第4話 可愛さと妖艶さと料理チートと

 突然ですが、現在家族と静留さんの4名でカラオケに来ております。

 理由は兄さんの一言でした。

「家族でどこか行ったことは…ここ数年無かったな」

 食事とかは行っているよね?

「そうですよ。兄さんは私達のために…」

「温泉と、ボーリング、カラオケ、遊園地…どこが良い?」

 そう言われると私は言葉に詰まった。

 遊園地は…あまり行きたくない。とんでもない事が起きそうで怖い。

 温泉となると、少し遠出するかも知れない。それは嫌だ。

 ボーリングとカラオケ…しかし何故ボーリング…

「…友紀兄さん。声を出す練習として、歌ってみる?」

 えっ!?

「ああ、それは良いな」

 み゛っ!?

 ───と言うことで、私達はカラオケボックスに行くことになった。けど、

「友紀くんのリハビリ兼ねてなら任せてください!すぐに手配します!」

 と、静留さんがログインしてきた。

 結果、カラオケボックス…ではなく、個人レッスンありのカラオケスタジオを貸し切ることとなった。

 どうしてこうなった!これだからお金持ちの行動力は!


「HI!声の出し方とか難しい事言う前に一度歌って貰いましょうか!」

 ガチムチ系でオネェっぽい指導員さんのお出迎えで始まったカラオケ特訓。

 ───何故特訓になった…

「ここは撮影しながら色々な角度で分析もしてくれるのよ」

「いや、そこまでして貰わなくてもな…」

「楽しむんじゃないの?」

「超高性能な採点機能と思えば良いでしょ?」

 よろしくお願いします。

 友紀兄さんがオネェにお辞儀をした。

「あら!綺麗な声だけど…何か意識して声帯を閉鎖しているの?」

 ちょっと特殊な事情がありまして…

「ふぅん…まああ、綺麗な声なのは変わりないわ。貴方も楽しく!歌いまショウ!」

 そこからボイストレーニング混じりのカラオケが始まった。

 トップバッターは私。そして次に静留さん。

「ん~~~っ!声は綺麗だし音程も確りしているけど、高音の所で抜けちゃうのよねぇ…佑那ちゃんはそこが勿体ないわ!」

 オネェさんがクネクネしながら1曲終わる度に的確なアドバイスをしてくれる。

「静留ちゃんはこういったポップ系は歌い慣れていないようねぇ。基礎は確り出来ているから回数こなせば余程速い曲じゃなければ大丈夫よぉ?」

「そうですか。ありがとうございます」

 さて、ここまでは女性陣。

 ここからは男性陣だけど…友紀兄さんから歌うようだ。

 ~~~♪

 あ、ヤバイ。なんで友紀兄さんこの曲選択したのさ…女性特攻だよぉ…

 何かを思い出すように、しっとりと、綴るように私を見つめて歌っている。

 どんどん顔が熱くなっていくのが分かる。

 曲が終わって全員がしばし無言。

「───大分昔の曲だけど、良い曲ね…あの時の事を思い出して泣いちゃった…」

 オネェさん泣いてる!?

「泣かないでって言われているのに…そんな甘やかすように、囁くように歌われたら泣いちゃうよ…」

 静留さんまで!?

 ───そうか。慈しみと艶やかさの感じ取り方でここまで変わるのか…

 ちょっと兄さんが本気で歌った歌を聴きたくなったけど、耐えられる自信は無い。

 2~3分のインターバルを置いて結羽人兄さんの番となった。

 曲が流れた瞬間「あ、これはアカン」という直感的なモノが全身を駆け巡り、

「~~~♪」

 友紀兄さんが歌った曲と同じグループの曲。

 ただ、しっとりではなくポップな曲ではある。

 しかし、ただただ艶めかしいと言うか、魅了して止まない。

 これは、この場所で耐えられるのって、友紀兄さんくらいなんじゃないか…!

 曲が終わり、目をキラキラさせている友紀兄さんと蕩けるような笑みを見せながら友紀兄さんの頭を撫でる結羽人兄さん以外はダウンしてしまっていた。

「…この歌声、世界に、知ってもらわなきゃ…損失よ…」

 息も絶え絶えなオネェさんが絞り出すような声でそう言ってきた。

「そんな大げさな…」

「「大袈裟じゃないっ!!」」

 オネェさんと静留さんが暴走した!?

「しかし俺はそんなに歌は知らないぞ?」

「今のグループの曲は?」

「友紀と一緒に聞いていたから…アルバム2、3枚とシングル2枚分程度だ」

「じゃあ、これとこれとこれ。あとこれは?」

「知ってはいる」

 兄さん。歌って?

「いや、しかしな…皆で…」

「私、結羽人兄さんの歌もう少し聞きたいなぁ」

 とりあえず、援護。

 友紀兄さんも頷く。

「───じゃあ、あと4曲だけ」

 兄さんは渋々歌い出して…やっぱりとんでもなく艶やかで、艶やかだった。

 翌日、あのスタジオ名義で動画配信サイトに顔出し無しで載せられた。

 はじめは知名度含め何もないため、再生数はほぼ身内だったが、ラストに歌った歌が一人の人の命を救ったと話題となり、爆発的に再生数と中毒者及び信者を量産しているらしい。

 まだ1週間も経ってないけど、再生数がエグいことになっている。



「スタジオから問い合わせが凄くて大変って連絡がよく来るのよね…」

「静留さん。動画のマスターは?」

「えっ?私が確り保管しているけど…どうかしたの?」

 ───静留さん、最初からそれが狙いだったな?

 あ、静留さん。上の段の干蒸焼売を取り出してください。次の段は2分後です。

「あ、了解」

「兄さん。本当に良いの?」

 ?

「いや、私の友人達を食事にって…」

 別に問題無いよ?午点の少し後で夕食…でOKだよね?

「そうだけど…普通の家庭料理で良いんだよ?」

「えっ?…私、食べたいものがあるのでお肉、用意しましたけど…」

「静留さん…」

 次の段、菊花焼売出来上がってる。

「ああっ!了解!」

 つけだれは…葱油と炒め豆板醤ソースで良いかな?

「分からないから任せる!」

 と、インターフォンが来客を知らせる。

「はいはーーーい!」

 私は急いで玄関へ向かい、扉を開けると、

「「「佑那さん」」」

 そこにはまさにオフのお嬢様!といった三名の友人が立っていた。

 私と違って凄いお嬢様オーラがでていて良い匂いしていそう。

「いらっしゃい。今ちょうど焼売が出来たみたいだからあがって!」

 中へと招き入れ三人が中に入る。

 そしてリビングに入り…

「「「うわぁ…本格的」」」

「ダイニングテーブルは少し狭いからこっちに持って来たけど」

 呆然とする三人に私は申し訳なく思いながら皆に座って貰う。

「あ、これお土産だけど…」

 そう言って凪子さんが代表としてお土産を渡してきた。

「えっ?ありがとう!」

 お土産を受け取った私に三人は少し申し訳なさそうな顔をした。

「?」

「えっと、それは紅茶と、スコーンなんだけど…」

「えっ?あ、あー…」

 どうしよう。

 私は受け取ったお土産を持って友紀兄さんのところへと向かう。

「友紀兄さん。これお土産って貰ったんだけど…」

 そう言って紅茶とスコーンを差し出す。

 ああ、アールグレイだし、香港風点心…いや飲茶で良いんじゃないかな?

 兄さんは何でも無いようにそう言ってスリーティアスタンドを用意してそこにスコーンと、できたてのエッグタルト、馬拉巻マーラカオをセットして私に渡してきた。

 香港式の飲茶らしいよって言えば大丈夫。今、アールグレイのお茶用意するからね。

 兄さん…何でそんな事まで知ってるの?

 あと、静留さん。「女子力差っ!圧倒的女子力差…っ!」って落ち込まないで?

 私も無茶苦茶落ち込んでるから。

 とりあえずスリーティアスタンドを持ってリビングに戻ると、三人とも「その手があったか!」って顔をした。

「兄さんがちょうどよかったって。香港式の飲茶だねって」

「……もしかして、ここにあるもの全て、祐奈さんのお兄さんの手作り?」

「?そうだよ」

「えっ?購入とかではなく!?」

「料理人…とか?」

「いやでも、全部凄いキレイだよ?」

 皆のチェックが凄い。

「祐奈さん。紅茶の方、出来たそうよ」

 静留さんの声に私は慌てて紅茶を取りに向かう。

 紅茶を受け取り、皆に配っていく。

「「「「戴きます…」」」」

 そう言って私達はそれぞれ好きなものを取って食べる。

「うん。美味しい」

 流石兄さん。前に静留さんが持って来た本格点心を再現しているわ。

 ふと三人を見ると、固まっていた。

「?えっと…美味しくなかった?」

「…いえ、違うの。多分皆さん同じだと思うんですが…これ、ええっ?」

「作りたてなのは分かっているんです。レンジや蒸し直すとどうしても一段下がるのは分かるんです。でもこれは…」

「お兄さんは料理人なんですか?」

「普通の学生だよ?」

「「「………」」」

 絶句しているし。

「肉汁が凄いのに皮は…」

「焼売なのにここまで…」

「ちょっ!これっ、このエッグタルト絶対数ヶ月予約待ちの!」

「えっ!?貴女あちらのエッグタルト食べたことが!?」

「いただきます……!?あちらのモノとは少しだけ、違いますが…ああ、これはできたてだからですね」

 うわぁ…皆凄いなぁ…

 そんな事を思いながら紅茶を飲む。

「こんな高レベルな料理の数々を…キッチンにはお二人ですか?」

「うん。結羽人兄さんのお友達が料理見学に。作っているのは友紀兄さんだけだよ」

「「「えっ?」」」

「?」

「これだけのものを、お一人で?」

「うん。今回は静留さん何も手を出せなかったし…夕食のお肉を用意して貰ったから見て貰うだけって…どうしたの?」

「これだけのものを軽々と作ることの出来ると言うことは、将来はこの道に?」

「えっ?待って?夕食のお肉をわざわざ用意して貰うって…もしかして、点心…中華以外も?」

「っ!?」

「兄さんは基本家庭料理…和食だけど、洋食も作れるよ?静留さんやその家族もアルバイトでも良いから料理作って欲しいって言ってたし…あ、静留さんって言うのはさっきも言った結羽人…長兄のお友達で、奥のキッチンで料理を見学している中条グループのご令嬢ね」

「「!?」」

「えっ?お二人とも、どうしたのですか?」

「中条グループの社長一家は食通でも知られていますが、一流料理人をも膝をつく料理人を雇っているという…噂も」

「私もその噂を思い出していたのです!外国の大企業が急なパーティーを開催して欲しいなんてわざとらしい無茶振りをした際、たった二名の料理人が文句のつけようのない料理を出したと」

「ええええ?」

「………静留さーん?」

「なーにー?」

「今の話聞こえてました?」

「あー…結羽人さんと友紀くん借りた時の話よ」

「…あの時はごちそうさまでした。無茶苦茶美味しかったです」

「あの時の和牛ロースの竹皮包みや牛ヒレ肉とヤマドリタケのグリルが食べたくて今回材料を用意したのよ」

 まさかの回答。

 アレを、食べられる?

「少し多めに持ってきたから皆さんもどうぞ」

「「「女神が、女神がいらっしゃる…!」」」

 ノリ良いな!


 夕食は本当に至福の一時でした。

 友達三名とも友紀兄さんを見て「えっ?…兄、さん?」って言うし、料理を食べて凄く目を見開いたまま固まるし。

 静留さんは家族用としてタッパーに詰めて「これを餌に次の食材を出させるわ!」って息巻いていた。

 ───尚、今回結羽人兄さんの夕食は焼き鳥丼でした。合掌!


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