第20話 メルデとの別れ
ミナトたちが温泉からあがった後、アニエスとサーニャが入ることになった。
その間にメルデが、温泉から離れた場所でアニエスたちの衣服を綺麗に洗濯する。
「洗濯のコツは、乱暴にしないことですじゃ」
「ほむほむ?」「わふわふ?」
「洗体は少し強めにしたほうがマッサージになって心地よいこともあるじゃが――」
「ほほー」「わふ~」
メルデに水魔法の使い方を教えてもらい、ミナトはどんどん知識を身に着けた。
その様子を見ていた、ジルベルトが言う。
「それにしても、見違えたなぁ」
「そうかな?」「わふ?」
「ああ。最初、ミナトもタロ様も泥だらけで、一体何者だって感じだったからな」
「ええ、魔物の一種かと思いましたよ」
マルセルも笑う。マルセルはジルベルトに対する口調以外は丁寧なのだ。
ミナトたちはメルデのMPが回復するまで、湖に滞在することになった。
「ミナトは俺たちのテントで眠るといい」
「え! でも、テントが小さすぎて、タロがはいれないし」
「わぁうわぁぅ」
タロは「大丈夫。ミナトはテントで寝て」というが、ミナトはタロと一緒が良かった。
「ならば、ミナト様はこちらにどうぞなのじゃ!」
そういって、メルデが洞穴に案内してくれる。
「ここは昔、わしや聖獣たちが暮らしていた巣穴なのですじゃ」
「ふわぁ! 臭くない!」「わふわふ!」「ぴぃ~」
「ミナト様が瘴気を祓ってくれたおかげですじゃ」
「そっかー。瘴気を祓ったら臭くなくな、……あっ」
「わふ?」
「もしかしたら僕たちの家も、瘴気を祓ったら臭くなくなったのかも……」
「わぁぅ!」
タロは「さすがミナト。それに気づくとは天才だ」と感心していた。
次の日、ミナトとタロ、ピッピは神像を作ることにした。
「呪者がこないようにお守りをおこう!」
「わふわふ!」「ぴぃ~」
「メルデの巣穴の周りにも並べよう! そうすれば、聖獣たちも戻ってきたとき安心だし」
「わふ~」「ぴっぴぃ~」
ミナトとタロが神像を作っている間に、アニエスたちは湖の周囲に神像を運んでくれる。
作りためておいた神像がたくさんあるのだ。
神像を作ったミナトとタロはすぐに泥だらけになるが、そのたびにメルデが綺麗にしてくれた。
みんなで手分けした結果、湖の周囲に合計三十体の神像を配置することができた。
「これで、だいぶましになるはず!」「わふ~」
「ありがとうございますじゃ」
「うん、確かに湖の神聖力が高まっているのを感じるわ」
「まるで神殿、もしくは聖地のようですな」
アニエスとヘクトルがそういってうんうんとうなずいていた。
二日目の朝。ミナトが目を覚ますと、熊と狐五匹がやってきた。
「がお」「きゅーん」
どうやら、この近くにいた聖獣が、湖の正常化に気づいてやってきてくれたらしい。
その聖獣たちにも「きみは熊2号! 君は狐8号!」と名づけをして、契約する。
「おかげさまで、湖の守りは万全になったと思いますじゃ」
「それならよかったよー」「わふ~」
これで湖は大丈夫。ミナトはそう思って安心した。
メルデのMPが回復したのは、解呪から四日目のことだった。
メルデはMPが多く、その分回復にも時間がかかるのだ。
メルデが元気になったのを確認して、ミナトたちは街へと向かうことになった。
当然、湖の精霊であるメルデは、湖に残ることになる。
「離れていても、わしの心は一緒ですじゃ」「がおがお」「きゅーん」
「うん、また遊びに来るね」「わふわふ~」
「待っておりますじゃ」「がぁお」「こーん」
途中何度も振り返りながら、ミナトは湖を去ったのだった。
ミナトは元気に歩いていく。大人たちより歩くのが速いぐらいだ。
狼の聖獣にもらった【走り続ける者Lv50】のスキルがあるので、ミナトは疲れないのだ。
「温泉、気持ちよかったねー」
「わふ~」
前世のころ、ミナトとタロの住んでいた部屋には風呂がなかった。
銭湯に行く金もなく、公園でタオルを濡らして体をふいたこともあったほどだ。
「温泉いいよねー」
「わふわふ~」
だからこそ、温泉の気持ち良さにはまった。
そんなミナトとタロにアニエスが言う。
「ミナトさんは各地を旅をするのでしょう?」
「うん! そうだよ! 苦しむ精霊とか聖獣とかが世界中にいるからね!」「わふ~」
街に行くのも、呪われた聖獣や精霊の情報を集めるためだ。
「ならば、各地の神殿を拠点にしましょう! 神殿には温泉か……お風呂はあります」
「そうなんだ! すごい」「わふ~~」
だが、すぐに表情が曇る。
「あ、でも、僕が神殿に行っても大丈夫かな?」「わふ……」
「大丈夫です。使徒と神獣ならば、崇拝されますし、どの神殿でも我が家のようにふるまえます」
「崇拝?」「わふ?」
首を傾げたミナトとタロに、ジルベルトが言う。
「みんなが、ミナト様、タロ様、って平伏していうことを聞いてくれるようになるってことさ」
「それはちょっと……いやかも。ね、タロ」
「わふわふ」
タロも「そうだそうだ」と言っている。
「そうか。嫌か。でも、みんないうことを聞いてくれるぞ? おいしいものも食べ放題だし」
「うーん、もっと普通に世界を見てみたいかも」
崇拝されるということは街の人々にものすごく注目されるということ。
遊びにくくなるし、ミナトが話しかけた皆が恐縮し、緊張するようになる。
「わふ~」
「タロも嫌だって」
「そうですか。気持ちはわかります」
アニエスがうんうんとうなずく。
「わかる?」「わふ?」
「わかります。私も聖女になってからというもの……街では気が休まりません」
「アニエスは、もともとお転婆だもんな」
ジルベルトがからかうようにそういうと、
「いえ? それはないですが? 私は昔からおしとやかでした」
と真顔でアニエスは答えた。
それからアニエスは笑顔でミナトの頭を撫でた。
「でも困ったときは使徒だと明かせばいいですよ。助けてもらえます」
「貴族や王族には特に効果が大きいですからのう。切り札にするといいかもしれませぬな」
ヘクトルがそういって、いろいろ説明する。
貴族や王族も、神殿の権威には頭が上がらなかったりする。
だから、貴族や王族の横暴を止めるときには、使徒という立場は強いらしい。
「そっかー。でも僕が使徒だってわかるかな?」「わふわふぅ?」
「そんな時こそ、その聖印ですよ」
アニエスに言われて。ミナトとタロは首に下げた聖印を見る。
「敬虔なものがその聖印を見れば、その力に気づきますから」
「お前も聖印に気づいてなかっただろ」
ジルベルトに突っ込まれて、アニエスは顔を真っ赤にする。
「そ、それは泥まみれだったから、見えなかっただけです!」
ミナトは、聖印を見せるときは泥をちゃんと拭かないとだめなんだな思った。
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