第50話 頑張ったコリン

「ふんふんふん」


 早めに食事を食べ終えたタロが、コリンの匂いを嗅ぎに行く。


「タ、タロ神さま、ステーキ食べるですか?」


 ステーキを要求されたと誤解したコリンが大事に食べていたステーキを差し出す。


「わふ! わぁふ!」

「タロが、そんなことしないって」

「そ、そですか」


 コリンはあからさまにほっとした様子を見せた。

 余程お腹が空いていたのだろう。


「コリンは、ここまで何を食べてきたの?」


 そう尋ねたのは弓使いのサーニャだ。

 二日も歩き続けたのなら、弁当も余程日持ちする食べ物を詰めないと腐ってしまう。


「私だったら弓で狩りを続けながら活動できるけど、剣だと大変でしょ?」

「はい。狩りは難しいので、どんぐりを拾って食べながら来たです」

「……どんぐり?」


 ジルベルトが驚いて繰り返す。


「はい。美味しくないし、渋いですけど……食べるです」


 どんぐりはそのままだととても渋い。

 普通に食べるには、一日かけてあく抜きする必要がある。


 そして、そこまでしてもすごく美味しいというわけでもない。


「そういえば、この辺りには夏どんぐりが生えていますね。あの木とかそうですよ」


 博識のマルセルが近くにある大きな木を指さしていう。


「夏どんぐりって美味しいの?」


 ミナトが尋ねると、

「ぴぴ~」

 ピッピが夏どんぐりの木まで飛んで、どんぐりを採ってクチバシに咥えて戻ってくる。


「ぴっ」

 ピッピはミナトとタロに夏どんぐりを渡す。


「ありがと! 皮を剥いてたべるの?」「わふわふ」

「そうですが、美味しくないですよ。秋になる一般的などんぐりよりアクが強いので」

「そっかー」「わふ~」


 ミナトは皮をむいて、タロはそのままパクリと食べた。


「ぐううう」「わふううう」


 そして、ミナトとタロはあまりの渋さに顔をしかめた。


「すごい味がした」「わふわふ」

「おいしくないです。でも、他に食べ物がないですよ」


 そういって、コリンは微笑む。

 コリンが美味しくない物を食べざるを得なかったことを知って、ミナトとタロは悲しくなった。


「がんばったね」「わふわふ」


 ミナトはステーキを置いて、コリンの頭を優しく撫で、タロはコリンの顔をベロベロ舐めた。


「うぇ? え、大丈夫です。ミナト、タロ神様、ありがとです」


 少し泣きそうな顔になった後、コリンは無理に笑った。

 そんな様子を見ながら、ジルベルトはコリンに尋ねる。


「村には干し肉みたいな保存食の類いはなかったのか?」

「実は、病気が流行る前から作物が不作で、だから栄養あるものは病気の人にあげるですよ」


 そういうと、コリンは食べていたポークステーキをじっと見る。

 コリンはポークステーキを村に持ち帰る方法を考えているのだろう。


「大丈夫ですぞ。それはコリンが食べてくだされ」

「そうそう。食料なら分けてあげられますからね。三十人程度なら大丈夫」


 そういって、アニエスが微笑むと、

「いいですか? そんな……」

「ええ、百人とか二百人とかになると無理ですけどね」

「ありがとうです」

 コリンは泣きそうなまま、ほほ笑んだ。


 食事で笑顔になったが、残してきた村人のことを思い出したのだろう。

 コリンの表情が、また暗くなった。


「わふ~?」

「タロが、それが薬草なの? だって」


 ミナトはコリンが倒れていたときに持っていた汚れた袋を指さした。


「そうです。この袋に採取した薬草を入れているです」


 コリンは中身を見せてくれる。


「この薬草でみんなの病気を治すです」


 コリンは一生懸命薬草を採取しながら、ここまで来たのだ。


「夢中で集めてたら、ヘドロみたいなのに襲われて……死にかけたです」

「呪者だな。コリン、よく勝てたな」

「はい。僕は勇者なので、普通のコボルトより強いですよ」

「勇者?」

「はい、コボルトの勇者です」


 そういったコリンはさみしそうな顔で、恥ずかしそうだ。


「勇者ってなに?」


 ミナトが尋ねると、

「神様に力を与えられたコボルトです。悪い奴を倒す力があるです」


 そう言った後「まだ、弱いですけど……」と呟いた。


「ほう。それはすごい」


 ジルベルトは本心からそう言った。

 神に力を与えられたならば、勇者というのは聖人聖女の一種である。


 聖人聖女とは、神に力を与えられた特別な人間を指す言葉なのだ。


「僕はすごく、ないです……う、ぅぅ」


 ずっと泣きそうな表情だったコリンが泣きだした。

 ぼろぼろ涙をこぼし、しゃくりあげる。


「僕は勇者なのに、臆病で、みんなを助けることもできず、ここに逃げてきたです」


 そんなコリンをミナトはぎゅっと抱きしめた。

 そしてタロは優しく寄り添って、コリンを舐める。


 コリンが泣き止み、落ち着くのを待って、ジルベルトが優しく尋ねる。


「なにがあったんだ? 良かったら教えてくれ」

「実は……」


 コリンはゆっくりと語り始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る