第15話 湖に向かおう
おいしい朝ご飯を食べた後、準備をして湖に向かって出発だ。
準備といってもミナトたちは神像をサラキアの鞄に詰め込むだけである。
聖女たちがテントをしまい込み、装備の点検をするのを、ミナトたちは遊びながら待った。
「わふわぅ~」
「まてまてー」「ぴぃ~」
朝から元気に走り回るミナトたちを聖女たちは優しい目で見つめていた。
聖女たちの準備が終わると、ジルベルトを先頭にして、湖に向かって歩き出す。
剣士ジルベルトが先頭で、次に弓使い、聖女、魔導師、老神殿騎士の隊列だ。
ミナトとタロはジルベルトの近くを一緒に歩き、ピッピは上空を旋回しながらついてくる。
「ジルベルトさんはなんで料理がうまいの?」「わふわ~ふ」
「ん? 旅暮らしが長いからな。旅では自分で作るしかないだろう?」
「そっかー」「わふわふ~」
ミナトとタロはジルベルトに懐いていた。朝ご飯がおいしかったからだ。
その様子を列の最後尾から老神殿騎士ヘクトルがうらやましそうに見つめていた。
「今朝の料理当番がわしだったら……」
ミナトがもっと懐いてくれていたかもしれないのに……。
そう考えながら、老神殿騎士はミナトを喜ばせる方法を考え始めた。
ミナトたちが楽し気に話しながら歩いていると、
「あ、呪者だ」「ぴぃ~~」
索敵スキルもちのミナトと、上空で偵察しているピッピが同時に気づいた。
その言葉を聞いて、聖女一行は一斉に身構える。
そして五秒後、一行に向かって突進してくる猪型の巨大な呪者が目に入る。
呪われた聖獣ではなく、呪者である。倒すしかない相手だ。
「サーニャ!」
ジルベルトが叫ぶと、
「了解!」
サーニャが立て続けに矢を放つ。その矢で目を射抜かれた呪者が悲鳴をあげる。
だが、呪者の突進速度は緩まない。
サーニャが弓を放つ前から、魔導師マルセルが呪文詠唱を開始し、
「土の精霊よ、マルセル・ブジーが助力を願う、
ものすごい早口で、三秒で詠唱を終える。
すると、呪者の眼前に高さと幅がそれぞれ二メートル、厚さ五十センチの土の壁が出現。
土壁に阻まれて、呪者の突進は止まった。
その時には既にジルベルトは呪者の真横に移動しており、一撃で呪者の首をはねた。
「わぁ」「わふわふ~」
ミナトとタロは聖女一行の連携の見事さに驚いた。
「みんなすごいねぇ!」「わぁぅ」
「この程度の呪者なら、タロ様の手を煩わせるまでもないさ」
「わふわふ~」
けして弱い呪者ではなかった。格で言えば二級。
ベテラン精鋭であるB級パーティであれば複数で当たるべき相手だ。
聖女パーティと同じA級パーティであっても総力で対処しなければいけない相手。
不覚をとれば、A級だろうと全滅しかねない。それほどの相手だ。
「私は何もしてませんけどね」
「わしと聖女様は予備戦力ゆえ、仕方ありませんな」
聖女アニエスと神殿騎士ヘクトルは何もする必要がなかった。
戦闘中に後方から奇襲されたとき、その余力が生存率を上げるのだ。
それは全員がわかっている。
「……私も……ミナトにすごいって言われたい」
「……わしも同じ気持ちです」
だが、後ろの方で、アニエスとヘクトルは悔しい思いをしていた。
「ジルベルト! 先頭を交代しようぞ」
「え? まだ余裕だが……」
「油断するでない。万一ということもある」
「そうか。そうかもな。爺さんのいうとおりだな」
最後尾へ移動するジルベルトに、ミナトとタロもついていこうとする。
「ミナトさん、タロ様。この爺にサラキア様と至高神様のことを教えてくれませんかな?」
「むむ? いいよ!」「わふ~」
ミナトもタロも子供なので、大人に教えるのは大好きなのだ。
それを孫がいるヘクトルは熟知していた。
「サラキア様はねー」
「ほほう! なんと!」
「わふわふ!」
「タロがいうには――」
ミナトとタロは、ヘクトルと楽しく話しながら歩いて行った。
途中、呪者が三体現れたが、あっさりとタロが倒した。
ヘクトルとミナトたちが仲良くなったころ、アニエスが言う。
アニエスはいつのまにか、前列の方に移動してきていたのだ。
「湖を浄化した後、ミナトさんたちはどうなさるのですか?」
「むむ? うーん。タロ、ピッピどうしよっか?」
「ぴぴぃ~」
上空を旋回しながら索敵しているピッピは「ミナトにまかせる」とだけ言った。
「そっか。うーん」「わふ~」
ミナトとタロは考えた。
聖獣と精霊の解呪と瘴気を払うことが、サラキアから与えられた使命だ。
それを考えれば、各地を回るべきなのかもしれない。
だが、どうやら住処の周りには呪者が多いらしい。
呪者を倒すのも使命につながる。
「わふ~?」
「そだよね。住処も快適になってきたし……住処で訓練するのもいいかもしれないし……」
ミナトとタロの会話を聞いて、聖女一行は絶句した。
どうやらあの劣悪な環境を快適になってきたと考えているらしい。
アニエスはそんなミナトとタロをほおっておけないと思った。
アニエス以外の者たちも、みなミナトたちを幸せにしてやらねばという思いを強くした。
「ミナトさん! タロ様!」
「ど、どしたの?」「わわふ?」
「ぜひ! 私たちと一緒に来てください!」
悩むミナトとタロに聖女は力説する。
呪われし聖獣や精霊の情報や呪者の情報は神殿に集まるのだと。
だから、使命を果たすためにも聖女と一緒に来るのが一番である。
「……それに街には甘いパンがあります」
「甘いパン!」「わふ!」
甘いパン。それはミナトとタロの大好物。
「わぁぅわぅ」
アンパンもあるかもしれないとタロは目を輝かせている。
「そうだね! じゃあ、湖を浄化したら、街にいこう!」
「わぁぅわふ!」
ミナトとタロの言葉に、聖女一行はほっと胸をなでおろした。
それから少し歩き、遠くに瘴気に満ちた湖が見えてきた。
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