第60話 タロ神様とコボルト神

 食事を終えると、またコボルトたちは感謝の言葉を口にする。

 料理を作ってくれたジルベルト、鴨肉をとってきたサーニャだけでなく、一人一人に礼を言う。


「気にしないでください。それが至高神様の思し召しですから」


 そうアニエスに言われて、コボルトたちは恐縮しきりだった。

 もちろん、病を治したミナトにも、繰り返しお礼を言う。


 病を治してもらった者だけでなく、看病していたコボルトもミナトにお礼を何度も言った。


「気にしなくていいのに~」


 そういいながらも、ミナトは照れていた。


「わふわふ~」


 タロはそんなミナトのことが誇らしくて、ミナトの顔をベロベロ舐めた。

 お腹いっぱいになって、しばらく休んだ後、ミナトたちは村の中を散歩することにした。


 村は直径五十メートルしかない。

 だが、ミナトたちにとって目新しいものばかりなので、散歩も楽しい。


「ぴぎぃ~」


 フルフルが元気にピョンピョン進み、その後ろをミナトとタロ、コリンがついていく。


「ぴい~ぴ!」

 飛ばずにミナトの肩に乗っているピッピが、村の中央にある小さな建物を見て鳴いた。


「ん? ピッピはあれが気になるの?」

「ぴ~~」

「ぴぎぴっぎ」


 するとフルフルがその建物の方へと跳ねていき、その後ろをミナトたちはついていく。


「コリン、これなぁに?」

「これは至高神様とサラキア様とコボルト神様のほこらです」


 その小さな建物は、ミナトが前世で見たほこらに似ていた。


 鳥居はないが、ミナトなら入れるぐらいの大きさの木造の小さな家だ。

 屋根は赤い金属で覆われている。


「この中に神様の像がはいっているです」


 ほこらの正面には観音開きの扉があって、それを開くと神像が三体合った。


「これが至高神様とサラキア様と、コボルト神様?」

「そうです」


 中央に至高神の像、左にサラキアの像、右にコボルト神の像が置かれている。


「うん。サラキア様に似てるかも」


 それは高さ三十センチぐらいで、大理石で作られたとても精緻な美少女の像だった。


「え? ミナトはサラキア様にあったことあるですか?」

「うん、あるよ。使徒だからね!」

「ふえ~」


 コリンは尊敬の目でミナトを見る。

 それからタロに申し訳なさそうに言う。


「タロ様、至高神様に似てないかもですが……」


 至高神の像は高さ四十センチほどで大理石で作られていた。

 立派な髭が生えている、ハンサムなおじさまだ。


「わふ~」


 タロはまあまあ似てると言った。


「え?」


 コリンは昨夜タロが作った至高神の像を見ている。

 だから、「至高神様はうんこみたいなんじゃないの?」と思った。


「わふ?」

「なんでもないです」


 きっと、像を造った村人に気を使ってくれているのだろうと、コリンは考えた。


(……タロ神様はやさしいです)


 そう思って、コリンは感動していた。


「ぴいぴい!」「ぴぎぴぎ~~」


 一方、ピッピとフルフルはコボルト神の像を見てはしゃいでいた。

 そのコボルト神の像は、大理石で作られており、高さ三十センチの犬の姿をしていた。


 コボルト神の像なのに、二足歩行ではなく、普通にお座りしている。

 ミナトは前世で見た狛犬みたいだな、と少し思った。


 そして、コボルト神の姿は耳がたれており、優しい目をしており、タロそっくりだ。


「……タロに似てるね」

「わふ~わふ~」


 タロは照れて、尻尾を振りまくっている。


「タロが神様だとまちがわれるのもわかるねー」

「まあ、実際タロ様は神様みたいなものだし。コボルト神様とは違うけど……」

「うわっ、びっくりしたです。サーニャさんですか」


 コリンはいつの間にか背後にいたサーニャに驚いてびくりとした。

 もちろんミナトはとっくに気づいていたので驚きはしない。


「そうとも限りませんぞ」


 サーニャの後ろにいたヘクトルが、コボルト神の像を見ながら言う。


「どういうこと?」

「サーニャはあまり経典を読まぬからのう。聖女様の従者として――」

「いいから、教えて」


 説教を遮って、サーニャが先を促す。


「教えて」「わふわふ」


 ミナトとタロにも教えてと言われて、ヘクトルは嬉しそうに説明を始めた。


「至高神様は、過去にも神獣を地上に遣わしたことがあるのですぞ」

「ほえー。その時も犬だったの?」

「流石、ミナトは鋭いですな。そう毎回犬でした」

「犬がすきなんだね!」

「わふわふぅ」


 タロが嬉しそうに尻尾を振った。


「歴史上の神獣様もコボルトと共に活躍していることが多いのです」

「ほえー」「わふい~」「すごいです」

「きっと、至高神様は犬とコボルトが好きなのですな」

「へ~」

「わふぅ」「光栄なことです」


 タロとコリンが嬉しそうに照れている。


「そして、ここからが本題なのですが……」

「ふんふん!」「わふわふ!」「本題です!」


 ミナト、タロ、コリンが真剣な目でヘクトルを見つめる。

 子供達に尊敬の目で見つめられるヘクトルが、サーニャはうらやましかった。


 なぜ、自分は至高神の経典を読んでいなかったのか。

 それをサーニャは生まれて初めて後悔した。


「コボルト神様というのは、至高神の神殿には伝わっておらぬのです」

「え? コボルト神様はいないです?」


 コリンの尻尾がしなしなと垂れ下がる。


「そうではありません。恐らく至高神様の神獣様とコボルト神様は同一の存在かもしれませぬ」

「ほえ?」「わふ」「……です?」


 ミナト、タロ、コリンが同時に首をかしげる。


「神殿では神獣様、コボルトたちにはコボルト神として伝わっているのかも知れません」

「でも、タロは神様じゃないよ?」

「わふわふ」


 タロも「そうだそうだ」と言っている。


「そもそも、神は地上に降臨しない、というよりも影響が大きすぎるの降臨できないのですぞ」

「ふむふむ?」「わふわふ?」

「だが、コボルトたちの伝承では、コボルト神様は地上に降臨している。そうですな?」

「うん。そうです。困ったときに現われて助けてくれるです」

「ならば、そのコボルト神様は、神そのものではなく、神に近い存在のことでしょうな」

「神に近い存在……神獣様です?」

「そう、地上に降臨できる最も神に近いのは神獣様ですぞ。それと使徒様ですな」

「ほえー」


 コリンは尊敬のまなざしで、ミナトとタロを見つめる。


「これは一神官にすぎない、わしの考えた仮説に過ぎませぬが」

「そっかー」「わっふー」

「真実を確かめる手段があればよいのですが……」

「まあまあ、説得力あったんじゃない? それはともかく、流石タロ様」


 サーニャはそういいながら、タロのことをモフモフ撫でる。

 サーニャはずっとタロをモフモフする隙を窺っていたのだ。


「わふふ~」

「え、撫でていいですか?」

「わふ!」

「失礼するです……」


 遠慮しながら、コリンもタロのことを撫でた。


「ふわ~柔らかいです。暖かくて、もふもふで……」

「もっと力入れてなでていいよ? その方がタロは好きかも」

「そうなのですね!」


 ミナトに教えてもらって、コリンはタロを力一杯モフモフした。


「わふ~」


 タロもご満悦で尻尾を振った。

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