第26話 冒険者ギルドに登録しよう
冒険者たちはタロを見て「でかすぎるだろ」と思った。
ジルベルトは大きな犬と言っていたが、大きいとかそういうレベルではない。
馬ぐらいある。もはや犬かどうかも疑わしいレベルだ。
そして、ミナトはすごくかわいい男の子だった。
全員が「ジルベルトに似てない、いや似てるのか? 目元とか」みたいなことを思っている。
ジルベルトはすごくハンサムだし、その子の容姿が恵まれてもおかしくないな。
そんなことを考えながら、全員がこっそりとミナトたちの様子をうかがう。
「ここが冒険者ギルドかー」「わふ~」
きょろきょろしながら、ミナトとタロは建物の奥へと入っていく。
初めての冒険者ギルドに、わくわくが止まらない。
ミナトとタロのテンションはとても高かった。
「すごいねー。掲示板がある。あれに依頼がのってるんだって! ジルベルトさんがいってた!」
「わふわふ!…………わふ?」
「しーっ」
ジルベルトは変装しているが、タロは匂いですぐに気づいた。
ジルベルトは、気づかなかったふりをしろとタロに向かってジェスチャーするが、
「ジルベルトさん、なにしてるの?」
ミナトは【索敵Lv42】の効果ですぐに気づいた。
ちなみにサーニャたちにもミナトは気づいていたが、たまたまだと思ってスルーしていた。
「お、ミナト、奇遇だな ちょっと、用事があってだな」
「そっかー。ジルベルトさんも忙しそうだもんね! 用事は終わったの?」
「ああ、終わったところだ」
変装を見破られたら、去るしかない。
未練がましく「何度も大丈夫か?」と言いながらジルベルトは去っていく。
「また、あとでねー」「ばうばう~」
ジルベルトを見送った後、ミナトとタロは受付に向かう。
「冒険者になりに来ました!」「ばう!」
「あ、はい。その……動物は?」
ギルド受付の青年は戸惑った様子であまりに大きなタロを見る。
「タロは犬です! 従魔登録をしに来ました!」「ばうばう!」
「い……ぬ……?」
「可愛い犬です!」
ミナトは堂々と犬だと宣言し、
「きゅ~ん」
タロは撫でてと言わんばかりに甘えた声を出しながら、受付に頭を差し出す。
「撫でてだって!」「きゅぅ~ん」
「……そんな、まるで犬みたいな」
「犬です!」「ぴぃ~」
受付の青年は犬かもしれないと思い始めた。
おずおずと手を出してタロの頭を撫でた。大きいのにもふもふだ。
馬のように毛が固いといったこともない。
「大きいのに犬っぽい……」
「犬です!」「はっはっ!」
タロは嬉しそうに尻尾をぶんぶん振っている。
「えっと……」
受付の青年は後ろを振り返る。
上司は無言でうんうんとうなづいていた。
上司は「ジルベルトを怒らせても面倒だしいいから手続きしてやれ」と考えていた。
ジルベルトは信用が厚い。実家が伯爵家だし、なにより聖女の従者筆頭である。
もし何か問題が起こっても、神殿と伯爵家がフォローしてくれるだろう。
「かしこまりました。ミナトさんの新規登録と犬一頭の従魔登録ですね」
「はい!」「わふぅ!」
「文字は書けますか」
「かけます!」「ぁぅ……」
タロがしょんぼりした様子になって、尻尾の揺れが止まった。
「あ! タロは書けません! 僕がタロの分も書きます! いいですか!」「わぅ!」
タロは感激した様子でミナトを見る。
「あ、はい。従魔は書かなくていいんですよ。こちらの書類に記入してくださいね」
「はい!」「はっはっはっ」
鼻息の荒いタロに見守られながら、ミナトは記入していく。
ミナトは、サラキアによって、会話と読み書き能力は与えられているのだ。
「ミナト、おとこ、年は……五才……故郷? 森? あ、メルデ湖にしとこ」
降臨した森の名前がわからなかったので、出身地を森の近くのメルデ湖にする。
「特技はなに書けばいいのかな? あしがはやい?」
「特技欄には魔法を使えたら魔法の属性を。得意な武器等があれば、それを」
「ありがと!」
受付の青年に教えてもらいながら、ミナトは書いていく。
「火魔法と水魔法……あとはナイフと神像作りかな!」
「おお、二属性も。さすがです」
ナイフはともかく神像作りって何だと思いながら、受付はそういった。
冒険者たちも職員たちも五才で二属性魔法を使えるとは、才能がすごいなと感心していた。
「さすがはジルベルトの子……」
「いや、ジルベルトの子なら、剣じゃないのか?」
「母親が魔法使いなんだろ……」
冒険者たちはそんなことをボソボソ噂している。
「従魔はタロ、犬。特徴……つよい?」
「わふぅ~」
タロは誇らしげに尻尾を振っている。
「はい! 書けました!」
「お疲れ様でした」
受付の青年は笑顔で書類を受け取る。
説明して書かせている間に、青年はミナトとタロが好きになっていた。
なぜなら、けなげな感じがして可愛いからである。
ミナトは踏み台に乗り背伸びしながら、一生懸命記入している姿が可愛かった。
それを見ながら尻尾を振ってるタロも可愛かったのだ。
「カードを作りますので、椅子に掛けて少しお待ちください」
「はい!」「わふ!」
ミナトは椅子に座り、その横にタロがお座りする。
「……ピッピ、さみしかがってないかな」
「わふ~」
今、ピッピは上空を飛んでいるはずだ。
手続きが全部終わったら、撫でてあげようとミナトは思った。
「ミナトさん、カードができました」
「はい!」「わふ!」
受付に向かうと白色のカードが作られていた。
「念のために、名前や年齢に誤りがないか確認してくださいね」
「おおー白い!」「わぁぅ~」
「Fランク冒険者のカードは白になります。冒険者にはランクがあって……」
受付の青年は丁寧に説明してくれる。
一年目のFランクは白いカードだが、二年目のEランクになると黒になる。
一人前と認められてDになれば銅のカードになり、ベテランのCは銀のカードだ。
ベテランの中でも精鋭のBは金のカードになる。
「あれ? ジルベルトのカードは銀色だったよ?」「わふ~」
「ああ、ジルベルトさんはAランク。白金です。銀より白っぽいんですよ」
「そなんだー」「わふ~」
「ちなみにAの上、Sランクになると透明、クリスタルカードになります」
「透明! かっこいい!」「わわふ~」
ミナトは透明カードは欲しいなぁと思った。
「さて、ミナトさん、タロ。あとはカードにステータスを記録します」
「はい!」「わふ!」
そういって、受付の青年は魔道具を取り出してカードをセットする。
「この魔道具で能力検査をします」
「能力検査!?」「わふ~」
ミナトとタロが、同時にびっくりするのが、また可愛い。
それは受付の青年だけでなく、職員や冒険者たちも同じ気持ちになっていた。
「この魔道具に手を触れれば、ステータスが記録されるのです」
「す、すごい」「わ、わふ~」
「ミナトさんはこちらに触れてください」
「はい!」
「タロはこっちに肉球を置いてくださいね」
「わふ~!」
ミナトとタロは職員の指示通りに手を置いた。
すると「ジー」という音がして、カードが光った。
「これで記録されたの?」
「はい。カード内部にデータとして記録されています」
「すごい!」「わふ」
「カード自体、魔道具ですから」
そういいながら、受付の青年は、能力を検査した魔道具を指さして説明を開始する。
「各地のギルドにあるこの魔道具でカードを読み取ると、ステータスが表示されます」
「ほほー」「わふ~」
「ステータス自体はプライバシーではあるのですが――」
ギルドとしては冒険者のステータスを把握してないと、適した仕事を斡旋できない。
だから、初回はかならずステータスを確認しなければならないのだという。
「なるほどー」「わふわふ~」
「二回目以降は強くなったと思ったときに登録しなおしてくださいね」
強くなったステータスを登録しなおせば、より難易度の高い任務を受けられるようになる。
「実績に加えて、ステータスも、ランク上昇審査の際には加味されますから」
「わかりました!」「わふ!」
「それではステータスを表示して、ギルドのデータベースに記録しますね」
「はい!」「わぅ」
受付の青年が魔道具に紙をセットして操作すると、ステータスが書き込まれていく。
「おお、ミナトさんなかなかですよ。タロさんは……本当に犬ですか?」
「そうなの?」「わふ?」
受付の青年はその紙をミナトとタロに見せてくれた。
「むむ?」「わふ?」
ミナトの能力値は大体10前後。タロの能力値は大体80程度だった。
五才の平均値が5であることを考えれば、すごく高い。
だが、一般成人男性の平均値が20前後のことを考えれば、強くはない。
タロの80も熟練冒険者の平均値60と一流冒険者の100の間。
かなり強力だが、ベテランパーティならば、討伐できる水準だ。
スキルもミナトは【火魔法Lv5】と【水魔法Lv5】だけ。
タロのスキルは【大きな体Lv30】のみだ。
「そっかー」「わふ~……」
だいぶ強くなったと思ったが、やはりそんなに強くなかったらしい。
きっとサラキアの書の数値の基準と、一般的な基準が違うのだろう。
すこしミナトとタロはがっかりした。
「ミナトさんは五才ですから、すぐ強くなりますよ!」
それから受付の青年は、他の冒険者に聞かれないようミナトの耳元で小さな声でささやいた。
「それに魔法のLv5はすごいですよ」
「ほんと?」
「ほんとです!」
「えへへ!」「わふわふ!」
ミナトとタロはたちまち元気を取り戻したのだった。
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