第46話 謎の気配

 王都を出た日のそろそろ夕暮れ時が訪れそうな時間帯。


「む?」

 はしゃぎ回っていたミナトが、ふと足を止めた。


「わふ~?」

 タロは「どうしたの?」と言ってミナトを見る。


「ぴぃ?」「ぴぎ?」

 ミナトの肩に止まっていたピッピと、タロの頭の上に乗っていたフルフルもミナトを見る。


「どうした? ミナト」


 すぐに追いついたジルベルトが優しく尋ねる。


「なんか……こう……? きになるけはいがする?」

「気になる気配か」


 普通の五歳児がそんなことを言っても、気にせいだとあしらわれるかもしれない。

 だが、サラキアの使徒であるミナトが気になると言ったら、何かあるかもしれないのだ。

 そう聖女一行の皆は思った。


「タロ様も気になるのか?」

「わふわふぅ~」

「タロは、あんまり? っていってる」

「そっか、タロ様は気にならないか」


 至高神の神獣であるタロが気にならないなら、気のせいかもしれない。

 そうジルベルトは思ったのだが、


「気になるなら、いってみよう。ね!」


 サーニャが力強くそう言った。

 以前、下水道で見失ってから、サーニャはミナトに一目置いているのだ。

 いや、ミナトに一目置いているのは、聖女一行の全員がそうだ。

 その中でも、特に一目置いているのがサーニャという意味だ。


「ちょっとまってね?」

「もちろんいくらでも待つけれど、何をするのかしら? 見に行くなら一緒に……」


 アニエスがそう話しかけるが、ミナトは目をつぶる。

「さくてきするから! むむう~~~」


 ミナトは雀の聖獣から貰った【索敵Lv42】のスキルを持っている。

 その索敵能力は、超一流のベテラン偵察スカウトよりも高いぐらいだ。


「わぅぅぅ~~」

 タロまで一緒にミナトの横で唸っている。


 タロは基礎ステータスが異常に高く、魔力も膨大で魔法レベルも尋常じゃなく高い。

 だが、索敵スキルは持っていない。


「わふふふ~~」

 横で唸っても、索敵できるわけではないのだが、タロはミナトと一緒が良かったのだ。


「私も索敵してみましょう。風の精霊よ――」


 若手最強魔導師と名高いマルセルが、ミナトの横で索敵魔法を行使しようとしたが、

「あ、みつけた。あっちにいる」

 詠唱が終わる前に、ミナトが見つけた。


「……どんまい」

 アニエスがぼそっと言って、マルセルの肩を優しく叩いた。


「ミナト、それって危ない奴か?」

「危なくはないかも? ちょっとまってね。ぬううー」


 ミナトは踏ん張りながら、索敵スキルで気になった方向をじっと見る。

 その方向は森だ。木々が生い茂っており、見通せない。


「さすがにミナトでも、この森では見通すことはできないのでは?」


 ヘクトルが心配そうにそう言うが、

「ぬうう~~」

 ミナトは唸りながら、じっと見続ける。


 もちろん、ミナトはただ見ているわけではない。

 ミナトは鷹の聖獣からもらった【鷹の目Lv75】があるのだ。


 気合いを入れると、はるか遠くまではっきり見ることができるのだ。


「うううう~」

 タロも一緒に、唸りながらミナトと同じ方向をじっと見つめる。

 タロは鷹の目のスキルを持っていないが、ステータスが非常に高い。


 一般的に犬は目があまり良くないものだが、タロの目はとても良かった。


「わふ?」

「あ、タロにも見えた?」

「わーう!」

「何が見えたか教えくれませんか?」


 そう優しく尋ねたのはアニエスだ。

「えっとね、あの山の方に」「わわふ」

「え? やま?」


 アニエスは驚いて、ミナトの指さした方向を見る。

 広大な森のはるか向こう。ここから十数キロは離れた位置に低めの山がある。


「…………?」


 灰色の賢者マルセルは、一瞬理解できなくて無言で首をかしげた。

 魔法を使っても、あんな遠くまで索敵することができないのだ。


 ミナトは規格外だと理解していたが、あまりにも魔導師の常識に反している。


「常識が壊れる」

「ねー。わかる、わかるよ」


 サーニャがうんうん頷いて、マルセルの肩をポンポンと叩いた。


「私もエルフと狩人の常識を壊されたよ」

 そう言ったサーニャはどこか遠い目をしていた。



「あの山ですか? 私には全然見えないのですけど……」

「そう、あの山を少しのぼったとこらへんに、困ってる人がいる。仲間だよ」

「わぁふ!」

「そだね、たすけにいこう!」


 ミナトとタロがそう言ったので、皆で助けに行くことになった。

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