第25話 初めての冒険者ギルド

 王都ファラルドに来た次の日、ミナトとタロは一緒に冒険者ギルドに向かった。

「登録は簡単らしいよ!」

 王都に来る途中、ミナトはジルベルトにやり方を聞いていたのだ。


「タロも従魔登録しないとね」

「わふ~」

「ピッピはしたくないみたいだけど」


 ミナトははるか上空を飛ぶピッピを見る。

 ピッピは従魔登録しなくていいと言って、空を飛んでいるのだ。


「あ、お菓子売ってる! お饅頭かな? 中身なんだろー」

 あんこだったらうれしいけど、あんこはこの世界にあるのかな? とミナトは思った。


「わふ!?」

 タロは中身はあんこだと信じていた。


「食べたいの? でもお金ないから、我慢だよ」

「わふ……」


 そんなことを話しながら歩いているミナトたちの十メートルぐらい後ろ。

 粗末な服を着た老人と若いエルフがこっそりつけてきていた。


「……ミナト様、タロ様、なんと不憫な。饅頭ならこの爺が何個でも買ってあげますのに」

「……ついてこないでくださいよ。足手まといです」


 それは神殿長とサーニャだった。

 一人で冒険者登録に行くといったミナトが心配で、サーニャはこっそり見守ることにしたのだ。


 初めてのお使いに向かう幼児を見守る保護者の心境だ。

 そんなサーニャに神殿長が強引についてきていた。


「足手まといとかいうでない、傷つくではないか」

「はぁ、めんどくさいなぁ。この爺さん、まいちゃおうかな」

「それは、やめてくれ」


 真剣な表情の神殿長をみて、サーニャはため息をついた。

 神殿長は若いころ、サーニャの故郷に蔓延した疫病を癒したことがある。

 だからサーニャは、基本的に神殿長に頭が上がらないのだ。


 一方そのころ、冒険者ギルドでは、変装したジルベルトが冒険者たちに叫んでいた。

「おい、お前ら、わかってるな!」

「わかってるって。ジルベルト。ミナトって子をいじめるなっていうんだろ」


 変装はやがて来るミナトを欺くため。

 冒険者たちも職員たちもみなジルベルトだと分かっている。


「そうだ。ミナトはとてもいい子なんだ。いじめたら俺が容赦しないから肝に銘じておけ!」

「わかってるって」

「というか、そのミナトってのは誰なんだ? ジルベルトと何の関係がある?」

「……それは、……いえない」


 急に口ごもるジルベルトを見て、冒険者とギルド職員たちは(隠し子か……)と思った。


「そうか……お前も大変だな」「聖女様にばれたら殺されるもんな」

「何の話だ?」

「お前も男だもんな。そういうこともある」「不潔っ! 幻滅しました!」


 男たちは生暖かい目で、女たちは蔑みの目でジルベルトを見る。


「だからなんの話だ?」


 みんな、ジルベルトが聖女といい感じの関係だと思っている。

 だが、聖女に処女性は必須ではないとはいえ、そう簡単に手を出すわけにはいかない。


 だからきっと、若い欲望を抑えきれず、どこかの女に手を出したのだと誤解した。


「伯爵公子も大変だなぁ」


 そのうえ、ジルベルトは伯爵の息子だった。

 しかも祖父の前伯爵は剣聖なうえ、その祖父より剣の才能は上だといわれているのだ。

 将来的にジルベルトは剣聖になると目されている。


「才能あるいいところのお坊ちゃんは、いろいろ大変だもんな」


 貴族は後継者争いとかいろいろ大変なのだと、冒険者たちも知っている。

 剣聖は王の剣術指南役を務めるのが習わしだ。


 つまり王の師になるのだ。権威と権力は相当なものだ。

 聖女との関係。そして家柄の関係。


 いろいろあって、子供として認めるわけにはいかないのだろう。

 そう冒険者たちと冒険者ギルドの職員全員が誤解したころ。


「こんにちは!」「ばうばう~~」

 ミナトとタロが冒険者ギルドの扉を元気に開いて現れた。

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