第24話 呪神の信徒
◇◇◇◇
ミナトたちが王都ファラルドに入る一日前。
王都の外周のさらに外。郊外にある大きな屋敷で、呪神の信徒の会議が開かれていた。
「メルデ湖の呪いが解かれたというのは本当なのか? 使徒様の施された呪いだぞ?」
「ああ、どうやらそうらしい」
「バカな! 聖女ですら解くのは難しいという話だったではないか!」
「だから、聖女に湖に行かせるなといったというに……」
「はあ? 聖女を亡き者にするいい機会だといったのはお前だろうが!」
声を荒げ、ののしりあいに発展した会議の場に、よく通る声が響いた。
「過ぎたことは、どうでもよろしい」
声を発したのは三十代ぐらいに見える男だ。
その男が口を開いた途端、信徒たちは一斉に黙り、頭を下げる。
「湖から呪われた水を流す計画はとん挫しても、我らの計画はそれだけではあるまい」
「まこと、その通りでございます」
「多少遅れようと、計画自体には何の問題もない。そうであろう?」
「ドミニク殿下、いえ、導師の仰せのとおりにございます」
信徒の問いにドミニクは、満足そうにうなずいた。
呪神の教団のヒエラルキーは単純だ。
神の代理人たる使徒をトップにして、導師、幹部信徒、平信徒という階層となっている。
ドミニクは王の甥にして、ファラルド国内における呪神教団のトップである導師だった。
「聖女は我らが思っていたよりも成長していたのかもしれぬ」
「殺しますか?」
「機会があればな。だが、あえて動いて隙を見せるのも面白くない」
ドミニクはにやりと笑って言う。
「王都に瘴気をばらまく準備が整った」
「おお!」
「これから急激に病魔がこのファラルドに蔓延する」
メルデ湖を浄化して疫病を防ぎ、聖女の人望が上昇したばかりだ。
その直後に疫病が蔓延すれば、聖女にだまされたと民は思うだろう。
そして、そのころには聖女は病魔を癒すのにかかりきりになるだろう。
「とてもではないが、回復は追いつくまい」
得た信望が反転し、聖女は憎しみの対象となりうる。
「ですが導師がおっしゃったように聖女の成長は想定を超えているやも」
「それでもよい。まだ奥の手はある」
それを聞いた信徒たちは口々に「さすが導師」とほめそやす。
「王都が、そしてこの国が我らのものになるときは近い」
王都ファラルドは呪神の支配する土地になるだろう。
呪神の支配する地において、絶対的な貴族になる。それが彼ら幹部信徒の望みだった。
「我らの栄光ある未来に」
「呪神と使徒様、そしてドミニク導師に乾杯」
呪神の信徒たちは、勝利を確信し早くも祝杯を挙げた。
信徒たちが解散した後、ドミニクは屋敷の地下へとやって来た。
そこには信徒たちも知らない、導師であるドミニクだけが知る「奥の手」があった。
その「奥の手」は呪神の使徒が、導師ドミニクに託したものだ。
「……グギギギギギ」
「まだ粘っているのか」
使徒が託した「奥の手」は赤くて小さな竜だ。
竜の頭には黒い金属光沢をもつスライムのような呪者が取り付いている。
そしてその竜の横には、ピッピより二回りは大きいフェニックスがいた。
「フェニックス。もう少しかかりそうか?」
「……ピピ」
「なにを言っているかわからんな。七日以内にできるか? 二週間以内には?」
ドミニクは「はい」か「いいえ」で答えられる問いを投げかける。
「……ピ」
「そうか。二週間以内にはいけるか……もっと急がせろ」
「ピ」
ドミニクと呼ばれた男はフェニックスに命令すると、赤い竜を見る。
「幼体とは言え最強の聖獣である
この国どころか、世界を呪いで覆える。
メルデ湖の呪いも、これから実行する病魔をばらまく作戦も、すべては時間稼ぎだ。
「そうなれば、この世界が変わる!」
ドミニクは恍惚の表情でつぶやく。
信徒たちは、呪神の世界における支配層になるのが目的の者が多い。
だが、導師となれる者は、呪神の支配する世界そのものを目的としている者だけだ。
加えて、呪神の魔法の適合度が高さも求められる。
呪神の導師は、強力な魔導師でもあるのだ。
「……それにしても使徒様とは恐ろしいものだ」
強力なメルデ湖の精霊を呪い、古竜の幼体を盗み出しただけではない。
古竜の幼体の精神支配するための特別な呪者をも用意してくれた。
そして、精神支配済みのフェニックスまで貸してくれた。
「それだけ私は期待されているということであろうな」
ドミニクは、満足げにうなずいた。
◇◇◇◇
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