第52話 コボルトの勇者
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語り終わったコリンになんて声をかけるべきだろうか。
大人たちは少し考えて、数秒、無言になった。
コリンは子供なのだ。そもそも、村を救う責任など負うべきではない。
どんな子供も救われるべき存在なのだから。
それに、コリンの実力では魔熊に勝てるわけがない。
それは熟練の戦士であるジルベルトには、はっきりとわかった。
黙っている大人たちの一方、ミナトは「ふわあ」と声をあげた。
「コリン、すごいねえ」
「……すごくないです」
「一人でここまでくるのはすごいよー」「わふわふ」
「……逃げただけです」
「そっかー。それでもすごいよ」
「わふ」
「タロもえらいっていってるよ?」
「……ありがとです」
コリンは涙をぬぐって、無理に笑った。
「ねえねえ、コリン。神様ってどんな神様?」
コリンを勇者に任命した神が誰なのか、ミナトは気になったのだ。
「コボルト神様だと思うです。タロ神様がぼくを勇者にしたですか?」
「わふ~」
「タロじゃないって」
「むむ~」
タロをコボルト神だと信じているコリンは納得していないようだった。
「コボルト神様ってどんな神様?」
「コボルトの神様です。えっと伝説があって」
コボルトたちには伝説があるらしい。
コボルトたちが窮地に陥ったとき、巨大な犬の神様がやってきて助けてくれるという伝説だ。
「なるほど。確かにタロ様はその神様っぽいですな。神々しいですし」
ヘクトルがそういって頷いた。
「でも、タロは別に神様じゃないよ? 神獣だけど」
「神獣? 預言者の動物版みたいなものです?」
「うーん。どうだろ? マルセル、預言者ってのはなに?」
ミナトは気になっていたことをついでに尋ねる
「預言者は聖者の一種ですよ。歴史上でも、非常に珍しい存在ですけどね」
「そっかー。コリンに勇者だと教えてくれたのはコボルト神の聖者なのかな?」
「……コリン、その薬草もその人に教えてもらったのよね?」
アニエスは険しい顔で言う。
「はい。僕が臆病だから、熊と戦わなくても助けられる方法を教えてくれたのかもです」
そういって、コリンは涙をぬぐって、無理に笑う。
そんなコリンに、マルセルが、
「ですが、その薬草は――」
そう言いかけたのを、アニエスは止めて、
「頑張りましたね」
と優しく言った。
アニエスとマルセルはその薬草を一目で見て、薬効がほとんど無い種であることを見抜いた。
それは採取したばかりでも効果は少ないというのに、時間が経ってさらに薬効は落ちている。
これを持ち帰って煎じて飲ませても、雑草を煎じて飲ませるのと大差ないだろう。
「これで、みんなが元気になれば良いのですけど」
そういったコリンは真剣な表情だった。
「えらいねー」「わふわふ~」
そんなコリンをミナトとタロは褒めた。
ミナトは頭を撫で、タロはベロベロと顔を舐めた。
「きっと、神は、コリンの勇気ある振る舞いを見ていますよ」
知識も技術も無いが、村のみんなのためにコリンは一人でここまで来たのだ。
それは愚かかもしれないが、勇気ある行動だ。
熊に戦いを挑めなかったとしても、勇者にふさわしい行動だと言えるだろう。
薬草は役に立たないだろうが、褒められるべきことだ。
そんなコリンをみんなで褒めて、食事は和やかに進んだ。
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