第6話

「僕の材料集めを手伝ってくれるって事ですか?」

「そうさ。一緒に探した方がお互いに楽が出来るだろう?」

 俺の提案にデビルは少し迷っている様子で即答しなかった。

 まあ、確かに出会ったばかりの相手と協力するなんて難しいか。

「とりあえず、千年草を見つけるまで考えさせて下さい」

「それが良かろう。今すぐ返事をしろとは私も言わん」

 こうして、俺とエルフとデビルの一時的な協力体制が生まれた。

 それから俺たちは火山に生えると言われる千年草を探し始めた。

「ところで千年草ってどんな感じで生えてるんだ?」

 俺はエルフとデビルに千年草について尋ねてみた。

 火山に生えているだけでは探しようが無い。もう少し詳しい話しが聞きたかった。

「千年草は火口に生えるていると僕は聞いています」

「火口なんかに草が生えるのか?」

 火口に草が生えるなんてとにわかには信じられない話しだった。

 だってそんな場所に生えてたらすぐに枯れてしまいそうな気がするだろ?

「千年草は謎が多い草でなぜそんなところに生えるか分かっていないんです」

「面倒くさい草だなぁ」

 もっとこう湖の畔とかに生えれば良いのに何でこんな暑いところに生えるんだ?

 こんなところに生えても誰も受粉を手伝ってくれないぞ?

「二人とも、おしゃべりはそれくらいにしておけ?」

「どうしたんだよ、エルフ?」

 俺の問いにエルフは答えなかった。

 ただ、火口の中を指さしているだけだった。

「火口の中がどうかしたのか?」

「そっと覗け」

 俺はエルフに言われたとおり、そっと火口の中をのぞき込んだ。

 すると、火口の中に翼が生えた大きなトカゲのような生き物が居た。

「……ドラゴンだ」

「今はまだ眠っているようだがいつ起きるか分からん。慎重に行くぞ?」

 俺たちはドラゴンを起こさないように千年草を探すことにした。

 もし、ドラゴンが起きてしまったら俺たちはどうなるんだろう?

 そんな不安が頭を一瞬よぎったが、素材探しに集中することにした。

「お二人とも、あれを見て下さい」

 デビルが指さす先を見ると青い一輪の花が咲いていた。


「あれが千年草なのか?」

 俺はエルフとデビルに確認してみた。俺自身は千年草の事を知らなすぎるからだ。

 二人なら見た目くらい分かるだろう。

「……多分、あれが千年草です」

「他に生えてる植物も見当たらないし、おそらくあれがそうだろう」

 だが、デビルの回答もエルフの返事もいまいちスッキリしない。

 多分とかおそらくとか言ってるし、大丈夫だろうな?

「まさかとは思うが、二人とも千年草を見るのはこれが初めてとか?」

 俺は猛烈に嫌な予感がして溜まらず二人に訊いた。

 出来れば俺の杞憂、つまり心配のしすぎで終わって欲しかった。

「すみません。僕、千年草を見るのは初めてで……」

「私も実物を見るのはこれが初めてだ」

「マジか!?」

 つまり、二人とも千年草を知らないで探してたってのか!?

 冗談だろ!?そんないい加減な探し方って普通あるか!!?

 自分たちが探してる物を良く知らないのに探すなんてあり得ないだろ!!!?

「大丈夫だ。実物を見るのは初めてだが、特徴は良く知っている」

「僕も絵なら何度も見た事があります!」

 エルフもデビルもそうは言ってるがどれくらい頼りになるか分からない。

 調合してみたら素材が間違ってましたなんて笑い話にもならないぞ?

 この状況で一体、俺はどうしたら良いんだ?

「とにかくあれを持って帰るぞ?話しはそれからだ」

「麓で鑑定して貰えばきっとあれが千年草だって分かりますから」

 落胆する俺を差し置いてエルフとデビルはあの草を採る気だ。

「でもあの草、結構高いところに生えてるぞ?どうやって採るんだ?」

「レッサーデビルは飛べるのか?」

「すみません。僕らの種族は翼が退化して飛べないんです」

 デビルの背中には小さなコウモリのような翼が一組生えている。

 確かにデビルの言うとおり、飛ぶにはあまりにも小さい。

「じゃあ、こういうのはどうだ?」

 俺はブレーメンの音楽隊方式を二人に提案してみた。

 俺の上にエルフが乗り、エルフがデビルを持ち上げるのだ。

「どうだ?届きそうか?」

「あと、もう少しです」


 デビルは懸命に手を伸ばし、千年草を引っこ抜こうとしている。

 必要なのは根っこだから草だけ摘んでも意味が無いのだ。

「あ、届いた!」

 俺の体力が限界に達しようとした時、デビルの声が聞こえた。

 デビルが千年草を掴んだのだ。

「よし、そのまま慎重に引き抜け!オークもあと少しの辛抱だぞ!?」

「はい!」

「分かってるよ!」

 千年草が手に入れば念願のイケメンに一歩近付くことが出来る。

 それを思うだけで疲れ果てた俺の身体に活力がわいてきた。

「せーのっ!」

 デビルが見事に千年草を引き抜いたのだ。

 後はこれを持ってこんなクソ暑い山を降りればおしまいだ。

 そう思った時だった。

「きゃぁぁぁあああ!!!」

 突然、俺の頭上から女の悲鳴が響いたから驚いた。

 俺はてっきり、エルフに何かあったのかと思い頭上を見た。

「どうした!?エルフ!」

「いや、私では無い!!草が泣いている!!!」

 なんと悲鳴の正体は引っこ抜かれた千年草だったのだ。

 千年草はマンドラゴラのように引っこ抜かれると鳴き声をあげる植物だったのだ。

「きゃぁぁぁあああ!!!」

「デビル!草を黙らせろ!!こんな大きな声を上げられたら……」

 ドラゴンに聞かれちゃうじゃないかと言いかけて俺は背後からの視線に気が付いた。

 振り向くとそこには金色の巨大な二つの瞳が俺たちを睨んでいた。

「ドラゴンだぁぁぁあああ!!!」

 俺たちは息の合ったコンビネーションで分離すると一目散に逃げ出した。

 一瞬逃げるのが遅れていたら、俺たちは火炎の吐息で消し炭になっていた。

「どうすんだよ!?」

「ドラゴンと戦っても勝ち目が無い!とにかく逃げるぞ!!」

 俺たちは千年草を握りしめたまま逃げ出した。

 どこまで逃げれば安全かなんて見当も付かなかったがとにかく逃げた。

 しかし、ドラゴンは執拗なまでに俺たちを追い続けてくる。

 千年草がドラゴンを呼んでいるのだ。


 どこまで逃げても千年草の悲鳴がドラゴンに居場所を教えていた。

 このままじゃいずれ俺たちの体力が尽きてドラゴンに灰にされてしまう。

「どうする!?千年草を捨てるか?」

 俺は生き残るにはそれしか無いと思い始めていた。

 元々、イケメンになるために薬を求めていたのだから三人の命には代えられない。

「嫌です!僕には進化の秘薬が必要なんです!!」

「コイツの言うとおりだ。ここで諦めたら何のためにここまで来たと言うのだ!?」

 しかし、デビルもエルフも進化の秘薬を諦めたくないようだった。

 こいつらは何のために薬を必要としてるんだ?

「じゃあ、どうすんだよ?このままじゃあ焼き殺されちまうぞ?」

「千年草に土を被せてみるのはどうですか?」

 デビルの案は千年草を鉢植えにして黙らせる案だった。

 俺たちは各自、持ち物を漁って植木鉢の代わりになりそうな物を探した。

「これでどうだ!?」

 俺はその辺りに転がっていた髑髏を鉢植えにしてみた。

 見た目は完全にホラーだったが、この急場にそんな事は言ってられない。

「……ゴクッ」

「……」

 その様子を見たエルフもデビルも言葉を失っている。

 まあ、普通こんな罰当たりなこと考えないし思いついてもやらないからな。

「……」

 しかし、効果はちゃんとあった。

 頭蓋骨に収まった千年草は悲鳴を上げるのを止めたのだ。

「よしっ!何とかなった」

「これで一安心ですね?」

「それは貴様が持てよ?オーク」

 これでドラゴンは追ってこないはずだし、後はこの千年草を持って帰れば良い。

 ただ、しゃれこうべを大事そうに抱えて歩く俺たちは異様な雰囲気だった。

「これで秘薬の素材の一つ目が手に入ったわけだな?」

「秘薬の材料は全てで四種類あるから残りは三つだ」

「二人が居て本当に助かりました!」

 俺たちは火山から脱出すると水場を探してから野宿することにした。

 千年草を入れた不気味な髑髏の鉢植えは俺の脇に置かれた。

 そんなに嫌がることは無いんじゃないかな?

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