第3話 ある日の兄者戦闘講座(私用)後、香椎道場

 イッヌがいなくなって暫くしたらネッコがきたでござる。

 まあイッヌよりは小さいけど。

 本日日曜!ネッコが見守る中、私は庭で兄さんと護身術の勉強だ!

「今日はそうだな…簡単な俺式武術の勉強だ」

 出たよ無茶武術。

 友紀兄さんの友達が漫画やアニメ、ゲームの技を見せてそれを再現するトンデモ兄さんが独自解釈で武術を組み立てるなんて恐ろしすぎる。

「そこまで難しくは無い。基本は一対三種の法。これが現時点での俺式武術だ」

 いっついさんしゅ?

 首をかしげる私に結羽人兄さんが笑う。

「ただの理論だから簡単に言うが、一対とは表と裏。そして二つで一つという意味だ。そしてそれが三種、つまり2×3の6法から二つを併せて使うと言うことだ」

 そう説明してくれたけど、よく分からない。

「…まあ、簡単な実践でなければ分からないか…」

 おっ?戦闘実技!

「…本当に考えずに直接動くメインだな…少し待て。まず一対の理も三種あって虚実、陰陽、天地の三種だ」

「結羽人兄さん。虚実と陰陽って同じじゃ無いの?」

「俺の考えは違う。虚実は嘘と誠だ。空虚と充実に対して陰陽は相反しながらも連動し、反転収着…極まったら陰は陽に転じ、陽は陰となって吸収して吸着する」

 ええええ?意味が分からない。似たようなモノでしょ?

「似たようなモノでしょ」

「似ているだけで性質は違う。そうだな…虚実は普通のカウンター技。陰陽は陰属性を吸収して陽属性に転換しての属性カウンターだ」

「上位互換!?」

「汎用型の技と使いどころの難しいピーキー技だな。陰陽を例えるなら、植物に肥料や水が要るだろ?それを過剰に与えると…根腐れで死ぬ。その腐って死んだ植物はやがて土になって新たな植物を育む…みたいな感じと言えば良いか」

「でもそれは同じ物では無い?」

「ああ。一度壊れた物は元には戻らない。過程を無視して結果が対極の何かに変わる」

 あー…何となく分かった。

「天地は?」

「表法では天が神経・骨格で地が筋肉と物理だ」

「物理って…」

「ギュッて筋肉で締めて勢いを付けて殴る。物理だろ?」

「何という脳筋!…表法って裏法は?」

「天が神威循環、地が気の循環だ」

「それスキルベースじゃ無いの!?」

 驚く私に結羽人兄さんは鉄柱に藁を巻き付けた的の前に立つ。

「スキル無しでも地の両対を使えば…」

 ドンッッという音と共に鉄柱が歪んだ。

「スキル無しでもこれくらい。ああ、裏法の天は退魔系だから専ら表天裏地が佑那には合っているだろうな」

 そう言いながらギギギッと鉄柱を無理矢理戻す兄。

 いや人か?

 ネッコも毛を逆立てているんだけど?

「香椎さん所のは基本は虚実と表天地だろうな」

 いやあの人達こんな鉄柱を曲げるレベルまでの技無いと思うからね?


 後日念のために香椎道場で確認したら剣技での斬鉄、鬼斬りはあっても殴って鉄柱を簡単に歪めるような技はお爺ちゃん以外できないと言われた。

「香椎のお爺ちゃんって結羽人兄さんと同じレベルのバケモノ?」

 って聞いたら、

「お前の長兄はバケモノの範疇すら超えているからな?」

 と言われた。泣きたい。


 1週間後


「結羽人兄さん!兄さんの理論の天地で二種類の打撃技が出来るようになりました!」

「ん?体内の連動を軸にした攻撃という事か?」

「んー…一つは体の内部を一瞬緩ませてザッと群体移動みたいな感じで一気に攻撃方向に向けるんだけど、その時に神経も骨格も綺麗にあわせて打ち込む技」

「…まあ、とりあえず受けてみよう」

「受けるの!?」

「受けないとどれだけの代物か分からないだろうが。重要臓器等は守るから問題は無いぞ」

「うー…行くよ!」

「本気で来い」

「ふっ!」

 ズドンッ

「…うん。そこそこだな。あとは発動瞬間を速めるのと、威力調整、部分発動などが今の課題だな」

「効いてない…」

「常人が心臓に受けたら死ぬからな?肩や腹でもレスラーすら膝をつくぞ」

「…平然としている兄さんがそう言っても、信憑性ゼロなんだけど」

「香椎道場で試してこい」

「了解。次なんだけど、ちょっと説明が難しいんだ」

「んん?」

「えっとね、天から地に力が降りて、腰辺りと胸辺りに力が溜まるんだけど、その溜まった力をそれぞれに帰して、増幅させた上で体内に取り込んで、今の技に乗せて放つ感じ。少し違うかな?でもだいたいそんな感じ」

「……溜めが必要か?」

「はじめに呼吸が整っていたら5秒くらい」

「最大の状態でやってみてくれ」

「受けるの!?」

「ああ」

「人殺しにはなりたくないよ!?」

「問題無い。さっきより少し強めに体内は補強するし、回復はすぐに掛けられる」

「……じゃあ、やる」

「来い」

「───、っ!!」

 ドンッ、ズドンッ

「………これは、切り札としては最上だが、震脚を相手の足に。そして心臓に打ち込む殺法として使え。ただし、生きるか死ぬかの時。戦闘系スキルを持つ相手。あとは妖魔に対してのみだ。もし実験的に、と言うなら香椎の翁に言え」

「兄さん無事なのに?」

「これを生身の人間が受けたら100%死ぬぞ?恐らく裏天地を使ったあと震脚で強制パージ。そしてエネルギーを取り込みながらのさっきの技…と言う流れだろうな」

 完全にバレてるぅ…


 翌日、香椎道場でおじさんに聞いてみた。

「師範?」

「やつは何処まで進んでいるんだよ…」

 疲れた顔でそう呟くおじさんに私の技について確認をしてみた。

「…お前も何処向かっているんだ!?」

 えー?心外な。私には兄さんみたいなトンデモ人間じゃ無いです!

「まあ、一発腹に受けてみるか…しかしやつが試せと言ったと言うことは…よし。来い!」

 ズドンッ

「っぐぅぅっ…!?」

 あれ?

「師範、生きてますか?」

「…師匠呼んできてくれ…」

 ええええ?

 少し急いで香椎のお爺ちゃんを呼びに行った。

「…本当にお前さん等兄妹は…」

 活波(活法)を受けてようやく一息吐いたおじさんが脂汗を流しながら愚痴ってきた。

「兄さんもう一つの技も平然と受けていたので師範も大丈夫かなぁと」

「アレになんて言われた?」

 お爺ちゃんがニヤニヤしながら聞いて来たので「まだまだだなって言われた」と正直に言うとお爺さんは呵々大笑し、おじさんは失意体前屈をしていた。

 何故?

「打撃に関してはうちでは嬢ちゃん以上はいないな」

「えっ?これの先ありますよ?」

「それは絶対人に打ってはいけないものだろ!?」

悲鳴を上げる師範。

「生きるか死ぬかの時や妖魔と出会した時等って言ってました。あと、実験的にと言うなら香椎のお爺ちゃんに言えって」

「!?」

 おじさんがバッとお爺ちゃんを見る。

「よぉし…ジジイ頑張って受けちゃうぞ!」

 ぇえ…?大丈夫?

「しかし嫌な予感がするので、庭でやるか」

 止めるという選択肢が無い件について。


「さぁて…どの距離でする?」

「至近距離でも中間距離でも大丈夫です。ただ、少しだけ溜めの時間をください」

「了解した。ならば中間距離にしようか…受けるのと受け流すのはどちらが良いかな?」

 お爺ちゃん受ける気満々なんですけど…

「臨機応変でお願いします」

 私はそう言って無構えで息を吐く。

「さあ」

「行きます」

 間合いを瞬時に詰め、相手が何か反応をする前に、震脚で天地に還す。

「っ!?」

 お爺ちゃんは足を僅かにずらして踏み込みによる攻撃を避けた。

 天地の力が反発し戻ってきた所を───突く!

 ゼロ距離から突き出されたその力がお爺ちゃんに突き刺さり…そのまま抜けていった。

「…えっ?」

「ぉおう…これは確かに危険だな。天地発勁と人理。天地人の技…小鬼くらいであれば一撃で倒せるぞ」

「お爺ちゃんは無事!?」

「勿論だ。受けとらんからな」

「えっ?」

「こんなもんうちの受け流しのどれを使っても2割は体内に残って内蔵ズタズタだぞ」

「でも当たった感触があったよ?」

「当たりにいって、衣一枚で退いただけだ。こんなもの受けたら即死だぞ?まあ、余波の気だけでも師範は死ねるな」

 ぇえー?

 師範を見る。

 ドン引きした目で私達を見ていた。

「一度発動すれば打撃や返し含め並大抵のものでは防げない。確かに生き死にを掛けた時用だな」

「でも当たらなきゃ意味ないですよね」

「いや?さっきも言ったが、発動してしまえば後ろに下がっても10㎝程度なら余波で殺せるぞ?」

 なんて技を…

「お前の兄さんはゲームの遠距離攻撃?飛び道具?なものを放ったりするからな?」

 ───兄さん。なんて技を!?

「あの技を、儂も出してみたくて研究中だ。恐らく嬢ちゃんの今の技を更に詰めれば…」

 私はこれ以上は無理です!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る