第13話 聖女パーティの決心
焼き魚を食べた後、皆の疲労を癒すため、一泊していくことになった。
夕方から眠り、日の出とともに起きて湖に向かうのだ。
ミナト、タロ、ピッピは洞穴の中で眠り、聖女一行は洞穴の外にテントを張ることになった。
「遠慮しなくていいのに~」「わふわふ~」
「いえいえ、私たちにも野営の準備は充分ありますから」
断られて、女性だから着替える都合とかいろいろあるのだろうなぁとミナトは考えた。
「そっかー、寒かったら、いつでも来てね!」「わふ~」
そういって、ミナトたちは洞穴の中で眠る。
ミナトはタロのお腹に抱き着いて、ピッピもタロの毛に埋もれて眠りにつく。
タロの毛のおかげで、布団がなくても暖かいのだ。
ミナトたちが眠りについた後、弓使いサーニャが言う。
「アニエス。私……故郷の弟思い出しちゃって」
弓使いサーニャは目に涙を浮かべている。
「わかるわ。……きっと至高神様の神託は、ミナトさんを保護しろという意味よ」
神託自体は精霊を解呪しろというものだ。
だが、この辺りの瘴気の濃さや呪者の強さから類推すると、聖女の力では解呪は難しい。
つまり、至高神の神託をかなえるためには、ミナトたちを一行に加えることが必須となる。
「そうだな。俺たちだけだと、湖にたどり着けるかもあやしいもんだ」
ジルベルトがそうつぶやくと、重い空気が漂った。
それほど、タロが一撃で倒した一級呪者というのは恐ろしい相手だ。
聖女パーティでも、やっと倒せる相手だというのに、この辺りには何体もいる。
タロが倒した個体で、聖女パーティが遭遇した一級呪者は三体目だったのだ。
ミナトたちが助けに来てくれなければ、聖女パーティは全滅していたかもしれない。
聖女パーティが弱いわけではない。
弱いどころか、最高のS級に、最も近いとされるA級パーティなのだ。
その級は、神殿や冒険者ギルドによるパーティや戦闘員の統一の格付けである。
最高のSは国を救ったり、災害級の魔物を倒した歴史に名を残すパーティや戦士の格である。
Sは死後追贈も多く、Sが存在しない時期の方が多いぐらいだ。
聖女パーティが格付けされるAは、事実上の到達点。実質的な最高位パーティと言っていい。
Bは、ベテランの中でも精鋭で、大きな街でトップクラスであるパーティの格だ。
Cは皆に頼りにされるベテランの格で、Dは一人前とみなされる格。
Eは二年目から五年目の比較的経歴が浅い者たちで、Fは一年目のルーキーの格である。
そして、呪者の格は四つある。
最も強い特級呪者は一体で国が亡びるレベルだ。災害よりも恐ろしい存在である。
次に強いのが一級呪者。国一番の精鋭S級パーティやA級が複数でなければ対処不能だ。
二級呪者であっても、A級パーティか、B級C級パーティが複数必要となる。
最も弱い三級呪者でもC級パーティが必要だ。
つまり、一級呪者に単独パーティで対処できる聖女パーティは、ものすごく強いのだ。
重い空気を変えようとしたのか、老神殿騎士ヘクトルが明るい声で言う。
「聖女、お気づきになられましたか? この神像、周囲の瘴気を祓っていますね」
「はい。それだけでなく、このザクロ石も……」
聖女アニエスは先ほどタロにもらったザクロ石を掲げる。
「これは強力な護符のようなもの。身につけておけば、大概の瘴気や呪いを防げます」
「どうりで……体が楽だと思った」
弓使いサーニャが大事そうに両手でザクロ石を握りしめる。
魔導師マルセルは洞穴の入り口を見ながらつぶやいた。
「……神はなぜミナトさんにこんな試練を」
それは聖女や神殿騎士は口にできない神への疑問。
聖女と神殿騎士たちが沈黙する中、ジルベルトと弓使いが口を開く。
「さあなぁ。意外となんも考えてないのかもしれんが」
「きっと、この辺りの呪者を討伐させるためじゃないかな?」
「あのような幼子に? そんな無体な」
不遜な話になりそうだと考えた聖女が笑顔で言う。
「ともかく、ミナトさんとタロ様を保護するのが神のご意思ですから」
「そう。神は我々には思いつかぬほど、深いお考えがあるのだ」
そう老神殿騎士ヘクトルがいって話をしめた。
聖女一行の全員が、ミナトとタロに優しくしよう。
そう心に決めた。
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