第45話 王都を出立したミナト一行
王都を出立したミナトたちは、北にある隣国に向かって歩き続けていた。
「わははははははは、まてまてー」
ちっちゃい使徒であるミナトは元気に街道を走り回り、
「ばうばうばうばうばう」
でっかい犬である神獣のタロが、はち切れんばかりに尻尾を振ってミナトを追いかける。
「ぴぃ~」
聖獣である不死鳥ピッピも楽しそうにミナトの周りを飛び回り、
「ぴぎっぴぎっ!」
聖獣スライムであるフルフルが、プルプルしながらミナトの周りを飛び跳ねている。
ミナトは五歳の可愛い男の子だが、異世界からの転生者であり、女神サラキアの使徒なのだ。
使徒というのは、神の地上での代理人。とても大きな力を持っている。
サラキアから与えられた使命は、呪者と呼ばれる悪い奴から精霊や聖獣を助けること。
与えられた物は、。サラキアの鞄や書、ナイフと服などの便利な神具。
与えられた能力は、精霊や聖獣と契約したら、そのスキルや力を獲得できるというもの。
「きょうそうだよ!」
「わふわふわふ!」「ぴぃ~~」「ぴぎぴぎっ」
道に落ちてた枝を遠くに投げると、ミナトはタロ、ピッピ、フルフルと追いかけた。
ミナトは狼の聖獣からもらった【走り続ける者Lv50】のスキルを持っている。
五歳でありながらフルマラソンを一日に二回ぐらい余裕で完走できるぐらい体力があるのだ。
「わふわふ!」
速いミナトよりもタロは速い。枝に真っ先にたどり着き、口に咥えてどや顔をする。
そして、ミナトに褒めてと巨大な体を押しつけにいく。
「やっぱりタロははやいねえ」「ぴ~」「ぴぎ」
ミナトとピッピ、フルフルに撫でられて、タロは嬉しくなって尻尾を振った。
タロは元々異世界にいたミナトの愛犬だった。
不幸なことになり、ミナトと一緒に死んだ後、この世界に転生した。
転生した際、タロは女神サラキアの父である至高神の神獣になった。
至高神から与えられた使命はミナトを助けることと、この世界を楽しむこと。
与えられた能力は、ミナトを守れるおっきくて強い体。
タロの体高は150cmを優に超えており、馬よりも大きいぐらいだ。
一頭で国を亡ぼせるという伝説の古竜以上の能力を持っているが、まだ三か月の子犬。
いっぱい遊びたいし、眠るのも好きだし、人に撫でられるのも好きだった。
そしてなにより、前世の頃からずっとミナトのことが大好きだった。
「いくよー」
「わふ~~」「ぴぴぃ~」「ぴぎっ」
飽きることなく、ミナトはまた枝を投げて、みんなで追いかける。
タロに負けないように、フルフルがタロの背中に乗っていた。
「あ、動いた!」
「わふ?」
ミナトが服の中にいる赤い中型犬ぐらいの幼竜に手を触れる。
タロとピッピ、フルフルも足を止めて、ミナトの服の中を見にきた。
「ぴぃ~」「ぴぎ~?」
ピッピとフルフルは「寝てるんじゃないかな?」といいながら、幼竜の様子を見つめている。
その幼竜は古代竜の聖獣だ。
呪神の導師ドミニクに無理矢理支配され使役されていたところをミナトとタロが助けたのだ。
それからずっと、何も食べず何も飲まずに眠ったままだ。
「やっぱり気のせいだったかも! いくよー!」
ミナトが走り出すと、タロたちも一斉に走り出した。
そんなミナトたちを、少し離れた位置から眺めていた剣士ジルベルトがぼそっと呟いた。
「子供たちは……ほんと元気だなぁ。これが若さって奴か」
「はぁはぁ……若いって、はぁはぁ……いいですね」
少し前までミナトたちに付き合って駆け回っていた聖女アニエスが、息を切らしながら言う。
「ジルベルトも聖女様だって充分お若いでしょうに。それは私のセリフですぞ」
老神殿騎士ヘクトルが呆れたように言う。
ジルベルトは二十二歳、アニエスに至ってはまだ十七歳である。
六十二歳のヘクトルからみれば、二人とも若者だ。
「ミナトは特別な子供。体力も特別なのです」
二十七歳の灰色の賢者、マルセルがそう言うと、
「そだね。なんと言っても、下水道で私を撒いたぐらいだもの」
二十五歳のエルフの弓使いサーニャが、なぜかどや顔で言う。
下水道清掃に向かったミナトが心配で尾行した際、サーニャはミナトが速すぎて見失った。
サーニャは優れた狩人でもある。
そんなサーニャにとって、尾行対象を見失うというのはとても衝撃的なことだった。
「なんで自慢げなんだよ」
「ミナトは撒いたりしていませんし、勝手にサーニャが迷子になっただけでしょう?」
そんなサーニャにジルベルトとマルセルが同時に突っ込んだ。
アニエスたち聖女パーティの歩く速度は遅くない。
むしろ一般的な旅人より、二倍近く速いぐらいだ。
だが、ミナトたちの方がはるかに速い。
行ったり来たりしながら、聖女達の前を走り回っている。
「ミナト! タロ様! あまり離れるなよ!」
「わかった!」
「わふわふぅ~」
ミナトたちは普通の旅人よりは相当速く、そしてミナト基準ではゆっくり歩いていった。
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