第75話

 タロとピッピを撫でながら謝った後、ミナトはコリンに声をかけた。


「コリン、大丈夫?」

「だ、だいじょうぶです」

「すぐ呼んでくれたらよかったのに」

「わふ!」「ぴい!」


 タロとピッピが「ミナトが言うな」と抗議する。


「ごめん。でも、気づかなかったねー」


 ミナトは首をかしげる。

 こんな近くに呪われし聖獣がいるなら、普段のミナトなら気づけたはずだ。


「わふ~?」

「かくれてたのかもって? どかなー? コリンはどうおもう?」

「…………」

「なにかおかしなところあった?」

「……わかんないです」


 コリンは預言者のことを言えなかった。


 言ったら、自分は勇者として失格であることも認めないといけない気がして。

 言ったら、ミナトやタロの従者になる資格がないと認める気がして。


「うーん。あ、熊さんはなにかわかる?」

「がお……」


 ごめんねと言いながら、熊は甘えて、その大きな体をミナトに押しつける。

 呪われていたときのことを覚えているかどうかは個体差があるのだ。


「そっか、わかんないか」

 ミナトはそんな熊を優しく撫でる。


 そこにジルベルトの声が聞こえてきた。


「おーい、タロ様、ミナト!」

「あ、ジルベルトだ。コリン、すぐにきれいにするからね」


 ミナトは小さな声で囁くと、

「え? ふわっ」

 コリンの下半身を水球で覆う。


 おしっこを漏らしてしまったのを隠すためだ。

「ほちゃあ~」

 ミナトは、コリンのズボンをあっという間に綺麗にして、乾かした。


「これでよし」

「……ありがとうです」

「ん! ジルベルト、ここだよー」「わふわふ~」

「おお、そこにいたか。タロ様が急に走り出し……うぉ」


 ジルベルトはミナトに撫でられている熊を見て、驚いた。


「呪われてたから助けたの」

「そ、そうか。聖獣の熊か。……でかいな?」

「うん。あ、ダニとノミがいるね。ちょっと待ってね」

「がぅ」


 ミナトは聖獣熊の巨体を大きな水球で覆う。


「ダニとノミを全部とるね。あ、顔もいくよー。目をつぶって」

「がう」

「治癒魔法もついでにかけるね。小さな怪我がいっぱいあるし」

「がうぅ~」


 そうやって、熊の全身を綺麗にしながら治療していく。


「……ミナト、凄まじいな。水魔法と同時に治癒魔法か。腕があがってないか?」

「そかな? えへへ」


 照れながらミナトは魔法を駆使して熊を癒やしていった。

 そうしながら、ミナトは熊に話しかける。


「呪われている間の記憶はぜんぜんないの?」

「がうがう~」

「そっかー、ないかー」

「あ、契約する?」

「がう!」

「じゃあ、君は熊三号!」

「がぁぁう!」


 ミナトと契約した大きな熊は嬉しそうに前足をバタバタさせた。

 契約が終わる頃には、熊三号の全身は綺麗になった。


 ダニもノミも一匹もいないし、傷一つ無い。


「あ、そうだ。これ食べる? 僕が作ったんだよ?」

「がうがう!」

「はい! 食べて!」

「がむがむがむ」


 ミナトは自作のレトル薬を熊三号に飲ませた。


「お、おい、それって神級のレトル薬じゃ……」


 小国なら買えるほど高価な薬をあっさり飲ませたので、ジルベルトは慌てた。


「そだよ? 体力が落ちてるからね!」


 熊は体力がとても落ちている。

 だが、これから自分たちは北の街に急いで向かわなくてはいけない。

 そして、北の街に熊を連れてはいけない。


「熊三号を、体力がないままここに置いていったらかわいそうだし」

「がうがう~」

「あ、元気になった?」


 熊三号は元気になってミナトに体を押しつけた後、タロにも体を押しつけに行く。


「わふわふ~」


 タロにも舐めてもらって、熊三号は嬉しそうにしている。


「熊三号、この辺りに呪われた聖獣いる?」

「がぉ」

「いないの? 呪われてない子もいないんだ?」

「がぅがぉ」

「そっか……それでいないんだね。大変だ」


 ミナトは熊三号をぎゅっと抱きしめた。


「ミナト、通訳を頼む。どうしてこの辺りには熊三号しか聖獣がいないんだ?」

「えっとね。山の方に呪者が沢山現われて、みんな討伐しにいったんだって」

「なるほど……。だが山の方で聖獣が暴れてるってことは……」


 山で聖獣が暴れているという情報を得て、ミナト達はこちらに来たのだ。


「負けちゃったのかも」


 それで熊三号のように呪われて苦しんでいるのだろう。


「いそがないとね」

「そうだな。……コリンどうした?」


 ジルベルトが心配してコリンに声をかけた。

 コリンは、ずっと下を向いてうつむいていたのだ。


「……お役に立てなかったです。熊に襲われて何もできなかったです」

「まあ、熊三号は強いだろうからな。俺にだって楽に倒せる相手じゃないぞ?」


 ジルベルトはポンポンとコリンの頭に手を置いた。


「だから気にするな」

「…………はいです」


 それからミナトたちは熊三号と一緒に皆のところに戻った。


「熊!」「あ、危ないですぞ!」


 コボルトたちは慌てたが、ミナトは笑顔で言う。


「だいじょうぶ! 熊三号は聖獣の熊だから」

「聖獣……確かに。聖なる気配を感じますぞ」


 コボルトたちは半人半聖獣で、ミナトと契約済みなので冷静に見ればわかるのだ。


「聖獣同士なかよくね!」

「はい。気をつけますぞ」


 これでコボルトたちが街の外で聖獣の熊と遭遇しても戦闘になることは避けられるだろう。

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