第27話

「貴様は自分ばかりが特別な存在だと思っているようだが私たちも似たようなものだ」

「特別だなんてそんな事言ってねぇよ!ただ、俺はモンスターだから……」

「僕だって一応、モンスターなんですよ?亜人種扱いしてもらえません」

 俺は勝手に自分だけが変なヤツだと決め込んでいた。

 しかし、このパーティーの三人は全員特別な事情を抱えていた。

 だから三人全員が町や村を始め、人里に近寄れないのだ。

「これで分かったか?私たちは何もお前の為に町を迂回している訳では無い」

「僕たちは全員、町に近付きたくないんです。自分たちそれぞれの理由で」

「……ごめん」

 俺は自分の勝手な思い上がりを恥じた。

 レイラやグズグズに気を遣わせていると勘違いしとんでもない事を言ってしまった。

 俺たちは三人で支え合っているし、三人とも変なヤツなのだ。

「分かればそれで良い。貴様は世間を知らなすぎるからな」

「それじゃあ、気を取り直して迂回ルートを探しますね?」

「……なあ、アレ何だ?」

 俺はグズグたちの見ている方向と逆方向を指さした。

 俺が指さした『それ』はぐねぐねしながら空を飛んでいるように見える。

 それは波を描きながらこっちへと近付いてくる。何だアレ?

「生き物みたいですね?あんなのは見たことが無いです」

「いや、私は見た事は無いが聞いた事がある。あれは龍だ」

「龍?この世界にはドラゴンと龍が居るのか!?」

 俺はあまりの出来事に驚いた。普通、ドラゴンと龍は混同されるからだ。

 確かに、正確にはドラゴンと龍は別物だが同じ世界に登場する事はまず無い。

 龍はみるみる内に俺たちの方へと近付いてくる。

「アイツでかいぞ!?」

「隠れましょう!」

「隠れるって何処に隠れる!?」

 俺たちは近付く龍にあたふたしていた。そして、遂に龍は目と鼻の先に現れた。

 体長はおよそ二十メートルくらいだろうか?見た目は龍そのものだった。

 それが俺たちの目の前をゆったりと宙を泳いでいる。

「……何もしてこないぞ?」

「何なんでしょう?この龍は?」

「私も龍を見たのは生まれて初めてだから何が何やら……」

 呆然としている俺たちの前を龍は優雅に泳ぎ去った。


「……行っちゃったな。龍」

「南の方へと飛んでいきますね?」

「アレは何なのだ?意図がつかめん」

 俺たちはしばし、呆然と龍を眺めていた。本物の龍なんて見たのは初めてだった。

 だがそれ以上に龍がなぜわざわざ俺たちの方へ近付いて来たのかが分からなかった。

 考えても答えは出ず、俺たちは仕方なくその場にテントを張った。

「さてと、今日は俺が料理する番だな?」

「何か手伝える事はあるか?」

「そうだなぁ……それじゃあ、魚をおろすのを手伝ってくれ」

 俺はレイラに川魚を捌いて貰う事にした。今日は魚の塩焼きにしようと思う。

 森では果物ばかりかじっていた俺には前世の料理しか作れない。

 それでも評判は悪くなく、二人ともおいしそうに食べてくれる。

「レイラはあの龍、何だったと思う?」

「私も色々と考えてはいるがあんなのは見たことも聞いたことも無い」

「グズグズも何も知らないって言ってるし、本当に謎の龍だな」

 俺とレイラはそんな会話をしながら夕飯のしたくを進めていった。

 しかし、俺には彼女の手つきが気になって仕方が無かった。

「……レイラ、そんな包丁の持ち方してると怪我するぞ?」

「う、うるさい!この包丁が切れないのが悪いのだろうが!!」

 レイラはさっきからおぼつかない手つきで魚を捌いていく。

 魚はズタズタになり、とてもおいしそうには見えなかった。

 仕方ない、今日は焼き魚から魚の煮込み料理に変更しよう。

「ちょっと貸して見ろ。まず、レイラは包丁の握り方からして良くない」

 俺はレイラから包丁を受け取ると、使い方をレクチャーした。

 彼女の剣の腕は大したものだが、料理に関しては素人同然だった。

「ほら、俺がやったみたいに握って見ろ」

「こ、こうか?」

「人差し指の位置が悪いな。こっちだよ」

 レイラが包丁を握ると、なぜか人差し指が包丁の背に来ていた。

 外科で使うメスじゃないんだからそんな握り方じゃ力が伝わりにくい。

 俺はレイラの握り方を正そうとして、うっかり彼女の手に触れてしまった。

「あっ……えっと……」

「ん?どうした?」

 とまどう俺に彼女は不思議そうな顔をしていた。


「え?いや、何でも無いんだ」

 俺は誤魔化すようにレクチャーを続けた。心臓がいつもより早く脈打っていた。

 でも、悟られたくなかったから必死で平静を装った。

「で?次はどうすれば良い?」

「つ、次はレイラは包丁の持つ位置も少しおかしい」

 俺はレイラに指示を出して包丁の持ち方を教える事にした。

 また触れてしまったら、俺の想いが伝わってしまうようなそんな気がした。

「こうか?良く分からんぞ?」

「……え~っと、う~んと」

 なんて説明すれば良いんだ!?どういう言い方すればちゃんと伝わるんだ?

 自分の語彙力のなさをこんなに恨んだ事は今まで一度も無かった。

「カカポ?」

「ああもう!こうだよ!!」

 俺は意を決してレイラの手に触れた。生まれて初めて女の子の手に触れたのだ。

 ぶっちゃけ感触とか全然分からなかった。そんな余裕は何処にも無かった。

「こう!こうだよ!!」

「こうか?この状態で切れば良いのか?」

 レイラは俺に矯正された握り方のまま魚に包丁を入れようとして。

 しかし、俺はそこでもう一度レイラを止める事になった。

「そこからじゃ無いよ!先にこっちから包丁を入れるんだよ」

「そうなのか?たかが魚を捌くだけなのに色々と作法があるのだな?」

「当たり前じゃないか!?おいしく食べるためには工夫が要るんだよ」

 俺は開き直ってレイラの後ろに回り、彼女を両手をとって教えた。

 頭がしびれるようにジンジンして、心臓がかつて無いくらい脈打っていた。

 結果として、夕飯は大きく遅れ夕食から夜食になってしまった。

「グズグズ、遅くなってごめんな」

「カカポさん、レイラさん、僕もちょうど支度が出来ました」

「え?今が今までかかってたのか?」

 グズグズにはそんなに多くの用事を言いつけた覚えは無い。

 もう、とっくに支度を終えて食事を待っているだろうと思っていた。

 グズグズは一体、今まで何処で何をしていたのだろうか?

「カカポさん、レイラさん、食事の後でお二人に見せたい物があるんです」

「見せたい物?」

 俺たちは食事を終えると、グズグズに少し離れた一区画に案内された。


「何だ、この石碑は?」

 俺たちがグズグズに案内された先には四角い大きな石の塊が置かれていた。

 石には文字が刻まれ、人工的に加工されているのが分かった。

 ただし、この世界の語学に疎い俺には何が書かれているのか分からなかった。

「これには『ナヴィア前』って書かれてます」

「ナヴィア前?ナヴィアって何だ?」

「ナヴィアは私たちがさっき見ていた町の名前だ」

 つまりここはナヴィアと言う町の前にあるからナヴィア前なのだろう。

 だが、それではここはナヴィアの前にある何なのだろうか?

「ナヴィア前の前ってどう言う意味だと思う?」

「そこなんですよね。ナヴィアの近くにあるからナヴィア前なのは分かります」

「しかし、それでは前の意味が分からない」

 ここにわざわざ石碑があると言う事はここには意味があるのだろう。

 普通、山などに石碑がある時はその山の名前とかを刻むものだ。

 しかし、この石碑にはここの地名では無く『ナヴィア前』と刻まれている。

 つまり、ここに来る人にとってナヴィアが近くにある事が大切な情報なのだ。

「もうちょっと、この石碑を調べてみようぜ?」

「そうだな。これではあまりにも情報が少なすぎる」

「僕は周囲を調べてみますね」

 俺は石碑をグルッと回りながら調べた。しかし、調べるほどの事では無かった。

 なぜなら、石碑の裏にはほぼ答えがあったからだ。

「グズグズ、レイラ。ほとんど分かったぞ」

「何?本当か?」

「この石碑は何のために置いてあるんですか?」

 俺はレイラとグズグズを呼び集めると、自分の推論を披露した。

 この推論が正しかったら、あの龍の正体も説明できる。

「ここは駅なんだ」

「えき?駅とは何だ?」

「そうか、この世界には鉄道が走ってないんだったな。ごめん、説明するよ」

 前世では鉄道技術が発展していたから駅なんて言う単語はありふれたものだ。

 しかし、この世界での移動は馬や馬車での移動が一般的だ。

 地方によってはダチョウのような走る鳥に乗る文化もあるらしい。

 俺は二人にざっくりとだが、鉄道についての基礎知識を説明した。

 俺は鉄道に詳しくは無いが、ある程度の事なら教えられる。

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