第14話

 俺はこの三体のシェイドをどうやって倒すかを考えてみた。

 まず、戦力はあっちの方が上だろう。なぜなら実質二対三なのだから。

 そして、こいつらは他のシェイドとは違いコンビネーションで攻撃してくる。

 つまり、まともに戦ってもこちらに勝機は薄いと言う事だ。

「どうする?レイラ、グズグズ」

「見たところ、かなりの手練れのようだ。正面突破は無理だろうな」

「何か策が無いと勝てないと言う事ですね?」

 俺たちの考えは全員一致していた。だが、そこからどうする?

 状況的にはあっちに有利だし、具体的な対処法も思いつかない。

「何カ言ッテヤガルガ関係ナイゼ!」

 槍を構えたリエットが俺たちに突進してきた。

 そして、それに合わせるように戦鎚を持ったロジュリも俺たちに走り出した。

「ヤバい!!」

 こっちはまだ、何の案も浮かんでいないのに攻撃されたらひとたまりも無い。

 この闘技場の中には隠れられる場所も障害物も無いのだ。

「ゥワッ!」

「リエット!!」

 だが次の瞬間、リエットはまぶしい光を顔に当てられてひるんだ。

 レイラが陽光石の光をリエットの顔めがけて照射したのだ。

「貰った!!」

 そしてレイラはひるんだリエットの首にある鎧の隙間めがけて曲刀をないだ。

 このままリエットの首を落とせば、相手の戦力は大幅に下がる。

 だが、そうはならなかった。レイラの曲刀は剣によって防がれた。

「ミオ兄サン!」

「マッタク。ダカラ何回モ考エモ無ク突ッ込ムナト言ッテルダロウガ!!」

 ミオと呼ばれるリーダー格のシェイドの剣によってレイラの攻撃は防がれた。

 だが、今のやりとりで俺には見えてきたものがあった。

 それは三体のシェイドの役割分担だ。

 槍のリエットが突進し、戦鎚のロジュリが敵の隙を突く。

 そして、剣のミオが二人の隙をカバーする。

 三体がどう言う動きをするのかが分かれば、対処のしようもあると言うものだ。

「レイラ!グズグズ!!作戦が思いついた」

「何?作戦だと」

「何をすれば良いんですか?カカポさん」


「グズグズ、お前の力が必要だ!」

「僕の?僕に出来る事があるんですか?」

 俺はミオ、ロジュリ、リエットの三体に聞こえないように作戦を説明した。

 作戦と呼ぶほどのものでは無かったが、これに賭けるしか無い。

「どうだ?出来そうか?」

「……やってみます」

 俺の説明を聞いたグズグズは緊張の面持ちだった。

 この作戦の成否を決めるのはグズグズの活躍次第だからだ。

「レイラもこれでやれそうか?」

「この切羽詰まった状況ではそれで行くしか無いだろうな」

 レイラも俺の作戦を承認してくれた。後は上手く行く事を祈るだけだ。

 俺たちはわざと闘技場の壁際に追い詰められる事にした。

「何カコソコソ話シテヤガッタガ関係無イゼ!!」

「リエット、相手ハモウ逃ゲラレナイ。コレデ終ワラセルゾ!!」

 俺の予想通り、最初に槍のリエットが俺たちに突進してきた。

 そして、それにわずかに遅れて戦鎚のロジュリが攻撃を仕掛けてきた。

 剣のミオは攻撃には参加せず、いつでも二体のカバーに回れるように準備している。

「オラァ!!」

「でぇい!」

 俺はリエットの槍をギリギリでかわした。ただの突進なんて簡単によけられる。

 そんな俺にロジュリがハンマーを繰り出してきた。

「ふんっ!!」

 だが、パターンが分かっているならば対処も簡単だ。

 俺は愛用の大斧で戦鎚をガードした。ここまでは全て予想通りだ。

「レイラ!!」

「分かっている!」

 レイラは俺に戦鎚を防がれたロジュリに曲刀を突き込んだ。

 彼女の一撃は吸い込まれるように兜の隙間に狙いを定めていた。

 だが、やっぱりミオの剣によってレイラの反撃は防御されてしまった。

「……テメェ、何ガオカシイ?」

「いや、気にしないでくれ。あまりにも全部が予想通りに行ったものだから……」

「何?」

 俺の背中からグズグズが姿を現した。手にはピンポン球くらいの包みを持っていた。

 それは俺がここに来るまでに倒したシェイドからくすねたアイテムだった。


 それは今から、一時間くらい前の出来事だった。

「カカポ、倒したシェイドなんかどうするつもりだ?」

「ちょっと待ってくれ。何か使える物を持ってるかも知れない」

 ゲームでは倒した敵キャラからアイテムを取得するなんて良くある事だ。

 俺はその感覚で倒したシェイドの持ち物を漁っていた。

「何だ?これ」

「それは光玉と呼ばれる道具です」

「ひかりだま?」

 グズグズが光玉と教えてくれたアイテムはピンポン球くらいの大きさの包みだ。

 細く切った紙でぐるぐる巻きになってひもが付いていた。

「はい、そのひもを引き抜くと短い時間ですが強い光を発するんです」

「レイラの持ってきたライトみたいな道具って事か?」

 レイラはこの島に来る前に、懐中電灯のようなアイテムを作っていた。

 陽光石の粉末と薬剤が反応して光を出すアイテムだ。

「私の道具と原理としてはほぼ同じだが、用途が違う」

「じゃあ、これは何に使うんだ?」

 どっちも光を出すアイテムなら用途が違うなんて事は無いと思うのだが?

 この光玉とレイラの懐中電灯はどんな違いがあるのだろうか?

「どちらかと言えば戦闘用の道具だな」

「この光玉は道を照らす道具と言うより、相手の目をくらませる為の道具なんです」

 そこまで説明されて俺は理解した。このアイテムは閃光弾なのだ。

 強烈な光を出して、スタングレネードのように相手の視界を奪う。

 それがこのアイテムの使い方なのだ。


 そして、三体のシェイドに追い詰められている今に戻る。

「ソレハ、光玉!?」

「頼んだぞ!?グズグズ」

 俺の背中の隠れていたグズグズは俺の合図で光玉を発光させた。

 まるで昼間のようにまばゆい光がグズグズの手からあふれ、周囲の景色を照らす。

「目ガァァアア!目ガァァァアアア!!」

「何モ見エナイゾ!!」

 光玉の光をもろに浴びた三体のシェイドは目がくらんでしまった。

 俺たちはあらかじめ腕や手で目を保護していたから、大丈夫だった。

「三人とも、仲良くお寝んねしてな!!」


 とてもあっけない終わりだった。

 視力を失った三体のシェイドの首を落とすのに手間は必要なかった。

「……」

 俺は無残に転がったシェイドを見つめながら考えていた。

 こいつらは何のために夜顔を護っているのだろうと。

「カカポ、もう朝になるぞ?」

「行きましょう、カカポさん」

 俺はレイラとグズグズに呼ばれて闘技場から伸びる石段を登った。

 この先に夜顔の咲く花畑があるのだ。

「しかし、わざと追い詰められるなんてよく考えついたな」

「光玉を最大限有効に使おうと思っただけさ」

 珍しくレイラが俺を褒めてくれたからちょっとこそばゆい気持ちだった。

 俺はレイラに注意される事は多いが、褒められた事は滅多にない。

「三体に食らわせようとしたら後ろに回り込めないようにするのが一番だったんだ」

「後ろに回られては影が出来てしまうからな」

 もし、シェイドが俺たちの後ろに立っていたら光が届かない。

 なぜなら、俺やレイラが光を遮ってしまうからだ。

「だから賭けだったけど壁際に追い込まれるのが一番、効果的だったんだ」

「普段は私たちから教えて貰ってばかりだが、頭の回転は速いようだな」

 レイラは正直に感心している様子だった。

 普段のキツい顔つきが今はほんの少し和らいでいるように見える。

「二人とも、見えてきましたよ?」

「わぁ……これが夜顔か」

 俺はその光景に言葉を失った。視界一面に夜顔が咲いていた。

 夜顔は紫がかった色の花で形は朝顔や昼顔によく似ていた。

 それらがぼんやりと光を発して夜の闇を幻想的に照らしている。

「私も実物は初めて見たが、確かに美しい花だ」

「本当ですね。なんだかずっと見ていたいくらいです」

 俺たちは思わず、うっとりと夜顔を眺めていた。

 しかし太陽が昇って辺りを照らし始めた時、俺は我に返った。

「あ、そうだ!こんな事してる場合じゃ無い!!朝露を採らなくちゃ!!!」

「そうでした!カカポさん、容器を僕に下さい!!」

 俺は急いで朝露を入れるための小瓶をグズグズに手渡した。

 グズグズは繊細な手つきで夜顔の表面に付いた朝露を小瓶に移した。

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