第85話 聖獣と氷の大精霊との契約

「元気になっても、油断しちゃ駄目だよ? しばらくはゆっくりしてね?」

「がうがう」「ぐおぐお」「ごろろ」

「嫌な気配がしているでしょ? 多分そのせいで、回復も遅いと思うんだ」

「がうぅ」「ぐおお」「ごろ」


 その様子を見ていた氷の大精霊が呟いた。


『皆、けして弱くないのに……。苦戦すると思っていたのに……なんと……』

「氷の大精霊さん。タロなら氷竜の王より強そう?」


 改めてミナトは尋ねた。


『はい。明らかに』

「……臣下として、言うべきではないかもだが、我が王より強い」


 レックスもぼそっと呟いた。


「じゃあ、タロ。氷竜の王を助けに行こうね!」

「わふっ!」


 タロは力強く「まかせて」と吠えた。


「恩に着る。サラキア様の使徒様。そして至高神の神獣様」

「ミナトとタロって呼んで」「わふっ!」

「だが……」

「いいから! 口調もいままでどおりでね!」「ばう!」

「わかった。ミナト様。タロ様」


 そんなレックスの顔を、タロはベロベロと舐めた。

 ミナトは周囲にいる聖獣たちを撫でながら見回す。


 だいたい、みんなほっとして甘えている。だが一頭だけ険しい雰囲気の虎がいた。


「……みんな、他に呪われている聖獣はいるの?」

「がう」「ぐるる」

「そっか、いないんだね。じゃあ、何が心配なの?」


 ミナトが険しい雰囲気の虎に尋ねると、その虎はミナトの手をペロペロ舐めた。


「きゅーん」

「え? 妹がはぐれちゃったの?」

「がぁぅ~」

「呪われてはいないんだ。ううむ。山の方に行っちゃったの?」

「がるる」

「それは大変だ。でも安心して。助けてくるからね」「わうわふ」

「がう~」

「ついてきたいの? でも、僕たちにまかせて。その方が早いからここで待ってて」


 ミナトは心配で付いていきたいという虎をなだめる。

 虎は神級レトル薬で元気になったとはいえ、病み上がりの状態なのだ。


 虎の聖獣との会話が一区切り付いたところで、ジルベルトが尋ねた。


「つまりどういうことだ?」

「えっとね。この子の妹の子虎が山に行っちゃったんだって」

「何でまた山に? こっちより環境は厳しいだろ」

「お姉ちゃんが呪われたから、氷竜の王に助けてくれって言いにいったんだって」


 聖獣たちが呪者に襲われたとき、まだ赤ちゃんだった子虎は姉によって隠されて無事だった。

 一頭だけ無事だった子虎は、姉たちを救う為、氷竜の王の助力を求めて山に登った。

 子虎は氷竜の王が呪われていることを知らなかったのだ。


「……無謀です。命がけじゃないですか」


 アニエスがぼそっと呟くと、


「……勇気があるです」

 子虎が向かったという、コリンが氷竜の王の住まう山をじっと見つめて呟いた。


「そだね。助けないとね。急がないと!」

「ばう!」

「あ、そうだね。その前にみんなと契約していい?」

「がうがう」「ぐるる~」


 ミナトは熊六頭と虎七頭と契約を済ませる。

 虎も熊も番号が気に入ったらしく、熊四号とか虎一号みたいな名前になった。


「氷の大精霊さんも、僕と契約してくれる?」

『もちろん、お願いします。ですが……名前は号じゃないほうが……』

「そっかー。どういうのがいい?」

『ミナト様が考えてくださった名前で号系じゃなければ……なんでも……』


 ミナトに考えさせたら氷一号とかになる。

 だが、号は嫌だと氷の大精霊がいうので、ミナトは悩んだ。


「うーんうーん」

「わふ~わふ~」

「ん? なるほど? たしかに冷たいもんね。タロは頭が良いね!」

「わふ!」

『えっと、ミナト様、タロ様、私の名前が決まったのですか?』

「うん。モナカってどうかな?」「わふわふ」

『モナカですか? よい響きですが、どういう意味でしょう?』

「アイスっていう、冷たくて美味しいお菓子で、僕とタロが気に入ってるんだ」

『それはすばらしい!』


 そういうことで、氷の大精霊の名前はモナカとなった。

 モナカ、つまり最中は別に最中アイスだけを指す言葉ではない。


 昔からある茶色い皮であんこなどを包んだ甘いお菓子だ。

 むしろ冷たい最中は主流の定番とは異なっている。

 だが、ミナトが食べたことのある最中はアイスと小豆の入った最中アイスだけだったのだ。


 前世のミナトが小学生の頃、母親の恋人が気まぐれに最中アイスを買ってくれた。

 それをミナトはタロとわけて食べて、とても美味しかった。

 それ以来、ミナトとタロにとって、最中とは最中アイスのことだった。


「じゃあ、君の名はモナカ! よろしくね!」


 そうして、ミナトは氷の大精霊モナカとの契約を済ませたのだった。

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