第5話 聖獣フェニックス

 焚き木に火をつけてから、ミナトはサラキアの鞄からルコラの実を取り出した。

 そんな作業をしている間、焚火の熱でフェニックスの体が温まっていく。


「……きゅ」

「気が付いた?」


 体温が上がったことで、フェニックスの幼鳥は気が付いた。

 目を覚ましたフェニックスの幼鳥は、ミナトの持つサラキアの鞄をじっとみて力なく鳴いた。


「このかばんが気になるの? これはね……」

 ミナトはルコラの実を焚火の中に三個入れつつ、赤い鳥に鞄の説明をする。


 サラキアの鞄は、一見普通の革製のリュックだが、神器だ。

 容量がものすごく大きいうえ、いくら中にものを入れても重くならないのだ。

 しかも、状態が変わらないので、川魚やルコラの実を入れて放置しても腐らない。


「こういう時のために、ルコラの実だけでなく、川魚も鞄に入れておいたほうがいいのかも?」

 川魚獲りはミナトとタロにとって楽しい遊びなので、保存するという発想がなかったのだ。


 説明している間に、ルコラの実の皮が焦げ始める。

「むう~。おいしいのかな? これ」

 ミナトは木の枝を箸のようにつかって、ルコラの実を焚火から取り出した。


「あつっあつ! ……食べられそう?」


 ミナトはサラキアのナイフを使って、ルコラの実を二つに切った。

 皮は焦げていたが、中はまだ冷たい。


「……きゅ」

「すっぱいけど、おいしいよ。それに体にもいいんだって」


 フェニックスを安心させるためにミナトはルコラの実をかじって見せた。


「うううぅぅぅ! 焼いてもすっぱい! ……でもおいしい」

「きゅ~」


 食べたそうにしているので、ミナトはサラキアのナイフで少し切り取って口元へ運ぶ。


「きゅ……ぴぃぃぃぃぃ……」


 あまりの酸っぱさにフェニックスは全身をぶるぶるさせた。

 そして「だました?」と言いたげにミナトを見る。


「口に合わなかった? むう。おいしいんだけど……」


 ミナトがフェニックスの信用をわずかに失ったところにタロがやってくる。


「……ばふ」

 タロは口の中にふくんでいた三匹の川魚を地面に落とす。


「ありがと! すぐに焼こうね」

 ミナトはそのあたりに落ちていた枝を川魚に突き刺して、焚火で焼いていく。


 その作業をフェニックスはじっと見つめていた。

「タロ、ルコラの実を焼いたからたべて」

「わふ~」

「この子はあまり好きじゃないみたいなんだ」

「わふ?」


 タロは「おいしいのに?」と首をかしげながら、皮の焦げたルコラの実にかぶりつく。

 すると柑橘系の酸っぱそうな匂いが周囲に漂う。


「食べたくなったらいつでもいってね?」

 ミナトもルコラの実をむしゃむしゃ食べる。


「…………きゅ」


 フェニックスはそんなミナトとタロを尊敬の目で見つめていた。

 こんなに酸っぱい食べ物を平然と食べるお二方はさぞかしつらい修行をつんだに違いない。


 ルコラの実の酸味は、並みの生き物に耐えられるようなものではないのだから。

 そうフェニックスは思ったのだった。


「わふばふ!」

「もう焼けたかな? もう少し焼いた方がおいしんじゃない?」

「ばふ~」


 タロはちょっとぐらい生の方がおいしいと主張する。


「そうかな? そうかも?」

 ミナトは川魚を手に取って、フェニックスの口元にもっていく。


「食べられそう? こまかく切った方がいい?」

「きゅ」

 フェニックスは川魚の内臓あたりにかぶりつく。


「おお~食べてくれた」「わふわふ!」

 内臓を食べつくすと、まだ焼いてある川魚をじっと見る。


「おなかを食べたいのかな。ちょっとまってね。……はい、どうぞ」

 もう一匹をフェニックスの前にもっていくと、


「きゅきゅ」

 おなかの部分をバクバク食べた。


「おお~」「わふわふ!」

「きゅ」

「もう一匹もどうぞ」

「きゅ~」

 川魚三匹のおなか部分だけ食べると、フェニックスは眠りはじめた。


「おなか一杯になったかな?」

「わふ~」

「ぼくたちもたべよっか」

「わふ!」

 眠ったフェニックスを撫でながら、ミナトとタロはフェニックスの食べ残しを食べる。


「頭もおいしいのにねぇ」

「わふ~」

 食べながら、ミナトはサラキアの書を、改めて読んだ。


「む? この子聖獣フェニックスなんだって」

「わふ!?」

「……たしか聖獣って、呪いや瘴気を抑える力を持ってるんだよね」


 ミナトはサラキアの言葉を思い出していた。


「そんな聖獣すら呪われるほど、今の地上は大変な状態なんだって!」

「わふ~」

 タロはミナトの博識さに尊敬の念を一層深くした。


 それからミナトとタロはフェニックスを看病した。

 看病といっても、川魚を食べさせて、一緒に寝床で寝るぐらいである。


 フェニックスは次の日には、だいぶ元気になった。

 ミナトの肩やタロの背中に止まって、魚獲りに同行したし、神像づくりを見学していた。

 フェニックスは懐いていき、二日後には暇さえあればミナトにほおずりするほどになった。



 三日後の朝、ミナトとタロが目を覚ますと、

「ぴ~~」

「わぁ!」「わふ~」

 フェニックスは元気に、そして優雅に寝床の洞穴の中を飛んでいた。

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