第80話 ノースエンドの冒険者ギルド

 簡単な話し合いを済ませると、ジルベルトが立ち上がる。


「よし、ミナト。冒険者ギルドに行くぞ」

「おおー、登録する?」

「登録は王都でもうしただろ? あれは大陸共通だからな」

「おおー、そういえばそうだったかも? じゃあなんで?」

「情報収集だ。サーニャは出発の準備を頼む」

「仕方ないわね。まかせて」


 そして、ミナトたちはジルベルトと一緒に冒険者ギルドに向かった。


「冒険者ギルドは初めてです。緊張するですね」

「お、そうなのか? ならコリンも登録しておくか?」

「できるです?」

「もちろんだ」


 冒険者として登録できると聞いて、コリンの尻尾は元気に揺れた。

 ジルベルトを先頭にミナトたちは冒険者ギルドに向けて歩いていく。


 やはりタロは大きいので注目されていた。

 冒険者ギルドの建物は神殿から五分ほど歩いたところに建っていた。


「き、緊張するです」

「そんなに気を張るな。手続きは簡単に終わる。ま、俺に任せ――」


 緊張しているコリンにジルベルトが優しく声をかけている横で、

「こんにちはー!」「わふわふ!」「ぴ~」「ぴぎっぴぎっ」

 ミナトたちが、元気に挨拶しながら入っていった。


 冒険者ギルドの入り口は、数人が従魔と一緒に出入りできるように大きく作られている。

 だから、タロも入ることができるのだ。

 それでも、タロの大きさは従魔としても規格外だ。


「魔物!」「ひぃっ」


 中にいた冒険者たちが、タロを見て一斉に身構える。

 そんな冒険者たちに向けて、ミナトは右手の平をびしっと向ける。


「だいじょうぶ! タロはかわいい犬だからね!」「わふ~」

「犬って無理があるだろ!」

「犬だよ! 従魔登録もしているし」

「わふぅ~」


 タロも堂々と胸を張って尻尾を振っている。

 そんなミナトのもとに恐る恐るといった様子で、職員がやってくる。


「あの、従魔登録されているということですが、冒険者カードを拝見しても?」

「はい! どうぞ!」「わふ~」


 ミナトは冒険者カードを提示する。

 そこにはタロ、ピッピ、フルフルが従魔として登録されていることが明記されている。


「ほ、ほんとだ。冒険者登録されてますね。従魔のタロも犬になってる」

「でしょ~。かわいいでしょ」


 ミナトはタロのあごの下をワシワシと撫でる。


「わふふ」


 タロは気持ちよさそうに、目をつぶって、尻尾を振っている。


「……かわいい」


 冒険者の一人がボソッとつぶやいた。

 タロは巨大なので、ぱっと見は恐ろしく感じる場合もある。

 だが、落ち着いてみれば優しそうな顔をしているし、もふもふでとても可愛いのだ。


「従魔は全部で三頭、いえ、一頭と一羽と一匹?」

「そう!」

「えっと肩にとまっているのがピッピで、タロの頭の上にいるのがフルフルですね?」

「そう! 鳥のピッピとスライムのフルフル!」

「ぴぃぴぃ」「ぴぎぎ~」


 ピッピとフルフルを登録したのは一緒に来てくれることになった後だ。

 つまり王都を出立する前日のことである。


「はい、確認が取れました。問題ありません。ノースエンドの冒険者ギルドにようこそ」

「ありがと!」「わふわふ!」「ぴぃ~」「ぴぎぎ」


 そのやり取りを見ていたジルベルトがボソッといった。


「ミナトは五歳なのにしっかりしているなぁ」

「そかな?」「わふふ」

 タロは「ミナトはすごい」と、自分のことのように誇らしげに尻尾を揺らす。


「僕も頑張るです」

「まあ、ミナトは特別だからな。普通はもっと緊張するもんだ。まずは登録だな」

「はいです!」

「がんばってー」「わふ~」


 ミナトとタロに応援されながら、ジルベルトとコリンは登録に向かった。


「ぴぃ~」「ぴぎ?」


 ピッピとフルフルは「心配だなぁ」みたいなことを言いながらコリンの後を追う。


 どうやら、ピッピとフルフルはコリンのことを弟分だと認識しているようだった。

 群れに後から入って来た幼い子供だから、面倒を見てあげようと思っているらしい。

 ミナトとタロはコリンを見送って、依頼の貼られた掲示板の方へと移動する。


「どんなのあるかな~」

「わふぅ」

「下水道は嫌なの? タロ入れないもんね」

「わふ~」


 そんなことを話していると、奥にいた冒険者がミナトに声をかけた。


「坊主、そんな小さいのに冒険者やってるのか?」


 それは四十代ぐらいに見える冒険者だ。他の冒険者より二回りも大きいし目立っていた。

 身長は二メートル近いしスキンヘッドだ。

 魔獣の爪につけられたのか、顔の左側に深い傷痕が縦に三本ついている。


「そうだよ!」「わふ~」

「いや、そっちの犬はまったく小さくないだろ」

「おじさん、タロの言葉がわかるの?」


 ミナトは目を輝かせて、その冒険者に駆け寄った。


「いや、わからんが。なんとなくどや顔しているように見えたからな」

「そっかー。びっくりした~」「わふふ~」


 そんなミナトに他の冒険者が驚いて様子で言う。


「坊主、レックスが怖くないのか?」


 どうやら、そのでかい冒険者はレックスというらしい。


「レックスっていうの? 僕ミナト! こっちはタロ!」

「わふわふ」

「ああ、それは職員との会話を聞いていたから知ってるよ、レックスだ。よろしく」


 そういって、レックスはミナトに大きな手を出しだした。


「よろしく!」「わふわふ!」


 ミナトは、レックスの大きな手を、小さな手で握る。

 そして、タロはレックスの手を匂いをふんふんと嗅いだ。


「子供なのに、レックスのことを本当に怖がっていないんだな」


 近くにいた冒険者が感心した様子で、改めて言う。


「なんでこわがるの? でかいから? タロの方がでかいよ?」

「ばふぅ」


 タロは褒められたと思って自慢げだ。


「でかいのもそうだが、顔が怖いだろ。普通の子供は近づくだけで泣き出すぞ」

「うるせえ、ほっとけ」


 レックスは苦笑する。


「んー? 全然怖くないよ?」

 ミナトは首をかしげて、

「わふわふっ」

 タロはそのレックスの顔をベロベロなめた。


「なんかわからんが、このでかい犬に俺の方が強いって言われている気がするんだがな?」

「わふ~?」


 タロはレックスの目を見つめて首をかしげる。


「…………可愛いな」

「なでていいよ! みんなもタロをなでてあげて!」

「おお、いいのか?」「ちょっと撫でたかったんだ」


 冒険者たちが集まってきて、タロのことをモフモフし始めた。


「もっと強くてもいいよ!」

「おお? こんなかんじか?」

「そうそう! あと、タロは背中を撫でられるのも好き」

「背中な、こうか!」「撫でられるのが嫌な場所は?」

「わふ~わふっ!」

「きんたまだって!」

「お、おう。そうだな? 俺も金玉いじられたら嫌だぞ」

「わふわふ!」

「レックス一緒だねだって!」


 そんな感じで、あっという間にミナトとタロは冒険者たちと仲良くなった。

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