第78話 焼きリンゴとあんパン
手続きを終えたミナトたちはノースエンドの街を歩いていく。
「人がいっぱいいる!」
「ぴぎ!」
タロの頭の上に乗っているフルフルが強めに鳴く。
「そだね、ファラルドのほうが人がいっぱいだね」
「ぴぃぎ~」
「そだね、リッキーもいるしね」
フルフルはファラルドに誇りを持っているようだった。
そんなミナトたちは皆に注目されている。
「で、でかい」「大丈夫なのか?」
「門番はなんで入れたんだよ、危ないだろ」
そんな巨大なタロを危険視する声もあるが、
「あ、聖女様じゃないか? 俺ファラルドで見たことあるぞ!」
「俺も見たことがある! 聖女様がノースエンドに来てくださった!」
アニエスを聖女だと気づいた住民が騒ぎ出す。
聖女アニエスは、ノースエンドでも有名だった。
「なに? 聖女様?」「ありがてえありがてえ」「神よ感謝します」
「あの大きな狼っぽい獣も聖女様が連れているなら、きっといい獣だよ」
「ああ、ちげえねえ。あの獣様の顔をみろ。なんて賢そうなんだ」
聖女が連れている獣だと分かれば、タロのことを怖がる住民はほとんどいなくなった。
「わふ?」
タロはきょとんとして、首をかしげながら、その人たちの方を見た。
「こっち見た! なんて聡明な顔なんだ!」
「わふふ」
褒められたタロは尻尾をゆっくり振る。
「聖女様が連れているお子様も可愛いな。見習い従者かな」
「ああ、あんなに幼いのに聖女様にお使いするなんて!」
「なんと偉いのでしょう」「末は賢者か大神官だねぇ」
ミナトも街の住民には好評だった。
「コボルトだ。かわいい」「手先が器用なんだって?」
そんな声も聞こえてくる。
コボルトたちの外見は二足歩行の犬だ。つまり、皆とてもかわいいのだ。
街の住民たちの大半はコボルトに好意を持ったようだった。
一方、ミナトとタロは通り沿いにある露店に興味津々だった。
「あ、お菓子がうってる」「わぁふ」
「ん? お菓子に興味ある? 食べてみたらいいわ。おじさん、そのお菓子いくつある?」
サーニャはミナトたちの返事を待たず、露店からそのお菓子を買い込んだ。
「みんなも食べて」
サーニャは大量に買って、ミナトたちに配った後、コボルトたちにも配っていく。
「わー、ありがと、サーニャ」「わふわふ!」
「ありがとうです!」
ミナトたちはお礼をいって、お菓子を口にする。
そのお菓子は、いわゆる焼きリンゴだ。
リンゴの芯をくりぬいて、そこにチーズ、レーズン、はちみつなどを詰め込んで焼いている。
焼きあげた後にさらに砂糖をまぶしてあった。
「甘くておいしい!」「わふわふ」
「リンゴの酸味とチーズのうまみと、はちみつの甘みがおいしいです」
かなり甘いお菓子だ。
だが、酸味の強いリンゴとチーズのおかげで、ちょうどいい感じになっていた。
「おいしいですな」「なかなか癖になります」
コボルトたちも食べて、おいしいと言っている。
その声を聞いて、店主は機嫌がよく教えてくれる。
「この辺りは寒いからな。甘いものがおいしく感じるんだ」
「そうなの?」
「そうだぞ。寒いと体を温めるのに甘いものが必要なんだ」
「そうなんだ。甘いもの……ふむふむ。おじさん、これ食べて」
「これは?」
「あんパンだよ。おいしいんだ」
「ほう?」
あんパンを受け取った店主は、少し胡散臭げにそれを見つめる。
「王都の至高神神殿で作ったものですぞ。今度こちらでも売り出そうと思いましてな」
「神官様! そういうことなら……」
ヘクトルに言われて、店主は恐縮しながら、あんパンを口にする。
「おお……? おお! うまい。いいな、この甘さ」
「おじさん、もっと甘い方がいい?」
「ん? ああ、これもおいしいが……たしかにもっと甘くてもいいかもな」
「なるほどー。今度神殿で売り出すから、買ってね!」
「おお、わかった!」
そしてミナトたちは歩きだす。
「おじさん、またね! 焼きりんごありがと!」
「おう! あんパンもありがとうな! 今度買わせてもらうよ!」
しばらくミナトは店主に手を振っていた。
「市場調査と営業をこなすとは。ミナト、やりますな」
ヘクトルが感心すると、ミナトはきょとんとした。
「えいぎょう?」
「無意識とは、さすがはミナトね」
「サーニャもありがと。リンゴおいしかった」
「気にしないで。私も食べたかっただけだし」
そういって、サーニャは照れていた。
「村長、あんパンはもう少し甘いのも作った方がいいかも?」
「了解ですぞ。ただ普通のあんパンの需要もあると思うのです」
「そうかも。おいしいもんね」
「はい。ですから別の種類として売り出した方がいいかもですな」
「……揚げて、粉糖をまぶしてみますか?」
「おお! おいしそう。あんドーナツ?」「わふわふ!」
あんパンの計画を話し合いながら、ミナトたちは神殿に歩いて行った。
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