第35話 冒険者ギルドの喜び

  ◇◇◇◇

 ミナトたちが楽しく買い食いしながら散策していたころ。

 冒険者ギルドにて、職員と冒険者たちが噂をしていた。


「最近、下水道がめちゃくちゃ綺麗になっているらしいぞ」

「あ、確かに最近は王都が臭くないな」

「でも、どうして? 最近、下水道清掃しているのってジルベルトの隠し子ぐらいだろう?」


 ミナトはジルベルトの隠し子だと認識されていた。

 毎日下水道清掃を終えたミナトはギルドにやってきて、お小遣いをもらって帰るのである。


 そんなミナトをみな優しく見守っていた。


「下水道の悪臭を何とかしてくれって、街中からたくさん要望が出てただろう?」


 メルデ湖が浄化されたのに、一向に下水道からの悪臭が消えなかった。

 飲食店や宿泊施設にとっては死活問題だし、他の者も皆、何とかしてほしいと願っていた。


「下水道清掃任務を受けているのは、ミナトだけ……もしかして、ミナトが」


 ぼそっと冒険者の一人がつぶやくが、他の者は首を振った。


「まさか、そんな、ねえ?」

「そうだ、まさかそんなことあるわけ……ない」


 王都の下水道は広大で複雑なのだ。

 数百人以上を動員しても、一週間で清掃することは不可能だ。


 ましてや五歳児が一人で清掃することは絶対に不可能に思える。


「まさか……ねぇ?」


 保護者のいない子供たちもあまりの悪臭に下水道清掃任務を避けていたぐらいだ。


 だから、清掃任務をしていたのはミナトだけ。


「ミナトが一生懸命清掃したのは間違いないんだ。褒めてあげないとな」

「ああ、そうだな」「ちがいない」


 あとで褒めてあげて、なにかおやつでも買ってあげよう。

 そう、みんな思っていた。


 そこに一人の治癒術師が、ギルド内に入ってくる。


「おお、今日はどうした? いつもより早いじゃないか?」

「それがさ。病人が激減したから、今日はもう大丈夫ってさ」


 メルデ湖の浄化により一度減った病人は、再び増加しつつあったのだ。

 だから、治癒術師は頼まれて治療院で働いていたのだ。


「それは、なによりじゃないか」

「そうなんだけどな。下水道の悪臭が消えるとみるみるうちに病人が元気になってな」

「ほう?」


 病人が急激に増加していたのは、特に悪臭被害の多いところだった。


「下水道の悪臭による健康被害ってあるのか?」

「考えにくいがな」

「さあ、気が滅入るってのはあるんじゃないか?」


 今まで、下水道清掃をした子供が体を壊した例はなかった。

 それに、冒険者たちの中にも子供のころ下水道清掃で食いつないだものは多い。


 もし健康被害があるならば、子供たちに下水道清掃をさせるのも考え直さなければならない。

 これから、ギルドの上層部は下水道清掃の安全性について、検討することになる。


「まあ、悪臭が減って病人が減ったなら、ジルベルトの隠し子に感謝しないとな」

「なんだそりゃ」

「実はな……」


 こうして、ミナトが疫病を防いだとまことしやかに噂されるようになった。

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