第27話 初任務
冒険者登録を済ませると、早速ミナトとタロは下水道掃除の依頼を探す。
「下水道、下水道……」「わふわふ」
「お、坊主。早速仕事か?」
そんなミナトとタロに冒険者の一人が話しかける。
「うん! お金稼いでお菓子買うの」
「わふわふ!」
「ね、お饅頭、買うんだもんね」
「わふ~」
楽しそうなミナトに、冒険者たちは庇護欲を刺激された。
「饅頭ならおじさんが……」
奢ってやろうといいかけた冒険者が、止められる。
「おい、初めての冒険なんだ、邪魔するな」
小声でたしなめた後、その冒険者は尋ねる。
「どんな仕事を受けようと考えているんだい?」
「えっとね、下水道掃除の仕事を探しているんだー」「わふ~」
「下水道か。確かに初心者には向いているかもな」
「だが、臭いぞ?」
「大丈夫!」「わふわふ!」
可愛いミナトをほっとけなくなった冒険者たちがいろいろ教えてくれる。
「清掃道具なら、ギルドで貸してもらえるからな」
「下水道掃除なら、これとかがいいんじゃないか?」
「ありがとー」「わふわふ!」
先輩冒険者たちに教えてもらい、ミナトは下水道掃除の仕事を無事受注したのだった。
「みんな、ありがとねー」「わふわふ~」
「おう、気をつけてな!」「無理はするなよ!」
冒険者たちに見送られ、ミナトは下水道へと歩いていく。
上空を見れば、ものすごく小さくみえるピッピが、ゆっくりと旋回している。
下水道へと歩く途中、ミナトがつぶやいた。
「強くなったつもりだったけど、全然だったねぇ」
「わふわぅ」
「ん? 一応確認してみる?」
ミナトは立ち止まってサラキアの書を開いた。
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【ステータス隠蔽】
ギルド等でうけるステータス検査の際、ミナトとタロの数値は自動的に改ざんされるよ!
改ざんされた数値は五歳児や大きな犬でも不自然ではない程度になるよ。
真の数字を明らかにしたいときは、そう願いながら検査を受ける必要があるよ。
※ステータスの開示は慎重に!
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「なるほど~そうだったのか」
どうやらサラキアがミナトたちのことを心配してそういう技能をつけてくれたらしい。
「ありがと、サラキア様」「わふわふ」
ミナトとタロはサラキアに感謝の祈りを捧げた。
そんなミナトとタロを遠くから見守る者がいた。
「あり……がと? って言ったのかしら? 何やってるのかしら」
「神に祈りでも捧げているんでしょう」
「音声をもっと明瞭に聞こえるようにできないかしら?」
「無茶言わないでくださいよ」
それは聖女アニエスと、魔導師マルセルだった。
アニエスには至高神の神殿を離れるわけにはいかない用事があった。
だから、神殿の高い塔に登って、遠眼鏡を使ってミナトとタロの様子を見守っていたのだ。
マルセルが呼び出されたのは会話も聞きたいとアニエスがわがままを言ったからだ。
本当はマルセルもサーニャと一緒に尾行するつもりだったのだ。
「これだけ遠く離れた場所の音を拾う魔法は難しいんですよ?」
「ありがとう、マルセル。恩に着るわ」
「はいはい。あ、下水道の入り口についたみたいですね」
「……心配だわ。下水道でヘドロまみれになったり、スライムまみれになったり……」
「大丈夫でしょう」
マルセルは聖女に適当に答えながら、ミナトを近くで見守るサーニャと神殿長を見た。
彼らがいるから、何かあっても大丈夫だろう。
もっとも神殿長が神殿を抜け出したから、アニエスは留守番を強いられているのだが。
「ジルベルトとヘクトルも……いますね」
ジルベルトと老神殿騎士ヘクトルは別行動しているのだが、やっていることは同じだ。
二人ともサーニャより近くから見守っている。
素人の神殿長と行動を共にしているサーニャは、気づかれそうで思うように近づけないのだ。
みんなに見守られながら、下水道の入り口についたミナトのもとにピッピが降りてくる。
「ピッピ、ついてきてくれるの?」
「ぴぃ~」
下水道への入り口は街はずれの人がほとんどいない場所にあった。
「ふむ~。この大きさだとタロは入れないね?」
「わふっ!?」
下水道出入り口の扉は幅一メートル高さ二・五メートルの長方形だ。
扉に続く通路の幅と高さも扉と同じ。
巨大なタロが、無理やり入っても、自由に動くことができないだろう。
「きゅーんきゅーん」
タロは「入れるよ」と主張する。
「だめ。逆に危ない」
「きゅーん」
狭い場所にぎゅうぎゅうになって、入ってもも途中で引っかかるかもしれない。
それに、タロが暴れたら下水道自体が壊れかねない。
「タロ。ここでお留守番ね」
「……きゅーん」
「お留守番できる? さみしくない?」
「きゅーん」
タロは仰向けになって体をくねくねさせながら「留守番できない」といって鳴いている。
「タロ、我慢して」
「きゅ……」
「タロ、知らない人についていったらだめだよ?」
「ぴぃ~、わふ」
「ダメ。お菓子くれるって言われてもだめだよ?」
「ぴぃぃぁぅぁぅ」
ミナトはタロを撫でながら言い聞かせる。
「帰ってきて、お金もらったらお饅頭、買ってあげるからね」
「わふぅ~」
しばらくなでて、タロを落ち着かせてから、
「じゃあ、タロ、いい子で待っててね」
「……わふ」
ミナトとピッピは下水道の中へと入っていった。
その様子を見ていた、神殿長がサーニャに言う。
「下水道に幼子が一人ではいるなど……危険ではないのか?」
「うるさいな……もともと下水道掃除は子供が一人でもできる仕事だって」
下水道の中までついていこうか悩みながら、サーニャは答える。
「そうなのか……心配だな。あんな任務受けなくてもいいように、私がお小遣いを……」
「ミナトは断ると思うよ」
「なぜだ! 子供はお小遣いをもらうものであろう」
サーニャは「はぁっ」と溜息を吐く。
「ミナトは自立心が強いんだよ」
「五歳児は保護されるべきであろう」
「それは、そうなんだけどね……」
「ぐぬぬ……あ、そうだ! ミナト様は神像と特別なザクロ石をもっているのだったな」
昨日のうちに聖女一行は神殿長に報告をすませてある。
その報告の中には、お守りとして効果の高い神像とザクロ石のことも書かれていた。
「それを売ってもらおう。そうすれば我々も助かる。ミナト様とタロ様も助かる、だろう?」
「…………それはいいかもしれないね」
サーニャは「たまにはいいこと言うじゃないか」と思いながら同意した。
サーニャたち聖女一行もミナトとタロにどうやってお小遣いを渡そうか悩んでいたのだ。
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