第32話 スライムと行く下水道浄化作戦
ミナトたちが風呂に入っている頃。
聖女の部屋でアニエスと神殿長とマルセル、ヘクトルが会議していた。
議題はおいしいアンパンの作り方だ。
「小豆は比較的簡単に、安価に入手できるが、灰汁がすごいだろう?」
「神殿長。そこは気にしなくていいでしょう。きっと灰汁抜きする方法ぐらいあるでしょうし」
「アニエスの言う通り。製造法は専門家に任せればいい。材料確保と作る人をどうするか」
「マルセル。材料はともかく作る人は問題ないですぞ。神殿の見習いがたくさん――」
ヘクトルの言葉の途中で「バァン」と扉が乱暴に開かれて、サーニャが入ってくる。
「サーニャどうした? ……くっさ」
マルセルが思わず鼻をつまむ。
「乙女に向かって、臭いって失礼すぎるでしょ!」
「そうですよ、マルセル」
そういいながらも、アニエスは鼻をつまんでいる。
「どうした、サーニャ。下水に落ちたか?」
「聞いてくれる?」
「話なら聞くから、その前に風呂に入れ」
「ちっ、わかった」
三十分後、風呂から上がったサーニャが余った菓子パンを食べながら、説明を始める。
「……ミナトが心配で下水道に潜ったのだけど」
この場にいる全員が、見ていたのでそれは知っている。
「ミナトは下水道をすごい速さで走り回って……」
水魔法で綺麗にしながら、縦横無尽に走り回っていた。
「魔法はすさまじかった。でも、それよりも、ミナトの走りに、ついて……いけなくて」
「え? 嘘だろ? いくら使徒様と言え、五歳児だぞ」
マルセルの言葉に皆うなずく。
森の狩人エルフは健脚で知られている。獲物を追って一晩中走り続けることもあるのだ。
その森の狩人エルフの中でも精鋭であるサーニャが、五歳児についていけないとは考えにくい。
みな、ミナトの【走り続ける者Lv50】のことを知らないのだ。
「嘘ついてどうするのよ。帰りもあっという間に見えなくなって……」
サーニャは迷子になったのだという。
結局、数時間迷った挙句、入った場所と違う出入り口から脱出した。
森の狩人が道に迷うとは。みな、あまりに哀れでかける言葉を見つけられなかった。
「…………次は、経験豊富なわしが行くしかありませんな」
「ヘクトルより若い俺が行くべきでしょう」
「いや、私が行くわ。次こそはついて行って見せるわ」
ミナトを見守るのはだれか真剣に話し合い始めた。
それを聞きながら、神殿長は「誰もついていかなくていいだろ」と思った。
聞いている限り、ミナトは強いし、迷子にもならないのだから。
「それで小豆の産地はどこがいいと思う?」
「そうですね、北方の……」
だから神殿長はアニエスと小豆の仕入れ先の相談をした。
ミナトの探索についていくより、アンパンを作って出迎えたほうがきっと喜ぶ。
そう考えて、神殿長とアニエスはアンパン開発に注力することにしたのだった
その後、ジルベルトがやってきて、瘴気がたまっているらしいということが報告された。
「私が瘴気が平気だったのは、ザクロ石のお守りのおかげね」
「そうだなぁ。神殿長、神像を下水道に配置するのはどうだろう?」
ジルベルトが提案すると、神官長は少し考えた。
「それもありかもしれませんが、瘴気の中に神官を派遣するのは危険ですから」
「それより、下水道の入り口に神像を配置して、瘴気が漏れないようにするのがいいのでは?」
「それだ! さすが聖女!」
そうして、王都に点在する下水道入り口に神像を設置することになった。
次の日からもミナトは下水道に潜る。
タロは入り口で待機し、ピッピは独自の調査に向かった。
そして、ミナトとスライムたちと協力して清掃するのだ。
「ぴぎ!」
「そっちにしつこい瘴気だまりがあった? 僕にまかせて!」
スライムたちがその伸縮自在の体を利用し、一晩かけて瘴気だまりを見つけてくれる。
「この裏だね。それにしても、下水道の壁ってしっかりしてるよね」
岩壁の向こう側に巧妙に隠された空間に【剛力Lv45】を使って侵入し、
「えいっ!」
っと一撃で瘴気を払う。
「瘴気だまりには、大体この汚いのがあるんだよね」
「ぴぎ~~」
硬質化して床にへばりついているヘドロの塊だ。
「ばっちいなぁ」
ミナトは忘れずに、サラキアのナイフでこそぎ落とす。
「ふう? これでよしっと。他にも見つかった?」
「ぴぎっ」
スライムは一晩に三つぐらい瘴気だまりを見つけてくれるのだ。
三つ瘴気だまりを払った後、ミナトは下水道を浄化しながら駆け回る。
「とりゃああああ!」「ピギぴぎっぴぎっ!」
フルフルを肩に乗せて、下水道を駆け抜けながら綺麗にする。
スライムたちは【走り続ける者Lv50】を持つミナトの速さについて来られない。
だから他のスライムには探索をお願いし、ミナトはフルフルだけ肩に乗せて駆け回る。
「む、しつこい汚れ発見! はああ!」
水魔法を使って、流れる水を丸ごと一気に浄化していく。
瘴気は少しも見逃さず払い、毒があれば解毒して、腐敗した水は浄化した。
「むむ! このあたり……少しだけ他より瘴気が濃い? フルフルお願い」
「ぴぎ! ぴぎぃぃ~」
ミナトが瘴気が濃いところを見つけるとフルフルが皆に知らせる。
そうすると、その近くをスライムたちが重点的に探してくれるのだ。
「ぴぎいい!」
「瘴気だまりがみつかった? やったね!」
そうして、瘴気だまりを見つけ出しては払っていった。
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