第14話 ジルベルトの朝食

 次の日の夜明け前。ジルベルトは誰よりも早く起きて朝食の準備を始める。


「ミナトに……うまいもん食わせてやりたいからな」


 当然、聖女一行は自前の食料をもってきている。

 昨日はミナトたちのもてなしを受けたので、今日はそのお返しをしようと思ったのだ。


「甘いパンって言ってたな……」


 ミナトはザクロ石を売って、甘いパンを買うつもりだと言っていた。

 きっと甘いパンが好きなのだ。


 魚ばかり食べているようなので、肉料理も食べさせてあげたい。

 卵料理も食べさせてあげたい。だが野営中なので、調理器具も食材も限られている。


「卵はまた今度だな。肉は……肉をたくさん入れたシチューにしよう」


 ジルベルトは献立を考えながら、火をおこす。

 石でかまどを二つ作り、その中に乾燥した木を積んで、火魔法で着火する。

 魔法の鞄から鍋を取り出して、水を沸騰させながら、野菜を切っていく。


「子供だから人参は嫌いかな……、まあ、ミナトなら大丈夫か」


 聖女一行も、魔法の鞄を持っているのだ。

 当然ながら、神器であるサラキアの鞄に比べたら機能はしょぼい。


 容量は二立方メートルぐらいしかないし、重さも五百キログラムぐらいしか入れられない。

 だが、とても貴重で高価で、非常に便利なアイテムだ。


 ジルベルトは野菜と鶏肉を鍋で炒めて軽く焼き色を付けたあと、水を入れて蒸し焼きにする。

 水気が少なくなったところで、火からおろし、小麦粉とバターを入れた。


 火のついた焚き木を減らして火を弱くしてから鍋をかける。

 混ぜて粉っぽさがなくなったところで、牛乳を投入。

 焦げないように気を付けながら混ぜて、チーズを投入すれば、クリームシチューが完成だ。


「これで良しと」


 ジルベルトは子供のころ、特にクリームシチューが好きだった。

 だから、きっとミナトも好きだと思ったのだ。


 あとは甘いパンを作りたい。

 ジルベルトは魔法の鞄からパンを取り出す。


 それは現代日本で言うと、フランスパンと呼ばれるものに似ていた。

 そのパンを二センチぐらいの厚さで輪切りにしていく。


「いいにおいがする!」「わふ!」「ぴいぃ~」

 洞穴からミナトたちが起きてくる。髪の毛や服、毛や羽根に雑草がくっついていた。


「いま朝ご飯を作ってるんだ。もうすぐだから待っていてくれ」

「ほえええ」「わふい~」「ぴい」


 いい匂いにつられて、聖女たちも起きてくる。


「ジルベルト、今日は張り切りましたね」

「ああ、今日湖に到達する予定だろう? なら英気を養わないとな」


 起きてきた聖女が魔法の鞄から皿を出し、シチューをゆっくりかき混ぜる。

 その横でジルベルトはパンを火であぶってこんがり焼き色をつけていく。


 そのパンにバターを塗って、はちみつをかける。

 それを見ながら、聖女がシチューを皿によそう。


「ミナトできたぞ!」

「ミナト、タロ様、ピッピ。シチューもどうぞ」

「え? いいの?」「わふ?」「ぴい!」

「もちろんだ。湖の浄化手伝ってくれるんだろう?」

「うん」「わふぅ」「ぴぴ」

「なら、俺たちは仲間だ。仲間ならご飯も一緒に食べないとな!」

「えへへ。ありがと」「わふわふ」「ぴぃ~」


 すぐにみんなの分も配られる。もちろんタロやピッピの分もだ。


「タロには少ないかもしれんが……」

「わふ!」

「タロが、充分だよ、ありがとう! だって」

「そうか、すまんな。街に帰ったらタロにもお腹いっぱいごちそうできるんだが」


 そう言った後、ジルベルトは、無言でミナトをじっと見る。


「ミナトさん、どうぞ。口に合えばいいのですけど」

「ありがとう、いただきます!」「わふわふ!」「ぴい~」


 聖女に促され、ミナトとタロはフランスパンのハニートーストにパクリとかぶりつく。


「おいしい!」「わふ!」


 トーストされたパンは外側はカリッと香ばしく、中はしっとりしてもちもちだ。

 その上に塗られた濃厚なバターとはちみつの優しい甘さ。


「ふわぁぁぁ。すごくおいしい!」「わふわふぅ」

 少しの間、ミナトとタロは固まった。


「一気に食べたらもったいないかも」「わふ~」

 ミナトとタロはゆっくりとちびちび食べていく。


「シチューも食べてくれ」

「うん!」「わふ」

 ミナトはスプーンですくってシチューを口に入れる。


「お、おいしい!」「わふわふ~」

 ミナトもタロもおいしいものを食べた経験が少ない。

 そのせいか、おいしい以外の形容詞の持ち合わせがないのだ。


 チーズと牛乳の濃厚な味わい。

 鶏肉は柔らかくて、噛むと肉汁とうまみが口の中に広がる。

 人参やイモは柔らかくて、シチューと溶け合っていた。


「おいしいおいしい!」「わふわふわふ」

「おかわりもあるぞ」

「いいの?」「わふ?」

「ああ、いいぞ」

「おいしいね、タロ」「わふ~~」


 嬉しそうにパクパク食べるミナトとタロを見て、聖女たちは目を細めた。


 一方、ピッピは上品にゆっくりとハニートーストとシチューを堪能していた。

 そんなピッピをみて、ジルベルトは「ほんとに王室の守護獣かもしれないな」と思った。


「ふは~おいしかったー」「わふ~」

「お粗末様でした」

「ジルベルトさんは、コックさんなの?」「うわふ?」

「違うぞ、俺は剣士だ」

「剣士なのに、料理できてすごい」「わふわふ~」


 ミナトとタロに尊敬の目でみつめられて、ジルベルトは少し照れた。

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