第69話 ミナトの作ったレトル薬

 喜ぶミナトたちにアニエスが言う。


「ミナトが作ったものだから大丈夫だと思うのですが、薬は作って終わりではありません」

「そうなの? あとなにすればいい?」


「本当に効果があるのか確かめなければいけません。特に初めて作った薬はそうです」

「そっかー、でも誰も風邪ひいてないし……」

「わぁぅわぁぅ?」


 タロが「風邪ひいたかも? それたべる」と言いだした。


「タロは元気でしょ! だめ」

「きゅーん」

「ぴぃ?」

「あ、そっか。サラキアの書で確認すればいいね! さすがピッピ! 頭いい!」

「わふわふ」「ぴぎぴぎっ」


 ミナトはピッピを撫でまくり、タロはピッピを舐めまくり、フルフルはブルブルした。


 サラキアの書は、ミナトが調べたい物が何なのかか調べることができる。

 つまり、鑑定技能のように使うこともできるのだ。


 しかも、神による鑑定だ。間違いがない。

 もちろん、サラキアが知らないことは調べられないし、鑑定もできない。


 サラキアは全知ではないが、人に比べたら誰よりも知識があるのだ。


「サラキア様、これはなんですか!」


 考えているだけでいいのだが、ミナトはアニエスにも聞こえるように声を出す。

 そして、サラキアの書を開いて、皆でのぞき込む。


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【ミナトの作ったレトル薬】


 品質:神話級


 効能:滋養強壮(老衰間近の老人でも寿命が三年延びるレベル)

    大概の病気は免疫力が高まるので治る。


    風邪は死ぬ一時間前ぐらいの衰弱した状態でも治る。

    瘴気による病は治る。


    大概の呪いも飲めば解ける。


※老衰間近の老人に使って寿命を延ばせるのは二回まで。


 ----------


「やったー、成功してたよ!」

「さすがミナトです! すごいのです」

「わふわふ~」「ぴぃ~」「ぴぎ」


「おもったよりレトル薬ってすごい効果なのです!」

「ねー」「わふ~」


 無邪気に喜ぶミナトたちの横で、アニエスはわなわな震えていた。


「アニエス? どしたの? 薬、失敗だった?」「わふ?」

「…………あ、いえ、成功です。明らかに」

「そっかー、よかったー」「わふ~」


 ミナトとタロは胸をなでおろす。


「ですが、これはレトル薬とは別物かと」

「え? やっぱり失敗?」「わふぅ……」


 ミナトとタロが不安そうにアニエスを見る。

 タロの尻尾はしなしなだ。


「いえ、失敗ではなく……」


 アニエスは声を潜める。


「…………ちょっと、尋常じゃないです。常識はずれとかそういうレベルじゃないです」

「そうかな?」

「そうです。これ一つで、小国が買えます」

「またまた~」「わふわふ~」

「冗談ではないですよ」


 アニエスは真顔だった。


「これは表に出さない方がいいですね」

「そう?」「わふ?」


「そうです。ミナト、これを使うとき、与える人はよくよく選ばないとですよ」

「わかった!」「わふっ!」


 ミナトとタロは元気に返事をした。


「成功してよかったねぇ」

「わふ~」

「これはサラキアの鞄に大切にしまっておこう」

「わふわふ」


 ミナトは大切にしまうと言いながら、丸薬のまま「ザララ」とサラキアの鞄にそのまま入れる。


「え? 袋とか瓶に入れたほうがいいのでは……?」

「あ、そっか。でも、サラキアの鞄だから、大丈夫だよ?」

「それでも、なんとなく、こう、心理的に?」


「でも、ふくろも、びんもないしー」

「これどうぞです! 綺麗な瓶です!」

「コリン、ありがと! これにいれておこう!」


 コリンが持ってきてくれた瓶に、ミナトが薬を入れようとすると、


「ちょっと待ってください。一応消毒しておきましょう」

「消毒?」

「えっとですね。十分間熱湯で煮るといいのですが……」

「わふわふ」

「ん? 地面に置けばいいの?」


 ミナトが地面に瓶を置くと、たちまち熱湯に包まれる。


「わぁふ~」


 タロのMPは無尽蔵だし、魔力も多く、魔法レベルも尋常ではなく高い。

 水を出して、熱湯にして、そのまま消毒するなどたやすいことだった。


「タロすごい」

「わふ~」


 ミナトに撫でられ、褒められ、タロはうれしくなって尻尾を振った。

 消毒が終わるまで十分かかる。


「ぴぃ~?」

「ピッピの炎だと早いけど、びんが溶けちゃうよ?」

「溶けなくても割れそうですね」

「ぴぃ……」


 ピッピは火魔法のエキスパートだが、水魔法は使えないのだ。


「わふ~」

「ぴい~」


 タロが元気出してと言いながらぺろぺろ舐める。

 もちろん、よそ見しながらも、消毒は継続中だ。


「あの! ミナト、レトル薬の作り方のコツを教えてほしいです」

「おおー、コツ。……コツ? うーん」


 ミナトは、腕を組んで考えこむ。


「難しいです?」

「そうじゃなくて……えーっと。一回じゃわからなかったからもっかい作ってみるね?」

「はいです」

「……ちゃちゃ~~」


 ミナトはまたレトル薬を作り始めた。


「先ほどより手際がいいですね。もしかしてミナトは製薬スキルもちですか?」

「もってないよ~ちゃあ~~」


 ミナトはそういうが、本当だろうかとアニエスは考えていた。

 実はミナトは一回目の製薬で製薬スキルを獲得していたが気づいていなかった。


「できた!」

「……明らかに早くなってますね」

「サラキアの書でしらべてみよう!」


 調べた結果、先ほどと同じ効能の「ミナトの作ったレトル薬」だった。

 もちろん品質は神話級だった。


 ミナトは自分の作ったレトル薬を見つめながらボソッという。


「わかったかも。コツ」

「わかったです?」「わふわふ?」

「うん。神聖力と魔力は、弱くてもだいじょうぶっぽい?」


 ミナトがコツを理解したのは製薬スキルが上がったからだった。


「弱くても大丈夫です?」

「うん。なんかレトル草は神聖力と魔力でぼわーってなるからね?」


 ミナトはレトル草に含まれる成分は神聖力と魔力で活性化するということがいいたかった。


「ぼわーです?」

「ぼわーだよ。時間をかければ、すくなくてもだいじょうぶ!」

「なるほどです。それなら僕でも作れそうかもです」


 コリンの尻尾が元気に揺れる。


「ミナト。神聖力や魔力が多すぎる場合はどうですか?」

「だいじょうぶだよ。その場合ははやくできる」


「意外と簡単ですか?」

「そうかも? でも、ペーストにするときにもコツが必要でー」


「神聖力や魔力ではなく、そっちにコツが?」

「そう。あまり細かくしたらだめで……早くないといけないんだけど、早すぎるとだめで……」


 ミナトの語るすりこぎ棒でするときのコツの難易度は高かった。


「ちょっと、難しいですね……」

「難しいけどやってみるです」


 コリンとアニエスが薬を作り始めた。


「がんばー」

「わふわふ!」

「あ、アニエス、もう少しゆっくり! コリンはもうすこしはやく!」


「このぐらい?」「このぐらいです?」

「そうそう、二人ともいいかんじ!」


 そんな感じで、アニエスとコリンはレトル薬を作るために頑張った。


「わふ~」

「タロもありがと」


 タロが消毒した瓶にミナトはザラザラと「ミナトの作ったレトル薬」を詰めた。


 その夜はアニエスとコリンの製薬は終わらなかった。

 アニエスたちが遅いのではなく、ミナトが早すぎるだけである。


「途中の薬はサラキアの鞄に入れとこうね!」

「ありがとうございます」「たすかるです!」


 サラキアの鞄に入れておけば、いつでも続きからできるのだ。

 途中で切り上げ、村の中にテントを建て、ミナトたちは眠ったのだった。

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