第66話 今後の計画
ミナトたちがみんなの元に移動すると、アニエスが説明してくれる。
「ここから北に三日ほど進んだところにある街の神殿に保護を求めようと思います」
「王都の神殿じゃないの?」
北に三日進むのなら、南に三日戻って王都に向かった方が確実だとミナトは思った。
王都にはパッパも、リッキー王も神殿長もいるので安心だ。
「暴れている聖獣がいるのが、そちらの方角なのです」
「なるほど~」
ミナトたちは暴れている聖獣がいるという情報を聞いたから北に向かっているのだ。
「使徒様。我らコボルトは今は採集、狩猟で暮らしていますが、得意なのは農業と牧畜なのです」
村長はミナトに丁寧に語る。
「あ、そっか。王都には余っている畑がないってこと」
「そのとおりなのです」
「わふわ~ふ?」
「タロ神様は我らが昔居た場所をご存じなのですね。はい、その場所で暮らしておりました」
タロの言葉がわかる村長が、通訳なしで返事をする。
ミナトとタロが、この世界に送り込まれたときに降り立った場所は、元コボルトの住処だ。
「わふわふ~?」
「はい。飼っていた牛は呪者に殺され、畑も呪者に完全に潰されました」
「わふ……」
そして住処は瘴気に覆われ、コボルトたちはここに避難してきたのだ。
「アニエス。北の街には畑があるの?」
「はい。神殿が持つ畑があります。耕作者が足りなくて困っているようですし」
「ならちょうど良いね!」
「わふわふ~」
「「ありがとうございます。タロ神様」」
「わふ!」
「で、ですが、タロ神様はタロ神様ですし」
村長の返事で、タロが何を言ったのか理解したアニエスが言う。
「タロ様は神獣であることを隠しておられるのですよ」
「なんと」
「ですから、タロ神様と呼ばれて正体がばれるのはよくないのです」
「そういうことでしたら……」
「僕のこともミナトって呼んでね! 様はつけないで! 使徒だとかくしているからね!」
すかさずミナトも主張した。
村長たちは使徒様を呼び捨てなんてと言ったが、ミナトは強く要望して説得したのだった。
「ジルベルト、いつ北の街に向けて出発するの?」
「明日の朝出発する予定だ。できるだけ早く出発した方が良いが病み上がりが多いからな」
「そっかー」
村人の病気はミナトが完全に治している。だが、体力も落ちているのだ。
「俺たちだけで街に向かって迎えをよこそうかと思ったんだがな」
「あ、悪い奴が来るかもしれないもんね?」
「そういうことだ」
呪神の使徒の計画は失敗した。その腹いせに襲ってくる可能性はそれなりにある。
だから、全員で街に向かうことにしたのだ。
「本当は一週間ぐらい様子を見た方が良いんだが……」
「暴れているという聖獣様のお話もありますし、あまりゆっくりしていられないのです」
アニエスが不安そうに言う。
「我らのために、ミナトとタロ様のお手間を取らせて……」
「気にしないで! 呪神の使徒の計画をつぶせたからね!」
「わふわふ!」
呪神の使徒の計画を潰せたなら、それは充分な成果である。
無駄な寄り道などではない。
「アニエス。その暴れている聖獣ってどのあたりにいるの?」
ミナトが尋ねると、アニエスは地図を取り出した。
「えっと、今いるのがここです。王都がここ、北の街がここで……情報があったのはここです」
「ふむふむ~」
暴れている聖獣がいるという場所は北の街の近くの山だ。
「山なんだね」
「ええ。ここからでも見えますよ。あの山です」
アニエスは北の方角を指さした。
「あの大きな山が目立ってますが、その手前にある山も相当大きいんですよ」
「手前の小さな山が目的地?」
「はい。でも小さくないですよ? 頂上付近は白いでしょう? 夏でも雪が解けないんです」
「今の時季ならもう吹雪いたりするよ?」
アニエスとサーニャが山の状況を教えてくれる。
「ふえー寒そう。……あの山の後ろにあるもっと高い山は? 暴れている聖獣はいないの?」
その山は地図上でも、大きく表示されている。
「そちらは氷竜の住まう山ですね。呪神の使徒とは言え、手を出さないでしょう」
「氷竜はみな強いのですが、氷竜の王は神獣に近い存在だと言われています」
マルセルが丁寧に説明してくれた。
「わふ?」
「タロぐらいつよいの?」
「タロ様の方が強いと思いますが……、わかりません。人とは差がありすぎるのです」
差がありすぎて、どのくらい上か測る事すらできないようだ。
「……あ、竜に、この子のことを相談したいかも」
ミナトは服の上から聖竜の子を撫でる。
「それは難しいですよ。標高が高すぎて人が立ち入れる領域ではありませんから」
「そんなに?」
「ええ、空気が薄すぎて、息ができなくなるとか。それに寒さも尋常ではないらしいです」
「ふえー。怖いねー」
「はい。怖いです。その情報も七合目辺りまでたどり着いた探検家の話ですし」
「マルセル! その話きかせて!」「わふわふ」「ききたいです!」
ミナト、タロ、コリンが目を輝かせた。
「昔の話ですから、あまり詳しい記録は残っていないのですが――」
「それでもいいよ!」「わふ~」「はいです!」
「それでは、軽く……その探検家は、山に登ることで神に近づこうとしたそうです」
最も天上に近い場所で神に祈ろうと考えた探検家は仲間を集めた。
熟練の戦士、経験豊富な狩人、当代一の治癒術師、それに最強の魔導師三名。
「魔導師が多いんだね?」
「魔法で風雪を防ぎ、暖をとりながら進んだそうですからね」
MPはいくらあっても足りなかっただろう。
「それでも、息が出来なくなり七合目から上には行けなかったと」
「空気が薄かったから?」
「そのとおりです。いかに優れた防寒具を身につけていても、空気はどうにもできませんから」
「なるほど~」
人は誰も頂上にはたどり着けていないらしい。
「……きになる」
危険な場所への好奇心が抑えられない様子のミナトを見て、ジルベルトが話を変える。
「ミナト、そんなことより、勇者コリン以外のコボルトたちとも契約ってできるのか?」
どうやら、ジルベルトはコリンと契約したことに気づいていたらしい。
「できると思うよ? だって、コボルトさんは半分聖獣だし」
それを聞いたコボルトたちがざわめいた。
「使徒さ、いえ、ミナト、どうか私どもも契約していただけませんか?」
「もちろん、いいよ!」
コボルトたちの尻尾がぶんぶんと揺れた。
「サラキア様の使徒と契約できるなんて」
「きっと、私はこの日のために生れてきたんだ」
心の底から感動しているようだった。
これまでミナトが契約してきた聖獣たちより感動している。
「そんなに?」
「そんなにです! それほど我らにとっては嬉しいことなのです!」
「至高神様やサラキア様、そしてタロ様……コボルト神様に仕えることが我らの喜びです」
「ふえー」「わふ~」
驚くミナトとタロに、コボルトたちは続ける。
「我らを犬と蔑むものもいますが、我らは堂々と言い返します」
「我らは神の犬だと。誇り高き神の犬なのです」
「そうなんだ、すごい」
「はい!」
犬は人に忠誠を捧げる。
それとは少し違うが、コボルトたちは神に信仰を捧げるのかもしれなかった。
「じゃあ、契約するね! 君は――」
ミナトはコボルトたちの元から持っている名前を改めて与えて契約をすませたのだった。
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