第21話 街への道中
街につながる川沿いにミナトたちは歩いていく。
歩きながらヘクトルが優しく言う。
「本当は川沿いに下っていくのは、あまりよくないのですぞ」
「そうなの? 街につながってるなら迷わないからいいんじゃないの?」
「そう考えて、川沿いに歩けば、高い確率で滝に遭遇するのですな」
「ふおー、滝!」「わふ~」
滝、つまり崖に遭遇して進むことも戻ることも難しい状態に陥ることが多々あるのだ。
「ほら、滝が見えてきましたぞ」
「あ、滝だー」「わふわふ!」
「ご安心を、ミナトさんのことは、この爺が背負って……」
「わー」「わぁふわあふ」
ミナトはまるで崖に住むヤギのように跳ねるように滝の横を下っていった。
ヤギの聖獣から授けられたスキル【登攀者】の効果である。
「…………」
「残念だったな、爺さん。おーいミナト! 待ってくれ」
ジルベルトは素早くロープを使って崖を降りていった。
夜になると、ミナトはタロと一緒に眠る。
でっかいタロの前足と後ろ足の間に横たわり、タロの尻尾を抱っこして眠った。
もちろんジルベルトたちはテントに入るように言ったが、ミナトはタロと一緒が良かったのだ。
「タロはあったかいねえ」
「わふ……」
「ピッピもあったかいねぇ」
「ぴぃ」
ピッピはミナトのお腹の上で眠る。
フェニックスであるピッピはカイロのように暖かかった。
夜、テントの中に入った聖女一行も静かになったころ。
「……ぴぃ?」
「ん? 【状態異常無効】のスキル? うーん。そんなの持っている子いるのかな」
「ぴぃ……」
「どうして、ピッピは【状態異常無効】を持つ子が気になるの?」
「…………ぴ」
「そっかー、言えないなら言わなくても大丈夫だよ」
ミナトはコートのポケットからサラキアの書を取り出した。
「【状態異常無効】を持つ聖獣、精霊を調べてみようね」
ミナトは肩に乗ったピッピと一緒にサラキアの書を読む。
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【状態異常無効】
毒や精神操作(混乱、催眠、強制睡眠、精神操作等)を無効にするスキル。
所持している聖獣は非常に少ない。
だが下位スキルである【毒無効】を持っている種族の特異個体なら所持している可能性あり。
【毒無効】を持つ代表的な魔物は「スライム」
※多くの【毒無効】を持つ聖獣と契約すれば、使徒は【状態異常無効】を獲得する可能性あり。
【スライム】
掃除屋と呼ばれ、死肉などを食べて消化する。
生息域:森林地帯、洞窟内、平原。都市内。
ほとんどのスライムは弱いが、毒を吐いたりする強い個体もまれにいる。
何を食べているかによって、細かい種類に分かれる。
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「スライムなら、持っている可能性があるかもだって」
「ぴい~?」
「スライムの聖獣のうわさを街できいてみようね」
「ぴぃ」
ピッピは「ありがと」と言って、ミナトのほっぺに顔を押し付けた。
「……ふんふん」
タロはそんなミナトとピッピの匂いを嗅いで、なぜか満足した様子で目をつぶった。
次の日、ミナトは歩きながら、聖女一行の皆に尋ねる。
「スライムの聖獣っているのかな?」「…………」
タロの背に乗ったピッピがじっと聖女一行を見つめている。
「スライムの聖獣? 聞いたことがないな」
「私もありませんね」
「私もないかな。エルフの森にもスライムはいたけど……聖獣ってのは聞かないかも」
「うーん、寡聞にして、私も聞きませぬな」
ジルベルト、アニエス、サーニャ、ヘクトルが知らないと答えるなか、
「そりゃあ、いるでしょう?」
マルセルは当然だというように答えた。
「いる? いた?」
「わかりにくくてすみません、ミナト。そうですね……」
そういって、マルセルは優しくミナトの頭を撫でた。
「えへへ」
「聖獣というのはどんな種族の魔物の中からも、たまに生まれるものなんですよ」
「そうなんだ!」「ぴ~」
「だからスライムの聖獣もいますよ」
「いるのかー。どこに行ったらあえるかな?」
「さあ……そこまでは。ですが、スライムがたくさんいるところに行けば確率はあがるかと」
「ほほう? スライムが多いところかー。どんなとこが多いの?」「ぴぴい?」
少し考えて、マルセルは答える。
「うーん、そうだね。一番多いのは下水道ですね」
「下水道かー」「ぴぃ~」
「下水道は、森や洞穴より餌となる生ごみとかがたくさんありますからね」
聞いたら答えてくれるマルセルを、ミナトとピッピは尊敬のまなざしで見つめる。
「ねえねえ! どうやったら下水道いけるの?」「ぴぃぴぃ?」
「下水道ですか? 清掃業者に頼むとか……」
「違うぞ。マルセル。下水道の清掃は初心冒険者の仕事だ」
マルセルのミナト人気に嫉妬したジルベルトがすかさず言った。
「そうなのか? 私はてっきり清掃業者が担っているものだと」
「ああ、学者出身だと体験しないかもな。冒険者は大体下水道でデビューするんだ」
「ジルベルトさん! 冒険者って何?」
キラキラした目でミナトに見つめられ、ジルベルトは嬉しそうに答える。
「冒険者ってのはな。魔物討伐を含む仕事を担うなんでも屋だ」
「ほえー。僕もなれる?」
「ああ、なれるぞ。年齢制限も何もないからな」
詳しく聞くと、ごみ拾いとかで生活する子供の冒険者もいるらしい。
元々、怪我や老いで戦えなくなった冒険者のために、安全な仕事を斡旋したのが最初らしい。
その安全な仕事を、保護者のいない子供も担うようになったのだ。
「街についたら僕も冒険者になろ!」
「わふわふ!」
話を黙って聞いていたタロが「タロもなる!」と張り切って、ミナトの周りをぐるぐるまわる。
「タロもいっしょになろうねー」
「わふわふ~」
「タロ様は、犬だから冒険者になれないぞ?
「……きゅーん……ぴぃ~~」
タロが悲しそうに鼻を鳴らす。
「だ、大丈夫よ、タロ様。ミナトさんの従魔として登録すれば一緒に行動できますから」
アニエスにそう言われて、
「わふわぅ!」
タロは嬉しそうに尻尾を振って、ミナトとアニエスの顔を舐めた。
メルデ湖を出発してから四日後、遠くに大きな街が見えた。
「でっかいねえ!」「わふ~」
「ミナト、タロ様。あれがファラルド王国の王都ファラルドだよ」
張り切って教えるのはサーニャだ。
聖女一行の中で自分が一番ミナトに懐かれていないのでは? とサーニャは懸念していた。
だからこそ、いろいろ教えることで、ミナトと仲良くなろうとしているのだ。
それに気づいている聖女一行は、サーニャが可愛そうなので邪魔しないことにした。
「国の名前と王都の名前が一緒なんだね」「わふ~」
「そうなの! それに加えて王様の家名もファラルドなの」
「へー」「わぁぅ~」
ミナトとタロの目がキラキラと輝き、サーニャはどんどん張り切っていく。
「それでね! ファラルドを囲む壁の外側にも――」
ファラルドは多層的な街だ。
王城があり、それを囲む壁がある。
そして中心街を囲む壁があり、その外にも街が広がり、二つめの壁がある。
さらにその外にも街が広がっているのだ。
「人口が増えて、街がどんどん拡張して、壁を作るのが間に合ってないの」
「ほえー」
「壁よりも下水道と上水道の整備を優先した結果ね」
おかげで下水道は拡張に拡張を重ねて、どのダンジョンよりも複雑だと噂されているらしい。
「名物は鶏の皮を串にさして、あまじょっぱいたれをかけてカリカリに焼いたやつね!」
「ふわーおいしそう」「わふわふ~」
「今度街を案内してあげるわね!」
「うん! あ、ファラルドに甘いパンはある?」「わふわふ!」
「もちろん、あるわ!」
「やったー」「わふ~」
ミナトとタロは大喜びではしゃいでいる。
「……ぴぃ~」
一方、十メートル上空を旋回するピッピは、緊張した様子でファラルドの城壁を見つめていた。
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