第8話 契約ラッシュ

「つかれたー」「ぴぃ~」

「わふわふ!」


 寝床で寝っ転がるミナトとピッピを包むようにタロが横たわる。

 今日一日でおよそ百六十頭あまりの聖獣の解呪を済ませたのだ。疲れないわけがない。


「でも、ピッピが解呪してくれて助かったよー」

「ぴぃ~」


 大体、ミナトが百二十頭ほど、ピッピが三十頭ほどの解呪を済ませた。

 ミナト一人でやっていたら、日没後もニ、三時間ぐらい作業しなければならなかっただろう。


「タロもありがとうね。おかげでご飯食べれたし」「ぴぃ~」

「わふ」


 タロの活躍もすごかった。


「でも、川魚……いなくならないかな……」

「わふう」

「……そっか、……だいじょうぶかー」

 そして、ミナトは寝落ちした。五歳なので眠くなるのは仕方のないことだった。


 次の日、ミナトたちが朝起きて巣穴の外に出ると、たくさんの聖獣たちに囲まれた。


「ぶぼ~」「ちゅっちゅ」「ぴぉ」

「みんなおはよー。げんき?」「わふ~」「ぴぃ」

「ぶぼおお、ぶぼぼぼ」

「え、朝ご飯を用意してくれたの?」

「ぴぉぴお」


 どうやら聖獣たちはミナトたちにお礼するために、食材を集めてきてくれたらしい。


「ありがとー」「わふわふ~」「ぴぃ~」


 いつもの川魚と、ルコラの実だ。 

 それらを焼いて、聖獣を含めたみんなで楽しく食べる。


「ぶぼ~?」

「むむ? 契約したいの?」

「ぶぶぼ~」


 猪は解呪能力と瘴気を払う力が欲しいのだという。


「聖獣はたしか……呪いと瘴気を抑える力があるんだよね?」

 ミナトはサラキアからそう聞いていた。


「ぶぼ~」


 猪が言うには、聖獣は呪いや瘴気をばらまく存在を退治することができるのだという。

 それをサラキアは抑えると表現したのだろう。


 呪いを抑える、つまりこれ以上広がらないようにするのが聖獣の役目。

 広がった呪いを浄化するのが聖者や聖女の役目。

 そのような役割分担があるようだ。


「でも、僕と契約したら、聖獣も解呪と瘴気の浄化ができるようになると……」

 実際、昨日ピッピは大活躍してくれた。


「ちゅ~」

 ネズミは自分たちで解呪できるようになれば、この地方を守るのが楽になるという。


「そっか、そうだよね」


 呪いをばらまく存在を倒すとき、自分も呪いを受ける可能性は高い。

 だからこそ、これほどまでに呪われた聖獣がたくさんいるのだ。


 自分たちで払えないと、数少ない聖者などに会えない限り、蝕まれて死んでしまう。

 それはとても悲しいとミナトは思った。


「……契約するなら名前をかんがえないと」

「ぶぼ~」

「えー番号でいいの?」

「ぶぼぶぼ!」


 二百の聖獣にじっくり名前を付けていれば、何日かかってしまう。

 それよりも、ぱっぱと済ませ、地元に戻って仲間や家族を救いたい。

 そう猪は力説した。


「そっか、地元に大切な仲間がいるんだね」

 どうやら元気な聖獣が代表して救いを求めてやってきたらしかった。


「わかった! そういうことなら、まかせてよ! じゃあ、君はイノシシ1号」

「ぶぼ~」

「君はネズミ1号」

「ちゅ~」


 その調子でミナトはどんどん名付けていく。

 多い順にネズミが七十匹、雀が四二羽、鳩が二五羽、鷹が十羽。


 狐が七頭、狼が五頭、猪三頭、ヤギが二頭、熊が一頭。

 合計百六十五頭だ。


 鳥が多いのは、遠くから駆け付けやすかったからというのもあるかもしれない。


「ふ~。全員と契約終わったかな?」

「ぶぼ~」「ちゅちゅ~」「きゅうきゅう」「ほっほ~」「がおー」

 聖獣たちは何度もお礼を言って、地元に帰っていった。


「また、あそぼうね!」「わふ~」「ぴぃ~」

 聖獣たちの姿が見えなくなるまで、ミナトたちは見送ったのだった。


「ピッピは大丈夫? 地元で心配している人とかいない?」

「ぴぃ!」

「やることがあるの? なに? 手伝うよ」

「……ぴっぴぃ!」


 ピッピは「そのときはおねがいね?」という。

 その表情はあまりにも真剣だった。


「わかった。まかせて。いつでも言ってね」「わふ」

「ぴぃ~」

 ピッピは嬉しそうに鳴いた。


 それから、ミナトたちは一緒に巣穴に戻る。

「契約もつかれるんだねー」


 そういって、ミナトはモフモフなタロに抱きついた。


「わふ~?」「ぴぃ?」

「うん。すこしお昼寝する……」


 言い終わるころには、ミナトはもう眠っていた。

 よほど疲れていたのだろう。


 そんなことを考えながら、タロはミナトの頭の匂いをくんくんと嗅いだ。

 ミナトが熟睡しているのを確かめて、タロはピッピに尋ねる。


「わふ?(やりたいことってなに?)」

「ぴぃ(いまはいえない)」

「ぁぅ?(ミナトはてつだってくれるよ?)」

「ぴ(だからいえない。ミナトはまだよわいから)」

「ぁぅ~(そっか)」


 タロはそれ以上聞かなかった。

 ミナトが知れば、身の危険を顧みず向かってしまう。

 だから、ピッピは言わないのだ。それがタロにも分かった。


「ゎぅ(ミナトはすぐつよくなるよ)」

 そういって、タロはピッピのことを優しく舐めた。

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