第71話 コボルトたちと製薬

「ミナト、できたです! みてくださいです!」

「おお、コリンすごい」「わふわふ!」


 ミナトの次にレトル薬を完成させたのはコリンだった。


「ちゃんとできてるか調べてほしいです」

「わかった! すぐにしらべるね!」



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【レトル薬】

 品質:中級

 効能:滋養強壮。

    頭痛、関節痛の鎮痛。解熱、鎮咳など。

    病後の回復

 用法用量:一日三回。食後に服用。大人は一回一錠。子供は半錠。


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 それは、ミナトの作った明らかに規格外なものとは違い、まともなレトル薬だった。


「うん! 成功だ! コリンすごい」「わふわふ!」

「コリン、見事です」「さすがな、コリン」「お見事ですぞ」

「えへ、えへへえ」


 ミナトたちやアニエスたちに褒められて、コリンは嬉しそうに尻尾を揺らした。

 大人のコボルトたちも「さすがはコリンだ」と褒めている。


「私もできました。ミナト、確認してくださいませぬか?」


 コリンが成功するとコボルトたちはどんどん成功させる。


「私もできました!」「私も!」

「すごいすごい! みんな早いねえ! すぐに調べるね」


 ミナトがサラキアの書を構えると、コボルトたちはごくりとつばを飲み込んだ。

 全員の尻尾が、緊張気味にピンと立っている。


「うん、これは成功。こっちも成功。成功、こっちも成功」

「……ということは」

「うん! 全部成功だよ! コリンの奴と効果は一緒だ!」

「やった!」「ありがとうございます、ミナトの指導のおかげです!」


 コボルトたちは一斉に尻尾をぶんぶんと振った。


「コリンの時も思いましたが、最初から中級とは。見事なものですな」

「ええ、コボルトは手先が器用だと評判ですが、これほどとは」


 ヘクトルとマルセルが感心している。


「そうだ。病後の回復にいいみたいだし、自分で作ったレトル薬を飲んでみる?」


 病後の回復の効能は、ミナトのレトル薬には書かれていない。

 それは病後の回復が「老衰まじかの老人でも寿命が三年延びるレベル」の下位互換だからだ。

 だが、ミナトのレトル薬には書かれていないので、自分のレトル薬に病後の回復があると気づいていない。


「さすが、ミナト。いい考えですな!」

「自分で確かめるのは大切ですね!」


 コボルトたちは大喜びで自分の作った薬を飲む。

 コリンを含めた看病していた病み上がりじゃないコボルトたちも自分の作った薬を飲んだ。


「おお……なんか元気になった気がする」

「よかったよー」

「力があふれる気がするです。速く走れそうです」

「……コリンのは気のせいだよ?」

「そうです?」

「うん。じようきょうそうだし?」


 病気で体が弱っていたら回復するが、飲んでパワーアップするようなものではない。


「わーいわーい」「やったやった!」


 コボルトたちは楽しくなって踊りだす。

 コリンも大人たちも、一緒になって楽しくワイワイ遊んでいる。


「朝起きたら、村長たちにもあげよう!」

「それがいい!」


 そんなことを楽しそうにコボルトたちは話していた。


 一方、その間もアニエスは黙々と作業していた。


 三分後、アニエスが元気に言った。

「私もできました!」

「おお、アニエスもすごい!」

「調べてください」

「わかった!」



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【効果の薄いレトル薬】


 品質:低級

 効能:少しの滋養強壮。病後の回復にも多少効果がある。

 用法用量:一日三回。食後に服用。大人は一回二錠。子供は一錠。


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「…………」


 ミナトはなんていっていいかわからなかった。


「失敗……ですよね……」

 アニエスはあからさまに落ち込んだ。


「どんまい」「そういうこともありますぞ」

 ジルベルトとヘクトルに慰められても、しょんぼりしたままだ。


「いや、失敗じゃないよ! 低級だけど効果あるし、成功だよ!」

「わふわふ~」


 タロは作ったばかりの至高神像をアニエスに渡す。

 泥で作った後に魔法で焼成まで済ませたしっかりした像だ。


「くれるのですか?」

「わふ」

「これあげるから元気出してだって」

「タロ様、ありがとう」


 アニエスはぎゅっとタロに抱き着いた。

 そんなアニエスに、マルセルは冷静に告げる。


「アニエスの製薬スキルのレベルはいくつですか?」

「25です」


 スキルLv25というのは相当に高い。魔法でLv20あれば、宮廷魔導師になれるぐらいだ。

 製薬スキルだって、Lv20あれば王宮お抱えの薬師になれるだろう。


「25のアニエスが、初めての作成とはいえ、低級だったということは……」

「レトル薬の作成難易度が高いってことか?」

「ジルベルトのいう通りだが、今回注目すべきはそこじゃない」


 ジルベルトに対しては丁寧語じゃなくなるマルセルがにこりと笑う。


「コボルトたちは製薬が尋常ではなく得意なんだよ」

「製薬スキルのレベルが高いってことか? だが、みんな製薬は初めてだろ?」

「他のスキルとの組み合わせの相乗効果があるのかもしれないだろ」 


 それを聞いていたヘクトルがうんうんとうなずく。


「コボルトたちは手先が器用ですからな。そういうスキルがあるのやもしれませんな」

「……なんにせよ。コボルトたちはレトル薬を作れるのは事実です」


 タロからもらった至高神像を抱きしめながら、アニエスは言う。


「コボルトさんたち!」

「どしたです?」「どうしました?」

「北の街に着いたら空いた時間で良いので、レトル薬の制作もお願いできませんか?」

「もちろんかまいませぬが……」

「当然、適正価格で神殿が買い取りますので」

「おお、助かります! あんパンとクリームパンだけでなく、薬も買い取ってもらえるとは!」


 どうやら、畑の収穫まで、コボルトたちは確実に生計を立てることができそうだった。

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