第7話 聖獣たち

 ピッピと契約した次の日のこと。

 ミナトが目を覚ますと、タロが「ふんふん」言いながら鼻でサラキアの書をめくっていた。


「タロ?」

「きゅーん」


 ミナトがタロの開いたページを見ると、


 ----------

 ※ミナトは神獣と契約できる水準ではありません。頑張ればいつか契約できるかもしれません。

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 と書いてあった。


「……わふ」

 タロはしょんぼりしている。

 ミナトと契約する方法が知りたくて、こっそり調べていたらしい。


「契約しなくても、タロは僕の特別だからね」

「わふ」


 ミナトはタロをぎゅっと抱きしめた。タロは尻尾をゆっくりゆらす。


「僕も頑張るからね!」

「わふわふ!」

 そんなことをしている間、ピッピは気持ちよさそうに眠っていた。


 それからしばらくして起きてきたピッピと一緒に川魚とルコラの実をとりにいく。

 食料を確保した後は、洞穴前に戻って焚火の準備だ。


「みててね?」

「わふ~」「ぴ~」


 ミナトは、ゆっくり指を焚き木に向ける。


「…………ぇぃ。ふぁぃぁ」


 そして、そおっと指先から炎を出した。

 それはとても小さくて、弱弱しい炎だった。


「あ、やった! できた!」

「わふわふ!」「ぴっぴぃ~~」


 タロもピッピも「さすがミナト!」と絶賛している。


「ありがとありがと!」


 ミナトの出した炎は焚き木にともって、少しずつ大きくなりつつある。

 ここのところ、ミナトの出す炎が大きすぎて、焚き木を一瞬で燃やしてしまっていたのだ。


「タロの苦労が少しわかったよー」

「わふ~」


 火魔法のレベルが急に上がったことにより威力が跳ね上がったせいである。

 ミナトは焚火に川魚とルコラの実をくべていく。

 それが終わると、火魔法の専門家であるピッピの指導が始まる。


「ぴい~」

「わかった! もう少し炎の中心を意識する! だね!」「わふわふ」


 魔法の制御の方法は、火魔法だけでなく全属性に応用できるものだ。

 使徒の権能である成長へのプラス補正もあり、ミナトの魔法制御はどんどん上達していった。


「こうかな。ぇぃ」「わふ~」

「ぴっぴぃ~」

 タロもピッピの指導を受けて、魔法制御が少しずつうまくなりつつあった。


 魔法制御の訓練を終えて、ミナトたちは生臭い川魚とレモンより酸っぱいルコラの実を食べる。


「おいしいねぇ」「わふわふ!」「……ぴい~」


 ピッピは川魚もルコラの実もあまり好きじゃないようだった。

 だが、他に食べ物がないので、食べるようになった。


 ミナトたちがおいしいご飯を楽しんでいると、

「むむ?」「わふ?」「ぴ?」

 遠くから大きな猪が歩いてきた。

 猪の右側には、黒いヘドロのようなものがこびりついている。


 ミナトは手にしていた川魚を慌てて口に入れて、猪に向かって駆けだした。

 タロとピッピも、ミナトをすぐに追いかける。


「だいじょうぶ? すぐに解呪するね?」

「……ブボ」

「お礼なんていいよ。はあああ……」


 ミナトが黒いヘドロ部分に手を触れて、力をこめると蒸発していく。


「これで大丈夫」

「……ブボボボ」

「楽になったならよかったよ。治癒魔法もかけるね?」

「……ぶぼ」

「そうだ、ご飯食べていってよ」


 遠慮する猪に、ミナトは少し休んだ方がいいと説得した。

 猪は自分で歩けるぐらいピッピより元気だが、それでも体力が減っているのだ。


「ばふ!」

 タロが「魚とってくるね!」と走っていく。


「ありがと、タロ。……ええっと、これが一番焼き加減がいい感じだからどうぞ」

 そして、ミナトは焼いた川魚を猪に差し出した。


「酸っぱいけどおいしいルコラの実もあるから、えんりょしないでね!」

「ぶぼぼぼ」

 猪は川魚をゆっくり食べながら「何から何までありがとう」とお礼を言う。


「いいよー。でもよく僕の場所がわかったね」

「ぶぼぼ」

「え? この辺りは一帯が神域に近い聖なる領域になっているの?」

「ぶぼ~」


 猪は周囲に転がるたくさんのサラキア像と至高神像を見る。


「神様の像のおかげかー」

 お守りになると書いてあったが、神域に近い領域になることを知らなかった。


「ぴい~」

「え、ピッピも神像の気配でやってきたの?」


 どうやら、ピッピも呪われて死にかけたときに聖なる気配を感じて飛んできたのだという。

 ピッピの場合は途中で力尽き、川に落ちたところをタロに助けられたのだ。


「神像づくりも役に立ったんだなぁ」

「……わふ~」


 そのとき川の方から、大きな川魚を咥えたタロが戻ってくる。


「タロ、ありがと……その子は?」

 タロの後ろには十匹ぐらいのネズミがついてきていた。


「ちゅちゅー」

「あ、呪われているね。まかせて」


 ネズミの呪われ具合は猪よりさらに軽い。

 体の一部に黒いヘドロがついている程度だった。


「このぐらいならすぐ払えるよー。はぁぁぁぁぁ!」

 ミナトはネズミの呪いをどんどん払っていく。


「ちゅ~」

「みんなもご飯食べていってよ。解呪のあとは体力がないからね!」


 そういいながら、ミナトは治癒魔法もかけていった。

 ネズミたちにふるまうために、タロは急いで川魚を、ピッピはルコラの実をとりにいった。


「どんどんたべてねー」

「ちゅちゅ~」


 そこにさらに、呪われた狐がやってくる。


「きゅーうん、きゅん」

「あ、すぐに解呪するね!」

 呪われた聖獣たちが助けを求め、列をなしてミナトを訪れ始めていた。


 ミナトはたくさんの聖獣たちに解呪とヒールを繰り返した。

「ほい! 解呪! ほい、ヒール! ほい、解呪! ほい! ヒール!」

 もはや流れ作業である。

 その間、タロはみんなにふるまうために沢山の川魚とルコラの実をとってくる。


「ぴぃ~」

 当初、ルコラの実の採取をしていたピッピも、今では解呪に専念していた。

 ミナトと契約したことで、ピッピにも解呪することが可能になったからである。


「わふ」

「ありがと!」「ぴぃ~」


 少し時間が空いた時に、タロから受け取ったルコラの実を口に入れ、焼き魚をほおばる。

 そうしながら、ミナトたちは日没まで聖獣たちを助け続けたのだった。

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