第67話 コボルトとパン

「みんな、調子はどうかな?」


 契約を済ませたコボルトたちにミナトが尋ねると、

「おお、瘴気を払えそうな気がしてましたぞ」

「体が軽い気がいたします!」

「治癒魔法を使えそうな気がしてきました!」

 コボルトたちは尻尾を振って、大喜びだ。


「調子がいいなら、よかったよ!」


 本来、精霊や聖獣は瘴気や呪いを払うことはできない。


 瘴気や呪いを払うのは、アニエスのような聖女や聖者の役割なのだ。


 聖獣は呪者を倒し、精霊はその場に呪者を寄せ付けないのがその役割だ。


 一旦、呪われてしまえば、精霊も聖獣も蝕まれて、呪われし者になる。

 呪われし者は、救われる前の湖の精霊メルデのような異形の存在だ。


「これからは弱い瘴気や呪いを払えるからね!」

「ありがとうございます!」

「こちらこそありがとうだよ! 契約すると僕も強くなるんだ」

「わふ!」

「あ、そうだね! サラキアの書でステータスを確認してみよっか」


 ミナトはサラキアの書を開き、皆、さっと目をそらした。

 人のステータスを見るのは失礼なことだからだ。


 ----------


ミナト(男/5才)

HP:412/412→427 MP:570/570→600

体力:416 魔力:528→535 筋力:360→371 敏捷:401→460


スキル

「使徒たる者」

 ・全属性魔法スキルLv7→9・神聖魔法Lv23→30・解呪、瘴気払いLv65→95

 ・聖獣・精霊と契約し力を借りることができる・言語理解・成長限界なし・成長速度+


「聖獣・精霊たちと契約せし者」

 ・悪しき者特効LvLv255→285

 ・火炎無効(不死鳥)・火魔法(不死鳥)Lv136・隠れる者(鼠)Lv72

 ・索敵(雀)Lv43→44・帰巣本能(鳩)Lv28・鷹の目(鷹)Lv75

 ・追跡者(狐)Lv84・走り続ける者(狼)Lv50→53・突進(猪)Lv30

 ・登攀者(山羊)Lv25・剛力(熊)Lv48・細工者(コボルト)Lv30


 NEW・回避する者(コボルト)Lv60

 ・水魔法(大精霊:水)Lv+132→137・水攻撃無効(大精霊:水)

 ・毒無効(スライム)・状態異常無効(スライム)


契約者

 聖獣223体

 ・不死鳥2羽・ネズミ70匹・雀42羽・鳩25羽・鷹10羽・狐12匹

 ・狼5頭・猪3頭・ヤギ2頭・熊2頭

 ・スライム20匹

 NEW・コボルト30人


 精霊1体

 ・湖の大精霊メルデ


称号:サラキアの使徒

持ち物:サラキアの書、サラキアの装備(ナイフ、衣服一式、首飾り、靴、鞄)


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「おおー、強くなってる!」

「わふわふ!」

「ありがとありがと、すごいかなー? でもタロの方がすごいし」

「わぁぅわう!」


 タロはミナトのことをベロベロなめまくった。

 ミナトはコボルトと契約したことによる成長以外に、熟練度上昇でも成長している。

 ミナトとタロはあまり気にしていないが【成長速度+】の効果はとても高かったのだ。


 楽しそうにステータスを確認しているミナトに、ジルベルトが言った。


「ミナト、ステータスは人に見られないところで確認したほうがいいぞ」

「そうなの? でも知られて困ることじゃないし……」「わふ~?」

「そうはいっても、悪い奴はどこにでもいるからな」

「でも、ここにはいないよ?」「わふ?」


 ミナトとタロは無邪気な目でジルベルトを見つめる。


「信用してくれるのは嬉しいけどな。こういうのは普段からのふるまいが大切なんだ」

「そうよ、ミナト。それに急にやられるとこっちはぎょっとしてしまうわ」


 サーニャが優しく言う。


「そんなものかー」「わふ~」


 キャッシュカードに暗証番号を書いた付箋を貼っているのを見たようなもの。

 悪用する気なんて無くても、ぎょっとする。


「気をつけるね!」「わふっ!」


 それからミナトとタロ、コリン、そしてピッピとフルフルは夕食まで楽しく遊んだ。


 夕食時、ミナトはみんなにクリームパンを配った。

 ミナトが持つサラキアの鞄の中にはあんパンとクリームパンがたくさん入っているのだ。


「なんと美味しい……、ミナト様から頂くパンはこの世のものとは思えないほど美味しいです」

「パンはほのかに甘くて、柔らかく、そしてクリームはしっとりしていて、しつこくなく」

「パンの甘さとクリームの甘さが調和しています。なんという美味しさ」


 コボルトたちが感動しているのを見て、ミナトはとても嬉しかった。

 そんなコボルトたちにヘクトルが言う。


「良かったら、あんパンとクリームパンの作り方をお教えしますぞ?」


 あんパンとクリームパンは、ミナトに教えて貰った情報を元に神殿が開発した。

 だから、神殿騎士のヘクトルは作り方を把握しているのだ。


「よ、よろしいのですか?」

「もちろん。そうでしたな。ミナト。タロ様」

「そう! 作り方がひろまった方が、どこでも食べられるようになるからね!」「わふわふ」

「ありがたい!」


 ヘクトルとマルセルが作り方を細かく説明するのを、コボルトたちは熱心に聞いている。

 メモを取り、質問をしながらだ。


「うまくできたら、自分たちで食べてもいいし、街で売っても良いよ!」

「ミナトさま、よろしいのですか?」

「うん! いいよ! ね、ヘクトル、材料は神殿からあげてね?」

「もちろんですぞ。材料費は後払いで結構です」


 ヘクトルは無料であげるといっても遠慮深いコボルトは受け取らないから後払いと言ったのだ。


「ありがとうございます。本当に助かります」

「正直、街に行ってもどうやって当座のお金を稼ごうか悩んでいたのですが……」

「僕もうれしいよ!」「わふ~」


 あんパンとクリームパンを売れば、コボルトたちも助かる。

 そして、ミナトとタロはあんパンとクリームパンが普及して嬉しい。


 神殿も材料を売ったお金が収入になる。

 ミナトにもコボルトたちにも神殿にも損のないことだった。

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