第28話 下水道清掃

 ミナトはピッピと一緒に下水道入り口から中へと入っていく。

 入り口からしばらくは幅一メートル高さ二・五メートルの下りの階段が続いている。


「きゅーん」

「大丈夫だよ! ちゃんと留守番しててね!」


 入り口から心配そうにのぞき込むタロに手を振って、ミナトは階段を下りていった。

 階段を下りきると、下水道に出る。


 下は幅五メートル高さ四メートルほどの空間になっていた。

 壁も天井も床もきっちりと五十センチ四方の石が組み合わされて作られている。


 床の中央には、幅一メートル、深さ十センチ程度下水が流れていた。

 下水の流れ道には等間隔で柵があり、ごみがひっかかっている。


「臭いね!」「ぴっぴぃ~」


 ミナトはギルドで借りたごみを入れるためのかごを背負っている。

 右手には大きなデッキブラシを、左手には金ばさみを持っていた。

 かごにはランタンがついており、周囲をオレンジ色の光が照らしている。


「なんかね、詰まらないように柵にひっかかってるごみを回収するんだって」

 ギルドにいなかったピッピに、ミナトは依頼について説明する。


「あとはデッキブラシで下水の底をきれいに磨くの」

「ぴぃ?」

「詰まってないのが普通らしいよ。完全に詰まったら専門業者の出番らしいし」


 子供がやるのは詰まる前。詰まらないようにするのが仕事なのだ。


「ぴぃ~」

「そだね、スライムがいたらいいね」


 下水を綺麗にするのはあくまでもついで。メインの目的はスライムの聖獣を見つけることだ。

 だが、ミナトは根が真面目なので、しっかり仕事もこなす。


「よいしょ、よいしょ……」

 金ばさみでごみをとり、デッキブラシで下水道の底を磨く。


「すごい汚れだねー。すごく臭いし。まるで瘴気の中にいるみたい! というかこれ瘴気?」

「ぴい~」

「あー、そうかも。メルデ湖から呪いに汚染された水が流れてきてたもんね!」


 今現在、メルデ湖は綺麗になり、精霊メルデが清浄な水を流している。

 おかげで王都に流れている水は浄化されてはいる。

 清浄な水を飲んだ病気の者たちも急激に回復し、治療を担っていた神殿も暇になっているほどだ。


「でも、上水は綺麗になっても、下水道にはまだ汚染された水が残っていたのかも?」

「ぴぃ~」


 上水として使われた水が下水道に流れてくるから、綺麗になるのも遅れるのかもしれない。

 だから、下水道自体が瘴気っぽいんだと考えてミナトは納得した。


 ミナトやピイにとっては、瘴気は問題ない。

 だが、他の子供が下水道清掃のために入ったら、体に悪いだろう。

 あとで瘴気もまとめて払っておこうと、ミナトは考えた。


「よおし! 頑張って掃除しないとね!」

 そういって、下水の中に入って、デッキブラシで底をごしごししていると、

「ぴぃ?」

 ピッピが「水魔法使わないの?」と尋ねてくる。


「ん? むむ? たしかに……その方が早そう」

 ミナトは素直で真面目なので、ギルド職員に教えられた方法で清掃しようとしていた。


「でも、綺麗になるなら、やり方は自由でいいかも!」

「ぴぃ~~ぴぃぃ」

「いくよ~」


 ミナトは下水で渦を作る。高速で激しい水流を作り出し、汚れをとるのだ。


「こうすれば、デッキブラシを使わなくていい!」

「ぴいぴい!」

「ふふふふ。でもピッピが水魔法を使えばいいって教えてくれたからだよ!」


 ピッピに「こんな魔法を使えるなんて天才だ!」とほめられて、ミナトは機嫌を良くした。


「魔法ならこんなこともできる!」


 水魔法で、下水の渦を作りながら、水を綺麗にしていく。

 湖の精霊メルデに教えてもらった体を綺麗にする魔法の応用である。


 神聖魔法で消毒し、ついでに瘴気を払っていく。

 固形物のごみは水から分離して、かごの中に放り込む。


「うおおおおおお!」「ぴいいいい!」

 下水の激しい渦とともにミナトは走り回りながら、綺麗にしていった。


「どんどんいこー!」

「ぴい~?」

「たしかにスライムいないね。マルセルさんは下水道にたくさんいるって言ってたのに……」

「ぴぴ!」

「ん、そだね、ピッピはスライムを探してきて。僕も清掃しながら探ってみるね」


 ピッピは下水道内を素早く飛び回り、スライムがいないか探し始める。

 ミナトは水魔法で下水を掃除し瘴気を払いながら【索敵Lv42】のスキルで周囲を探る。


 十分ほど、そうしながら走りまわっていると、

「むむ~む? む?」

 ミナトはおよそ百メートル先の壁の向こうに空間があり、何かがいることに気づいた。


「ピッピ! この壁の向こうに生き物がいるっぽい!」

「ぴぃ~~?」

 ずっと先を飛んでいたピッピが戻ってくる。


「ぴい?」

 ピッピは何も感じていないようだ。

 壁の石はしっかりとしており、穴が開いているわけではない。


「ん? この石、接着されてない。つまりこれを引き抜けば……んーーしょっと」

 ミナトは漆喰で固定されていない石を見つけて、引き抜いた。

 五十立方センチの大きな重たい石だ。

 だがミナトには【剛力Lv35】で得た怪力があるので、なんてことはなかった。


「うわぁ! すごく臭い!」「ぴぴぃ~」

 開いた壁から、濃密な瘴気が漂ってくる。


「ぴぎっ!」

「あ、スライムだ!」「ぴぃ~~」

 壁の向こうの部屋の中にカラフルなスライムがたくさんいた。


「よいしょっと……」「ぴぃぴぃ」

 ミナトとピッピは引き抜いてできた穴をくぐって、瘴気漂う部屋の中に入る。

 大人ならくぐるのも大変だろうが、ミナトは小さいので楽にくぐることができた。


「ぴぎっぴぎっ」「ぴぎっ」

 部屋の中にいた二十匹のスライムが、おびえた様子で跳ね回る。

 強さは様々だが、二十匹全員が聖獣のスライムだった。


「大丈夫! みんな落ち着いて! 落ち着いて! 大丈夫だから。僕は使徒だから!」

 ミナトはパニックになっている聖獣スライムたちに話しかけて落ち着かせた。


「落ち着いた?」

「ぴぎ~」「ぴぎっ」「ぴぃ~~ぎ」


 一分後、ミナトがサラキアの使徒だと分かって、スライムたちは落ち着いたようだ。

 スライムたちは、口々に呪者がやってきたと思ってパニックになったのだと言っている。


「驚かせてごめんね」

「ぴぎぃ~」


 スライムたちのリーダーがミナトの前に出る。

 そのスライムは綺麗な空色でサッカーボールぐらいの大きさだ。


「みんなで集まって何してたの?」


 スライムは下水道の有機物を食べるという。

 ならば、まとまらずにバラバラにいるのが自然である。


「ぴぎぎぃ~~」

 スライムは瘴気が濃い部屋があるから、何とかしようと集まっていたらしかった。

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