第79話 ノースエンドの神殿
ノースエンドの至高神神殿は街の北の端に建っていた。
「おおー。りっぱだねえ!」
「ぴぎっ」
「そうだね、王都の神殿よりは小さいね」
王都の神殿と同様に正方形の敷地の中に建っている。
だが、一辺の長さは、王都の神殿の半分ぐらい、つまり五百メートルぐらい。
それに壁の高さも王都の神殿の半分ぐらい、つまり一・五メートルぐらいだった。
「でも、じゅうぶんおおきいと思うよ」
「ぴぎ~ぴぎっ」
フルフルは、リッキーが直接治める王都が大好きなので、他の街の評価が厳しくなるのだ。
神殿に到着すると、神殿長自らがすぐにやってきた。
もちろん、聖女アニエスを出迎えるためだ。
「聖女様。ようこそおいでくださいました」
「ありがとうございます。実は……」
アニエスは、真っ先にコボルトたちの受け入れについて話し合いを始めた。
「た、立ち話も何なので……と」
少し神殿長が引き気味に中に案内するまで、五分ぐらいアニエスは話し続けた。
アニエスとマルセル、ヘクトルがコボルトたちを連れて神殿の中に入っていく。
そんなアニエスの背にジルベルトが声をかける。
「聖女様。俺たちは聖獣の方を調べておく」
「お願いしますね。ジルベルト、サーニャ」
「ああ、任せろ。ミナト、ついてこい」「こっちはまかせて」
そういって、ジルベルトとサーニャは歩きだす。
ミナト、タロ、ピッピとフルフル、それにコリンはついていく。
「どこで調べるの?」「わふ~」
「まずは神官たちから話を聞こう。聖獣と精霊について調査をお願いしてあるからな」
王都の神殿から各地の神殿へ、聖女と神殿長の連名で各地に調査をお願いしてある。
リッキーこと、リチャード王もそれとは別に協力を願う手紙を送ってくれている。
その結果、この地域に暴れている聖獣がいると報せてくれたのだ。
「どんな聖獣なんだろ。暴れてるってどんなかんじなのかな?」「わふ~」
「一応軽くは聞いてあるが、それを詳しく聞いてみないとな」
「それに、王都からここに来るまでに状況が変わっているかもだしね」
ジルベルトとサーニャはそう言って、近くにいた神官に声をかける。
「お忙しいところすみません。聖女アニエスの使いなのですが――」
「聖女様の! 何でも聞いてください!」
聖女の威光はとても効果的だった。
どの神官も丁寧に自分の知っていることを教えてくれる。
「……というわけで。はい、被害は拡大傾向にあって……。あの……」
「どうしましたか?」
「この子は?」
ジルベルトの横でニコニコしているミナトのことを尋ねる神官も多かった。
「ミナトです! この子はタロで、こっちはコリンと、ピッピとフルフルです!」
「わふわふ」「よろしくです」「ぴい~」「ぴぎっ」
「自己紹介できて偉いねぇ」
そういって、神官たちはミナトの頭を撫でてくれる。
タロについては、神官たちはあまり聞いてこなかった。
それが不思議でミナトは思い切って尋ねた。
「あの! タロにびっくりしないの?」「わふ~?」
「ああ。それはびっくりしましたよ。ここまで大きいのかって。でも有名ですから」
「タロ、ゆうめいなの?」「わふふ?」
「ええ、聖女様が巨大なお犬様の聖獣を連れているって」
ミナトとタロは王都にしばらく滞在していたので、目撃されることが多かった。
ちっちゃなミナトはともかく、でっかいタロはとにかく目立つし、噂になりやすい。
そのため、ノースエンドの神殿まで、タロの噂は届いていたらしい。
「そっかー。タロは有名犬だね!」
「わふふ」
タロは照れて尻尾を振った。
そんな雑談を交えながら、神殿で一時間ほど情報収集した。
情報収集を終えると、ひとまず聖女一行に与えられた部屋へと戻る。
情報収集の途中で、神殿長の使いが部屋の用意ができたと教えてくれたのだ。
「……暴れている聖獣は熊と虎か」
「熊も虎も強いからね。暴れたら厄介だよね」
「それが確認されているだけで、それぞれ五頭以上か。本当に厄介だな」
被害は拡大傾向にある。
当初は木の実採りや山菜採り、狩猟のために山に入った者が襲われたらしい。
「ここ三日ほどは近隣の村にも被害がでているのか」
「どんどん活動範囲を広げているわね」
「……理性を失いつつあるのかもな。近いうちに死者が出る可能性もある」
これまでけが人は出ていても死者は出ていない。
それはかろうじて、聖獣熊と虎に理性が残っているからだと考えられた。
「そういえば、山は竜の国なのに、村人は入ってるの?」「わふぅ~?」
ミナトが尋ねると、タロも首をかしげる。
山は竜の国、ファラルド王国とは違う国、つまり国外なのだ。
「国境線が引かれているわけではないからな。山近くの村の住人はそりゃ入るさ」
「竜は怒らない?」「わふわふ?」
「そのぐらいでは怒らないわ。そもそも竜にとって、人は雀やリスと大差ないの」
サーニャが丁寧に説明する。
竜にとっては、人も雀もリスも等しく小動物に過ぎない。
人にとっての狐と狸の違いぐらいの差しかない。
「もちろん、その小動物がやりすぎたら、竜も駆除に動くでしょうけどね」
「やりすぎってどんなの?」「わう」
「山の木を全部切ったり、山の動物を狩りつくそうとしたり」
「ほえー」「わふ~」
「だから、村人たちはなんでも採りすぎないように気を付けているらしいわよ」
木の実もキノコも山菜も、動物も、焚き木用の木材もだ。
「理性を失いかけた聖獣の熊と虎か。それが少なくともそれぞれ五頭」
「気合入れないとね。私たちが最初の死者になりかねないわ」
動物の熊と虎は強い。だが、魔獣の熊と虎は、動物の熊と虎よりずっと強い。
そして、聖獣の熊と虎は、魔獣の熊と虎よりも、さらに強いのだ。
いくら聖女パーティが強いとはいえ、侮れる相手ではない。
「前衛が抑えて後衛が支えて、その隙にミナトが解呪が基本か?」
「それしかないけど、そもそも一対一に持ち込まないと、でしょ?」
「……大変です」
ジルベルトとサーニャとコリンは、どうやって抑えるかを考えはじめた。
コリンはもう緊張気味だ。
もちろん、コリンはともかくジルベルトとサーニャはミナトとタロの強さを知っている。
だが、けして、ミナトとタロに頼った作戦は立てないと心に決めていた。
なぜなら、使徒と神獣が強いとしても、ミナトもタロも子供だからだ。
子供に頼りきった作戦を立てることは、大人としての矜持が許さなかった。
一方、そんな矜持などないミナトとタロは全く心配していなかった。
「……熊の聖獣にはあったことあるけど、虎の聖獣にはあったことないね?」
「わふわふ」
ミナトは三頭の熊の聖獣と契約を済ませて【剛力】のスキルをもらっている。
「暴れているってことは、呪われちゃっているんだよね。早く助けないと」
「わふ!」
ミナトとタロが考えているのはいかに早く助けるかだ。
そのためには早く見つけなければならない。
見つけさえすれば助けられると、ミナトもタロも信じていた。
「ピッピ、空からさがせる?」
「ぴぃぴぃ~」
「ありがと、たよりにしてるね。フルフルはあしあとからみつけられそう?」
「ぴぎっぴぎっ」
「フルフルも、ありがと」
「わふわふぅ! わふ!」
「あ、僕も鼻には自信があるです。タロ様ほどではないですけど」
「タロとコリンもありがと!」
ミナトはどうやって見つけるかを話し合った。
空からピッピ、足跡などの痕跡をフルフルが、匂いをタロとコリンが追う。
そういう方針に決まった。
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