。変な名前の星だな?」
レイラが指さすひときわ明るい星アレガ。あれがアレガなんつって。
龍は夜も飛び続けているが、ちゃんと南に向かっているのだろうか?
「なあ、南ってこっちで良いのか?」
「はい、間違いありません。南六星に向かっているので」
「……『みなみろくせい』ってどれだ?」
元の世界には『北斗七星』と言う星々があったがこっちにはそんな物があるのか。
俺はレイラやグズグズから天体の話しを聞きながら南を目指した。
「カカポさん、あそこに見えるのが『フラクの町』です」
「って言う事はもう少しで駅に着くって事だな?本当に石碑の通りなんだな?」
俺は状況証拠のみで龍の行き先を推測したが、それは正しかったようだ。
って言う事は俺たちは便利な移動手段を知った事になる。
「降りるときは足下に気をつけろよ?グズグズはカカポが降ろしてやれ」
「分かってるよ。それくらい」
俺たちはフラクの町を見下ろせる丘の上に飛び降りる事にした。
なんせ龍はスピードを緩めてくれないから、本当に飛び降りるのだ。
「グズグズ、荷物はこれで全部か?」
「はい!後は僕たちが降りるだけです。カカポさん、お願いします!!」
「よし来た!!」
俺はグズグズを抱えると龍から飛び降りる体勢になった。
この龍、結構スピード出してるよ?ちょっと怖いんですけど?
「カカポ急げ!間に合わなくなるぞ!?」
「ええい、クソ!何とかなれ!!」
俺は意を決するとグズグズと一緒に飛び降りた。
それと同時に龍は丘から距離を取り始め、やがて夜の闇へと消えた。
幸い、俺もグズグズも怪我が無く無事に降りれた。
危うくバランスを崩してこけそうになったが、大丈夫だった。
「高齢者や怪我人には無理だな。あの龍は」
「カカポさんレイラさん、見て下さい。石碑です」
グズグズに言われて見るとそこには見た事があるような石碑が置いてあった。
グズグズによれば、そこには『フラク前』と刻まれているらしい。
「へっくし!寒いな?ここは」
「カカポさんが生まれた黒の森は亜熱帯気候ですからね。寒く感じるかも知れません」
そう説明するグズグズは平然としている。
いつも通り、靴とズボンだけはいて上半身はほぼ裸だ。
「逆にグズグズからしたらこれくらいは平気なのか?」
「はい、これくらい乾燥してて涼しい方がしっくり来ます」
グズグズが生まれ育ったのは一年中寒い北の高山だ。
そんなグズグズにとってこれくらいの寒さはむしろ慣れたものなのだろう。
「レイラはどうだ?寒くないか?」
「普通のエルフなら寒いと感じるだろうが、ダークエルフには問題ないな」
エルフ族は温暖な森に住む種族だから寒さに弱いのだそうだ。
だが、その亜種であるダークエルフは寒さに強いのだと彼女は言った。
「じゃあ、この中で寒がってるのは俺一人って事か?」
「オークは元々寒さには弱い種族だからな。仕方あるまい」
寒さに強い二人に対して、オーク族の俺にとってこの寒さは堪えるものだった。
オーク族は暑さや毒には強い一方、寒さや飢餓にはめっぽう弱いのだという。
「そうなのか?俺、オークの事とか全然知らないから……」
「カカポさん、これを着て下さい」
グズグズは獣の毛皮を俺に手渡してくれた。
頭のてっぺんから足まで俺は毛皮で覆われる事となった。
「どうだ?少しは温かくなったか?」
「……寒くは無いんだけど……熊みたいに見えないか?」
毛皮に覆われた身長二メートルもあるオークは端から見たら熊のようだった。
この格好で歩き回ってたら、猟師に撃ち殺されたりしない?
「ああ、見えるぞ?熊そっくりだ」
「ちょっと!ちょっとだけですよ?」
グズグズは俺をフォローしてくれたが、多分レイラの感想の方が正しい。
熊そっくりになった俺が二人の背後を歩くのは止めた方が良いかも知れない。
「もう、夜遅いけどこれからどうするんだ?」
「どこかで今日は一夜を明かそう。動くのは明日からだ」
「あそこに小屋がありますから空き家かどうか見てみましょう」
見ると、町にはレンガで出来た家がいくつも建っていた。
しかし、人が利用しているような様子は無く中は荒れていた。
フラクの町はもぬけの殻で廃墟同然になっていた。
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