第39話 王宮の戦い
ヘクトルとタロが出て行ったあと、ミナトは気配を消した。
ミナトの気配消しは【隠れる者Lv70】の効果で、完璧だった。
Lv10あれば熟練者なのだ。Lv40で大陸一と称えられる。
そう考えればLv70がいかに規格外かわかるだろう。
一流である聖女一行の皆が、ミナトが消えたことに気づかなくても仕方のないことだった。
「わふ~?」
神殿を囲む壁に前足をかけたタロが顔を出して外をうかがう。
そのタロの背をよじ登ったミナトも、こっそりと外をうかがった。
「うーん。騎士の人たちには呪者のかけらみたいなのがくっついているかも」
「わふ?」
「そうだね、サラキアの書で確認しよっか」
ミナトは、操られた騎士たちを自分の目で見てから、サラキアの書を開く。
サラキアは、ミナトの目を通じたものしか知ることができないからだ。
----------
【呪者に精神支配されたものを助ける方法】
呪者本体を倒そう。それが、もっとも簡単で確実。
呪者が聖獣や人の脳内にいる場合、倒すのは難しい。
その場合は操られている者の両耳に手の指を突っ込んで、神聖力を注ぎこもう。
神聖力を浴びせるだけでも動きを鈍らせることはできるけど、排除はできない。
かけらに取り付かれて操られた者は本体を倒せば救える。
※神聖力を安全に注ぎこむコツ。
ミナトの全て魔法には神聖力が混じっているが、物理的な作用のある魔法を使うと脳が大変。
魔力を小さな明かりに変換する神聖魔法
----------
「なるほど? 灯火の魔法が効果的なんだね。ひとりひとり治すより本体叩いた方がよさそう」
「わふ」
「そうだね。いこっか! タロ」
「わふ!」
ミナトを背に乗せて、タロはぴょんと飛び出す。
神殿を囲んでいた操られた聖騎士や宮廷魔導師たちが、一斉にミナトとタロを見た。
「とりゃああーーーーー!」
タロの足が地面につく前に、背に乗ったミナトが
灯火は神聖魔法の最下級魔法に過ぎない。
「ぐわああああああ!」
だが、ミナトは魔力400、神聖魔法のLvは20を超えている。
そんなミナトの灯火の魔法は、尋常ではないまぶしさだった。
それは、まるで太陽が突然出現したかのようだ。
その強烈な光に、ミナトは神聖力を乗せている。
騎士たちに取り付いた呪者のかけらは、ミナトの神聖力を食らって固まった。
それにより、騎士たちも固まり、その場にドサドサと倒れていく。
「……思ったより効果あったね?」
「わふ~」「ぴぎ~」
「時間稼ぎ成功? 王宮にいこっか!」
「わふわふ~~」「ぴぎぴぎ!」
駆けだしたタロの背で、ミナトは王都の異変に気が付いた。
「んー。瘴気が異常に濃いかも?」
民が歩いているのに、喧騒がない。皆黙々と、何をするでもなく歩き回っている。
「わふ~」
「うん、この瘴気、ちょっと嫌な気配がするね」
どんな効果があるのかはわからないが、ただの瘴気ではないのは間違いない。
「瘴気の発生源も王宮だろうし、とにかく急ごう」
ミナトがそういって、タロが加速しようとしたとき、
「神殿から出てきたものよ、止まれ」
「……待て」「……止まれ」「……王宮に近づくことは許さぬ」
前に大勢の民が立ちふさがった。
「……あ、よく見たら、みんな……支配されてる?」
非常に薄いが、民たちから呪いの気配がした。
「きっと、この瘴気の効果かな?」
「わふ?」
「そだね、このままだとまずいから、タロ、全力で王都を走り回って」
「わふ!!」
タロは民たちを飛び越えて、王都を走る。
その背に乗ったままミナトは「とりゃああああああ!」と叫びながら灯火の魔法を使用する。
ミナトの灯火の魔法が周囲を照らしながら、瘴気を払う。
そして、民の中に巣くって支配していた瘴気も消えた。
民たちはゆっくりとうずくまってから、地面に転がっていく。
「騎士たちと民たちは、支配のされ方がちがうっぽい?」
「わふぅ?」「ぴぎっ?」
「なんか騎士たちの方が、強くされているっていうか」
それはかけらを使って支配されているものと、瘴気で薄く支配されているものの違いだった。
「民たちは灯火の魔法だけで大丈夫っぽい?」
「わふ~~」「ぴぎぃ~」
タロとフルフルは、ミナトのすさまじい洞察に尊敬の念を禁じえなかった。
「タロ、ちょっと王都を走り回ってみて」
「わふわふ!」
王都はすごく広いが、タロはものすごく速い。
あっという間に王都を駆け回り、ミナトが瘴気をほとんど払い終わる。
それにより、支配されていた民もほとんどが解放されて、気を失った。
「あとは王宮だ!」
「わふわふ~」「ぴぎ~~」
タロがまっすぐに走ると、あっという間に王宮の門が見えてきた。
「そのままつっこんでー」
門番たちが身構えるよりも早く、タロは門に突っ込んでいく。
「わふ!」
タロに体当たりされた門はあっさりと砕け散った。
「わふわふわふ~~」
門を突破したタロはそのまま王宮内を走っていく。
「待て!」「曲者が!」「殺せ!」
操られた近衛騎士や聖職者、宮廷魔導師が攻撃しようとしてくるが、
「とりゃあああ!」
ミナトの灯火を食らい、近づくこともできず気絶して倒れていった。
同時に瘴気を吸って精神支配されていた執事や官吏などの非戦闘員も倒れていく。
「こっちに沢山いるっぽい!」
「わふわふ!」
「瘴気払いで時間を使ったから、急がないと!」
「わふ~~」
敵がいるとミナトが判断した方向には王宮の中だというのに壁に囲まれており門があった。
「きっと宝部屋とかだよ」
「わふ~~」
そのままタロは門に突っ込んでいく。
タロが門に激突する寸前、
「あ、アニエスたちだ」
ミナトは後ろからアニエスたちが走って追いかけてきていることに気が付いた。
◇◇◇◇
アニエスたちは近衛騎士や宮廷魔導師たちの囲みを切り開く覚悟で、神殿の外に出た。
「……なぜ倒れてる?」
ジルベルトが走りながら問いかけるとサーニャが答える。
「ミナトでしょ。どうやったのかは後で聞けばいいわ!」
「それもそうだな!」
アニエスたちは街中をかけていく。
ミナトが瘴気を払い、民の精神支配を解いているので、邪魔する者はいなかった。
ミナトを追いかけるのは、アニエス、ジルベルト、マルセル、サーニャとヘクトル。
それに見習い宮廷魔導師の少年だ。
「ぜえぜえ!」
息が上がり始めた少年をジルベルトが肩に担ぐ。
「鍛え方が足りないぞ! 少年!」
「ぼ、僕は魔導師なので」
「魔導師でも走れないと死にますよ?」
尊敬する灰色の賢者マルセルに笑顔でそう言われては何も言いかえせない。
少年は明日から走りこもうと心に決めた。
「もっと、敵がいっぱいいると思っておったのだが……」
「だから、ミナトでしょ! 黙ってついて来なさいよヘクトル!」
索敵しつつ先頭を走るサーニャが叫ぶ。
サーニャの優れた索敵能力に敵は全く引っかからない。
それどころか、動いているものがいない。
「瘴気が払われた形跡がありますね! はぁはぁ」
「それもミナトだろ。黙って走れ! お前のことは担がないからな!」
口でそう言いながら、ジルベルトはアニエスの手を掴む。
聖女一行でもっとも足の遅いアニエスをフォローするためだ。
聖女一行は、妨害を全く受けずに王宮の門にたどり着く。
「門が壊れているし、門番も倒れてる!」
「それもミナ……いや、これはタロ様だろ!」
聖女一行は、王宮内に入っても全く妨害を受けずにどんどん進む。
「拍子抜け……あ! タロ様だ!」
サーニャが見つけた直後、タロは門に突進して破壊した。
―――――――
1巻が12月15日に発売となります。
カバーイラストや特集ページのリンクを近況ノートに掲載したので、ぜひご覧ください。
https://kakuyomu.jp/users/ezogingitune/news/16817330668117663431
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます