第3話 転生したミナトとタロ
異世界に転生して一週間。
ミナトとタロは異世界に順応していた。
送り込まれたのは、少なくとも周囲十キロメートルには人のいない奥深い森の中。
「タロ、焚火の準備できたよ!」
「わふ~」
タロが獲ってきた川魚に、ミナトが枝をさす。
そして、ミナトとタロで集めた焚き木を燃やして、あぶって食べるのである。
「わふわふ!」
タロがしっぽを振りながら、早く焚き木に火を着けてとお願いする。
「うん。まかせて。そろそろ魔力があがりそうなんだ」
「わふわう!」
ミナトもタロも、火魔法を使える。
だがタロの火魔法は威力が高すぎるので、着火はミナトの仕事だった。
「むむむむ! ふぁいあー!」
気合を入れたミナトが、大きな声を出しながら、焚き木に右の人差し指をびしっと突きつけた。
左手は腰において、足は肩幅に開いている。
指先から小さい炎がでて、焚き木に火が着いた。
「わふわふ!」
「かっこいい? ありがと。でも。左手はこっちの方がいいかな?」
「わふ~」
ミナトとタロはかっこいいポーズに研究に余念がなかった。
ミナトの体の年齢は五歳。それに引きずられて精神の方も幼くなっていた。
だから、かっこいいポーズにあこがれるのは仕方のないことだった。
頭が痛いときに楽しい気分になれないように、体の状態に精神は大きく影響を受けるのだから。
「あ、いい匂いしてきた」
「わふわふ」
タロはミナトのつけた火で焼いた魚は特に美味しいという。
「味は変わんないよー。でも、焼いたほうがおいしいね! それに生だとおなか壊すもんね」
「わふ~」
川魚が焼きあがると、ミナトとタロは分け合って食べるのだ。
塩もふっていないただの焼いた魚だ。
「いただきまーす」「わふ~」
ミナトは川魚をほおばった。
口の中が強烈な生臭さと泥臭さでいっぱいになる。そして苦み。
そして最後に、ごくわずかに、ほんのりとした甘みがあった。
「おいしい!」「わふ~」
だが、ミナトとタロは、おいしいと思って食べている。
「あぶらがのってるね!」
「わふわふ!」
ミナトとタロは舌がバカなわけではない。
生臭さと苦さの奥に隠れている、脂ののった白身の味を楽しんでいるのだ。
「おなかいっぱい」「わふ~」
食べ終わるとミナトたちは寝床に戻る。
寝床は、何かの獣が使っていたらしい洞穴だ。
最初、洞穴の中に呪者がいたが、タロが退治して住処にしたのだ。
呪者がいたせいか洞穴の中はとても臭い。
だけど、雨風が入り込まないので、ミナトもタロも満足していた。
布団はないがサラキアがくれた衣服のおかげで寒くはない。
サラキアがくれた服は茶色っぽいパンツと長袖のシャツと灰色のコートだ。
靴は何かの革のミドルカットのブーツである。
パンツもシャツも謎の素材で、通気性が良く、コートは雨をよく弾きそうだった。
適当に刈り集めた雑草を敷いた寝床で寝っ転がると、ミナトは一冊の本を取り出した。
「魔力はあがったかなー?」
「わふわふ~?」
その本はサラキアの書。転生するミナトに、サラキアが託した神器である。
革張りで大きさはA5ぐらい、厚さは二センチほど。
小さいのにミナトとタロの情報と、この世界のあらゆる知識が書かれている便利な本だ。
しかも、適当に開けば、そのときミナトが知りたいことが書かれているページが開かれるのだ。
もちろん、万能ではなく、神サラキアの知っていることしか調べられない。
神は全知ではなく、基本的に使徒の目を通じたものしか見ることはできない。
それゆえ、いま何が起こっているかは、ミナトが見ている以上のことはわからないのだ。
それでも、充分便利な本ではある。
「どれどれ」「わふ~」
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ミナト(男/5才)
HP:5/5 (生命力。これが0になると死ぬ)
MP:3/5→8(魔法を使うと減る。これが0になると気絶する)
体力:5(体の丈夫さ。寄生虫や毒、病気に対する耐性も含まれる)
魔力:5→8(高いほど魔法の威力が高くなり消費魔力も減り、魔法に抵抗しやすくなる)
筋力:5(筋肉の力)
敏捷:5(素早さ)
スキル
「使徒たる者」
・全属性魔法Lv0・神聖魔法Lv10・解呪、瘴気払いLv10
・聖獣・精霊と契約し力を借りることができる・成長限界なし・成長速度+
称号:サラキアの使徒
持ち物:サラキアの書、サラキアの装備(ナイフ、衣服一式、首飾り、靴、鞄)
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「あ、MPと魔力が3あがってる!」
「わふ!」
「火魔法使った効果だね! タロのも見てみよっか」
ミナトはサラキアの書のページをめくった。
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タロ(男/5才)※成長度は3か月の子犬に相当
HP:9115/9115
MP:3012/3015
体力:8910
魔力:6812
筋力:7120
敏捷:6830
スキル
「神獣たる者」
・全属性魔法Lv89 ・ステータスにプラス補正
「強くて大きな体」(とても強い)
称号:至高神の神獣
持ち物:至高神の首輪
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「……わふ」
「タロのステータスは変わってないけど、元からすごいから気にしなくていいんだよ!」
「わふ?」
「うん。タロはすごい、かっこいい!」
「わふわふ~」
ミナトとタロはじゃれあって遊ぶ。
ミナトはタロを撫でまくり、タロはベロベロとミナトの顔をなめた。
しばらくじゃれあったあと、ミナトははぁはぁ息を整えながらタロに抱きついた。
「ちゃんと訓練しないとねー。タロに追いつかないと」
「わふ~」
至高神に「大きくて強い体」を願ったタロは強さが尋常ではないことをミナトは知らなかった。
だから、自分は弱いし、足手まといにならないよう早く強くならないとと思っていた。
普通の五歳児のステータスの平均は5だし、成人男性の平均も20前後だ。
戦闘職で30前後。熟練者で60前後だし、100もあれば一流だ。
200に達すれば、伝説である。
スキルの後ろに書かれた数字はスキルレベルだ。
レベルの意味は0はギリギリ発動できる程度。
魔法スキルLvが1があれば、それなりに使える水準だ。初級魔法を一、二回使えるレベル。
10もあれば熟練者だし、Lv20も魔法スキルがあれば宮廷魔導士になれる。
魔法スキルLv30台の魔導士は国に数人しかいないし、宮廷魔導士長もこのあたりだ。
魔法スキルLv40台の魔導士は大陸有数の存在だし、Lv50もあれば賢者と称される。
Lv60台など、歴史上も数えるほどしかいない。もはや伝説上の存在だ。
タロのステータスは、一頭で国を亡ぼせるという伝説の古竜並み、いやそれ以上だった。
「僕も早く強くならないとね! 練習しよ」
「ばうばう!」
ミナトのステータスは五歳児としては一般的だ。
そして、スキルはいろいろと規格外に強力だなのだが、ミナトもタロも気づかなかった。
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