第19話 温泉

「ぴぃ~ぴぃ~~?」

「ん? ピッピ、僕のステータスが見たいの。いいよ」


 ミナトはサラキアの書を開き、慌てて聖女一行は目をそらした。

 人のステータスを見るのは失礼なことだからだ。


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ミナト(男/5才)

HP:308/308

MP:104/323→447

体力:314

魔力:310→433

筋力:294

敏捷:302


スキル

「使徒たる者」

 ・全属性魔法スキルLv0→5・神聖魔法Lv18→20・解呪、瘴気払いLv18→59

 ・聖獣・精霊と契約し力を借りることができる・成長限界なし・成長速度+


「聖獣・精霊たちと契約せし者」

 ・火炎無効・火魔法Lv+56・悪しき者特効Lv207→217

 ・隠れる者Lv70・索敵Lv42・帰巣本能Lv25・鷹の目Lv75

 ・追跡者Lv49・走り続ける者Lv50・突進Lv30

 ・登攀者Lv20・剛力Lv35

New

 ・水魔法Lv+127・水攻撃無効

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「わふわふ~」「……ぴぃ~」

 タロもピッピも「ミナトすごい」と言ったが、ピッピはどこかがっかりした様子だった。


「少し強くなったねー」


 メルデと契約したことで増えたステータスはMPと魔力だけだ。

 メルデは精霊で物理的な存在ではないのでHPや体力などは本質ではないからである。

 スキルは【全属性魔法】が5に上がり【水魔法Lv+127】と【水攻撃無効】を獲得した。


 ミナトたちがサラキアの書を見て盛り上がっている間に、メルデたちは別のことを話していた。


「うむ、ミナト様がわしと契約してくれたからのう……もう大丈夫なのじゃ」

「んーっと、なんで大丈夫なんだ? 爺さん」


 ジルベルトが気安く尋ねて、

「無礼が過ぎるわ! いい加減にしなさい!」

 と、アニエスに叱られる。


「ふぉふぉふぉ、よいよい。堅苦しいのは嫌いなのじゃ」

 孫に話しかけるようにメルデは語る。


「大丈夫といったのはじゃな。使徒と契約した精霊や聖獣は解呪や瘴気払いの力が上がるのじゃ」

「ほほう?」

「まあ、呪神の使徒が来たらどうかわからぬが……並みの呪者にはもうやられぬぞ」


 メルデは力強くそう言うと「ふぉふぉふぉ」と笑った。


「湖のことも安心するとよいのじゃ。わしが元通りになれば湖も元通りじゃ」

 ほっとする聖女一行に、メルデはちらりとミナトたちを見てから言う。


「そうじゃ。近くに温泉があるから入っていくとよいのじゃ」

「温泉! それはいいですね!」


 ものすごく汚いミナトを見て、聖女も賛成した。


「ミナトさん、タロ様! ピッピさん。温泉があるそうですよ! 行きましょう!」

「温泉! やった!」「わふ~わふ!」「ぴぃ~?」


 ピッピは気が乗らない雰囲気だが、ミナトとタロは大喜びだ。


「ふふ。ミナト様、こちらですじゃ」


 べちゃべちゃとヒレを器用に使って、メルデは歩いていく。意外と速い。

 そのメルデの甲羅にピッピが止まる。


「ぴい~?」

「むむ? ピッピ殿は【状態異常無効】のスキルが気になるのじゃな?」


「ぴ~」

「うーん。【状態異常無効】を持つ精霊……。聞いたことがないのじゃ」

「ぴぃ~ぴぃ~」

「聖獣ならば、【状態異常無効】の下位スキル、【毒無効】を持つものはいるやもしれぬが……」

 ピッピはなにやら、難しいことを話していた。


 五分ほど歩いて温泉に到着する。それはタロが泳げそうなぐらい広い温泉だった。

「瘴気に覆われ、腐った水であふれていた温泉が、まるで聖泉のようじゃ」

 温泉を見てメルデは感動のあまり涙をぽろぽろこぼした。


 そんなメルデをミナトは撫でて、タロは舐めまくった。

 そして聖女アニエスとジルベルトが、どちらがミナトと一緒に入るかもめ始めた。

 最終的に「恥ずかしい!」といったミナトの意見が通り、ジルベルトたちと入ることになった。


「お風呂に入るの久しぶりかも!」「わふわふ~」

 そんなことを言いながら、ミナトが全部服を脱ぐと、


「ミナト様、体を洗うのと洗濯はわしに任せてほしいのじゃ」

「メルデに?」

「わしの水魔法を使えば、体を洗うのも洗濯もすぐですじゃ」


 メルデが前ヒレを動かすと、温泉から暖かいお湯の球が六つ飛んでくる。

 その温水の球がミナトとタロ、ジルベルトたち、そして皆が脱いだ服を包みこんだ。


「わー! すごーい」「わふぅ~」「「「おおお~」」」

 ミナトとタロは目を輝かせ、ジルベルト、ヘクトル、マルセルも歓声を上げた。


「水魔法の便利な使い方ですじゃ! 水魔法は攻撃だけではないのじゃ」

 球の中はかなり高速でお湯が流れている。あっという間にお湯が泥水になる。

 メルデはそのお湯をどんどん交換しながら、ミナトたちを綺麗にしていく。


「水流をイメージすることが大事ですじゃ」

「ほほー」「わわふ~」


「水を流しながら。水自体を浄化するのですじゃ」

「浄化ってどうやるの?」「わふ?」


「わしは水に溶け込んだ汚れを分離して外に取り出しておりますのじゃ」

「ほうほう」「わふわふ」


「ですが、ミナト様ならば、解呪、瘴気払い、神聖魔法を利用して水ごと浄化も可能ですじゃ」

「ほほー」「わぁぅ」


「日常の汚れ程度ならば、服を着たままでも充分すっきりしますじゃ」

「便利だね!」「わふわふ!」


「メルデ殿。これは、なんとも心地よいですな」

 ヘクトルがうっとりした目で言う。


「マッサージ効果もありますのじゃ」

 メルデの水流操作が巧みで、まるで手で優しく揉まれているかのようだ。


「頭を洗うので、目をつぶって息を止めてくだされ」

「はい!」「わふ!」

 お湯はミナトたちの頭の上まで包み込み、あっという間に綺麗にした。


「さっぱりしたー。メルデありがと!」「わふー」

「本当に心地が良かった。ありがとう」

 ジルベルトたちも丁寧にメルデにお礼を言う。


「いえいえ、お粗末様でしたのじゃ。あ、服は水を操って乾燥もさせておきましたのじゃ」

「すごい、本当に便利だねぇ」「わふわふ~」


「なんと、そこまで!」

「今後、少しでもミナト様の生活が便利になるなら、このメルデ、とてもうれしいですじゃ」

 メルデは満足そうにそういった。

 綺麗になったミナトたちはメルデと一緒に温泉に入る。


「気持ちよかったねー」

 ミナトはお湯に入り、メルデの甲羅にもたれながら言う。


「ミナト。怪我してないか?」

「してないよー」

「一応見せてみろ」


 ジルベルトがミナトの両わきに手を入れて、ばさぁとお湯からあげる。


「うん。怪我はしてないな? あー、意外と痩せてもないな」

「ちゃんと、ご飯を食べてたからね!」


 ジルベルトがミナトをチェックしている間、ヘクトルがタロの体に異常がないかチェックする。


「タロ様も痩せておりませんな」

「わふ~~」


 タロはヘクトルが確認するために毛をかき分ける仕草が気持ちいいらしい。

 目をつぶってうっとりしている。


 その様子を、マルセルは優しく見つめていた。


「ぴぃ~」

 ピッピは温泉には入らず、ふちに止まってミナトたちを見つめている。


「ピッピは入らないの?」

「ぴぃ~」

 ピッピは「いつもきれいだから入らなくていい」という。


「そうかなー、ピッピも汚いと思うけど」

「ぴ!」

 ピッピは「見てて!」というと全身を火で包む。


「おお~!」「わふ~!」

「ぴ?」


 ピッピは「な?」とどや顔だ。

 全身を火で包めば、ついた虫は死ぬし、汚れは灰になる。


 そのあと水に突っ込めば、汚れは全部落ちるというのがピッピの主張だ。

 どうやら、ピッピは風呂が好きではないらしい。


「ふうむ~? えぃ」

「ぴぴ?」


 ミナトが指を動かすと、あっという間にピッピをお湯の球体が包み込む。


「気持ちいいでしょ?」

「ぴぃ~~……」

 ピッピは一瞬、びくっとしたが、すぐにとろんとした目になる。


「水流が気持ちいいんだよー」

 メルデが教えてくれた水球洗浄は単に流れる水に突っ込まれるわけではないのだ。


「マッサージ効果もあるんだよー」

「そうですじゃ。まるで手でもまれているかのように感じるはずじゃ」

「ぴぃ……ぴぃ」

 メルデは気持ちよさそうなピッピを見てうんうんとうなづいた。


「神聖魔法の効果もつけて、ヒール機能と消毒効果も……ついでに瘴気を払う練習も」

 ピッピはミナトたちと一緒に濃い瘴気の中で過ごしていたので、瘴気が付着していたのだ。


「一度見ただけで再現するだけでなく、応用するとは、さすが使徒様ですじゃ」

「そかなー。えへへ。あ、みんなもマッサージしてほしかったらいつでも言ってね!」

「それは助かりますな」

 ヘクトルが笑顔で言った。


「わははははは」「わふわふ~」

 それからミナトとタロは温泉の中で楽しくはしゃいで遊んだのだった。

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