第29話 スライムとの契約
「むむ? 確かにここは他より瘴気が濃いけど……」
瘴気が、たまたま溜まっただけではなかろうか。そうミナトには思えた。
「ぴぎぴぎ~」
だが、スライムたちは「きっとこの辺りに呪者がいるに違いない」と思ったらしい。
だから、聖獣として何とかしようとしたが、どうにもできなかった。
聖獣は基本的に解呪も瘴気を払うこともできないのだ。
「聖獣は呪者がいないと、戦えないもんね」
「ぴぎ~~」「ぴぎ」
スライムたちは「何とかして? 使徒様」とミナトを期待のこもった眼で見つめている。
「まかせて。瘴気を払うのは得意なんだ! はあああああ!」
ミナトは溜まりに溜まった瘴気を一瞬で払った。
「ぴぎい! ぴぎぴぎっぴぎいいぃ!」「ぴぎぴぎっ」「ぴぃぎぃ~~」
スライムたちは「すごいすごい使徒様すごい!」と感動してくれている。
「そんな、そんなことないよ~」
ミナトは褒められて、すごく照れた。
「む? なんだこれ?」
床には、ミナトの手のひら程度の大きさのヘドロのようなものがへばりついている。
デッキブラシの柄で突っついてみるとすごく硬い。
「ばっちい。これもきれいにしとこ」
水魔法を使って、除去しようとしたが、固すぎてどうにもならない。
「むう……こういうときは……」
サラキアのナイフでこびりついたものを綺麗にする。
「これでよしっと」
使用後、ちゃんとサラキアのナイフを魔法を駆使して綺麗にするのも忘れない。
それから、綺麗になった部屋でミナトはスライムたちとお話しする。
「多分だけど、メルデ湖が呪われたせいで――」
「ぴぎ?」
「多分、時間とともに瘴気も薄くなるとは思うんだ~」
ミナトは現状に対する見解をスライムたちに伝えた。
スライムたちは「なるほど~」と感心して聞いていた。
「スライムたち、契約する? 使徒と契約すると少しだけど瘴気払えるようになるよ?」
「ぴぎ?」
「もちろんいいよ。僕もスライムたちの能力を使えるようになるし」
「ぴぃ~ぎぃ~」
スライムたちは「ぜひお願い!」と言いながら、ピョンピョン元気に跳ね回った。
「スライムたちは、つけてほしい名前とかある?」
「ぴぎ?」
「他のみんながどういう名前を付けたか知りたいの? えっとねネズミとかは――」
ネズミ一号みたいな種族名+番号のパターンとピッピのような名前を付ける場合ある。
それをミナトが伝えると、
「ぴぎっ」「ぴぃぎいい~」「ぴぎぴぎ!」「ぴぃぃぎ!」
スライムたちは口々につけて欲しい名前をミナトに告げる。
「みんな番号がいいの?」
「ぴぎ!」
番号、具体的には号ってのがかっこいいらしい。
「ぴぃぎ!」
だが、スライムリーダーだけは「フルフル」という名前がいいという。
「フルフル? いい名前だね!」
「ぴぃぎ~」
昔、下水道に迷い込んだ子供に、フルフルしているからフルフルと呼んでもらったらしい。
それがスライムリーダーの大切な思い出とのことだ。
「じゃあ、君はフルフル!」
「ぴぎ~」
「君はスライム二号! 君はスライム三号」
「ぴぎ~~」「ぴぎっ」
そうして、ミナトはスライムたち二十匹との契約を済ませたのだった。
契約後、スライムたちがミナトの周りに集まって言う。
「ぴぎ~~」
「一緒に瘴気を払ってほしいの? もちろんいいよ!」
瘴気を払えるようになったとはいえ、スライムたちの瘴気払いのLvは一桁だ。
時間もかかるし、あまりに濃い瘴気は払えないだろう。
「こういう瘴気だまりみたいなのってたくさんあるの?」
「ぴぎ!」
他にも無数にあるらしいが、全部見つけられているわけではないという。
「わかった、一緒に頑張ろうね!」
「ぴぎ~~」
それからミナトはスライムたちと一緒に、下水道を綺麗にし瘴気を払いまくった。
「そうそう、スライム三号、上手上手。その調子!」
「ぴぎ~」
スライムたちも、一生懸命、瘴気を払ってくれていた。
下水道を走り回りながら、ミナトはフルフルに尋ねた。
「そういえば、フルフルたち以外の、普通のスライムってどうしたの?」
下水道にはスライムは大量にいるという話だった。
だが、二十匹の聖獣スライム以外、まったく見かけない。
「ぴぎ……」
ついこの前まで千匹を超すスライムがいたと、フルフルは悲しそうにいう。
だが、メルデ湖から流れてきた呪いに耐えきれず聖獣以外のスライムは絶滅してしまったのだ。
「そっか、悲しいね」「ぴぃ……」
「ぴぎ!」
フルフルは「すぐに増えるから大丈夫」と明るく言った。
聖獣と聖獣からでも、普通のスライムは生まれてくるのだ。
そして、普通のスライムの増殖スピードはすごいらしい。
「ぴいぃぎ! ぴぎぴぎ」
「ネズミを超す速さで増えるの? すごい」
「ぴぎ~」
フルフルは誇らしげだ。
悲しからこそ無理に明るく振るまっているようにミナトには見えた。
「大丈夫だよ」
ミナトは立ち止まってフルフルを抱き上げる。
「僕が来たからね。安心して」
「ぴぎ……ぴぎぃぃぃ」
フルフルはぎゅっとミナトにへばりついて泣いた。
「ぴぎ? ぴぎ~~」
フルフルが泣いていることに気づいたスライムたちがどんどん集まってくる。
みんなミナトにくっついて「ぴぎぴぎ」と泣いた。
「もう大丈夫だからね」
「ぴぎぃ~」
ミナトはスライムたちを順番にぎゅっとして、優しくなでた。
スライムたちはひんやりして、すべすべしている。
しばらくミナトに撫でられて、スライムたちは元気になった。
「ぴぎ~!」
「そっちにもあるんだね! まかせて!」
スライムたちに案内されて、ミナトは瘴気だまりを払っていく。
下水道を漂う薄い瘴気ならば、スライムたちでも払うことができる。
だが、瘴気だまりの濃い瘴気は、ミナトでないと払うのが難しいのだ。
ミナトは三つの瘴気だまりを払って、その道中の瘴気も払っていく。
「しつこい瘴気汚れだね」
「ぴぎぃ……」
まるで油汚れのようにミナトは言う。
払っても払っても、じわじわと染み出てくるのだ。
「瘴気だまりの数ってすごく多いのかも」
「ぴぎぃ~」
スライムたちも探しているのだが、なにせ下水道は広いので探しきれていなかった。
王都の拡張に伴い拡張し続けた下水道はまるで迷路のようになっている。
二十匹しかいないスライムたちでは、とてもではないが見つけきることができないのだ。
「ぴぎ!」
「そうだね、もうちょっと頑張ろうか!」
「ピイィイイ!」
走り出そうとしたミナトをピッピが止める。
「え、もうそんな時間? 日が沈みそうな時間なの?」
「ぴぃ~」
ピッピはうんうんとうなづいた。あまり遅くなるとタロがさみしがる。
「ぴぎ~」
スライムたちも、ミナトは子供だから暗くなる前に帰った方がいいという。
「うーん、そうだね」
どうやら瘴気汚れは、ミナトが考えていたよりしつこいらしい。
今日一日で終わらせられるなら、もう少し粘るところだが長期戦になりそうだ。
「じゃあ、また明日ね」
「ぴぎ~」
瘴気がたまっている状況は王都のみんなにとっても良くないのだ。
払わないという選択肢はない。
「あ、そうだ。スライムたちも一緒に来る? ご飯いっしょにたべよ」
清掃任務でお小遣いをもらえるのだ。
ミナトはそのお小遣いでスライムたちにご飯をごちそうしようと考えていた。
「ぴぎ~」
「そっか、捜索を続けるの? 疲れない?」
「ぴぎぴぎっ」
「そっか、……うーん、そうだね。また明日来るからね」
「ぴぎ~」
「じゃあ、また明日、ここでね!」
ミナトはスライムたち全員撫でると、走り出した。
「ぴぴぃ~?」
「だいじょうぶ! 帰り道はわかるから」
広大で迷路のような下水道。そこをマッピングもせず適当に走り回ったのだ。
熟練の冒険者でも道に迷う状況だ。
だが、ミナトには鳩の聖獣の【帰巣本能Lv25】があるので、迷わない。
「タロ、さみしがってるよね。急がないと」
「ぴぃ~~」
ミナトは狼の聖獣の【走り続ける者Lv50】の能力で下水道を高速で駆け抜けた。
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