第76話 竜の雛の治療

 元気になった熊三号にこの地を任せて、ミナト達は北の街へと向かう。


「またねー!」

「がお~」


 見えなくなるまで熊三号はミナト達を見送ってくれた。


 その日の夕食後。眠る前にミナトはいつものようにレトル薬を作る。

 順調に一セットを作り終わった後、ミナトが呟いた。


「みずのお薬にできそうな気がしてきた」

「わふ~?」

「うん、すこし作り方をかえればいける気がする。この瓶に入れよう」


 ミナトは瓶を用意すると、早速水薬版レトル薬の作成に着手する。


「とおゃああ~~」

「わふ~~」

「はちゃあ~」

「わふわふ~」


 ミナトは十分ほど変な声を出しながら集中する。タロは横で応援していた。

 その声を聞いたジルベルトとアニエス、コリンがやってくる。


「……できた」

 ミナトは作成した水薬版レトル薬を瓶に入れる。


「水薬を作ったのですね」「さすがミナトだな」「すごいです」「わふわっふ」

「えへへへー」


 アニエスたちに褒められて、ミナトは照れた。


「わふわあぅふ」

「そうだね。サラキアの書で調べてみよ」



 ----------


【ミナトの作ったレトル薬(水薬)】

 品質:神話級

 効能:滋養強壮(老衰まじかの老人でも寿命が三年延びるレベル)

    大概の病気は免疫力が高まるので治る。

    風邪は死ぬ一時間前ぐらいの衰弱した状態でも治る

    瘴気による病は治る。

    大概の呪いも飲めば解ける。


 味 :とても苦い。ただし極度に衰弱している場合は甘く感じる。


※老衰間近の老人に使って寿命を延ばせるのは二回まで。


 ----------



「おお、うまくいった」

「ミナトは天才ですね!」「よ、薬づくりの達人!」「すごいです!」


 アニエスたちは手放しで讃え、

「わぁふわふ」「ぴぃぴい」「ぴぎぴぎ」

 タロたちは、ミナトが褒められたことを、自分のことのように誇らしく思った。


 品質と効能は、丸薬バージョンと変わりない。

 ただ、衰弱していない者が口にすると、とても苦いらしい。


「どのくらい苦いんだろう」「わふわふ」


 ミナトは水魔法で水薬版レトル薬を操って、一滴だけ宙に浮かせる。

 それを指ですくって、ぺろりと舐めた。


「あ、すごくにがい! みずみず」


 ミナトは魔法で水を出して、ごくごく飲む。


「あ~、にがかったー。やっぱり、いつもの丸いやつの方がいいかも」

「わふわふ?」

「え、タロも舐めたいの? にがいよ? やめた方がいいよ」

「わふ!」


 タロの決意は固かった。


「もう、しかたないなぁー」


 ミナトは水薬版レトル薬を指先に半滴ほどつけてタロの鼻先にもっていく。


「……きゃんきゃん」


 ぺろりと舐めて、タロは悲鳴をあげた。


「タロ、水のんで、水」

「はふはふはふはふ……はっはっはっは。わふ~」


 タロはミナトが魔法で出した水を飲んで「ひどい目にあった」とつぶやいた。


「ねー、すごくにがいよね」

「そんなに苦いです?」

「うん。でも、水を飲んだら、にがいのきえたかも」


 口の中に残らない苦さなのは幸いだった。

 そうでなければ、タロはまだ、キャンキャン鳴いていただろう。


「効果が同じなら、丸薬でよさそうです?」

「うん、僕もそうおもう。でも……」


 ミナトはサラキアの服の下から、古代竜の雛を取り出した。


「この子に飲ませてあげようとおもったの」


 体力が著しく落ちていた熊三号は、ミナトのレトル薬を飲んで元気になった。

 だから、古代竜の雛も、レトル薬で元気になると思ったのだ。


「確かに効能に滋養強壮がありますもんね。さすがミナト。発想が素晴らしい!」

「ミナトはえらいなぁ。寝ていると丸薬は飲めないものな。天才だ!」

「えへへ。たまたま思いついただけだよ」


 アニエスとジルベルトに褒められて、照れたミナトはほほを赤くする。

 そんなミナトのほほをタロがベロベロと舐めた。


「ぴぃ?」

「ぴぎっ」


 ピッピは苦いから飲まないんじゃないかと言い、フルフルはでも甘いらしいよという。


「うん。この子はすごく弱ってるから甘くかんじるかもしれない」

「飲ませてみましょう。もし苦く感じたとしても体にはいいのですから」

「良薬口に苦しっていうしな」

「きっと早く回復するです」

「そうだね! のませてみよう!」


 ミナトは水魔法を使って、瓶に入った水薬版レトル薬を操る。


「気管に入ったら大変ですし、まずは少し湿らせる程度にしたほうが」

「アニエス。そもそも、竜に人と同じような気管があるのか?」

「それは……わからないですけど」


 それを聞いて、ミナトはうなずいた。


「うん、ほんのすこしだけ……」


 ミナトは卓越した水魔法の操作技術を発揮する。


 一滴の半分もない量を、ぴちょんと竜のほんの少しだけ開いた口に落とす。


「苦かった?」

「………………」


 竜は何も答えない。


「あ、少しだけ舌がうごいた」

「わふわふ」

「あまかったかな?」

「わふ~?」

「また、明日飲もうね」


 そういって、ミナトは竜の雛を優しく撫でた。


 それから毎食後、ミナトは竜の雛に水薬版レトル薬を飲ませた。

 半滴ずつ、口を湿らせる程度にだ。


「舌の動きがよくなったかも?」

「わふわふ」


 タロは、毎回竜の雛をベロベロ舐めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る