第4話 慶州1日目(木曜日)

トラベル小説


 朝7時、ホテルでビュッフェの朝食をとってもよかったのだが、妻が

「朝食のあわび粥を食べてみたい」

と言い出したので、またまた明洞の通りに出た。行ってびっくり。昨日はあんなにごみだらけだった通りがすっかりきれいになっている。清掃員が朝早くきて、通りをきれいにしていると後で知った。どうやら毎日のことらしい。

 韓国通の友人いわく

「韓国人は通りにごみを捨てるのを悪いこととは思っていない。むしろ、そうじの人の仕事を守っている。日本みたいにきれいにしていたら、その人たちの仕事をとってしまうことになる。と考えているそうだ」

という弁にはおそれいった。その考えは韓国国内だけにしてほしいものだ。


 さて、数分で朝でもやっているお粥屋さんを見つけた。そこで、一番高額のあわび粥を注文した。1500円ほどだ。他のおかゆは500円程度で食べられるので、破格の値段だ。だが、でてきたあわび粥は、期待したほどではなかった。あわびは入ってはいるが細切れで、あわび特有のコリコリ感がない。そんなもんだと言われれば、それまでだが、ちょっとがっかりだった。

 9時にホテルをチェックアウト。タクシーでソウル駅へ向かう。短い距離だが、地下鉄の階段の上り下りを考えたら、タクシーの方が絶対いい。

 10時のKTXに乗車。シートは新幹線より広めだが、揺れは大きい。コーヒーがやたらと波うっている。30分ほどで300kmの表示がでた。徐々にあがってきたので、スピードの実感はなかった。正面を見ている運転席にいれば話も別なのだろうが、客席では250も300もたいして変わらない。

 2時間ほどで慶州(キョンジュ)の最寄り駅に着いた。街からはだいぶ離れている。ど田舎にポツンと巨大な駅だけがある感じだ。観光案内所に寄って、日本語のパンフをもらい、タクシーに乗った。数台しか待っていなかったが、駅に降りた客も少なかった。

 ホテルの居場所を印刷した紙を見せると、運転手は怪訝な顔をしていた。どうやらホテルの場所を知らないらしい。アドレスを頼りに行くことにしたみたいだ。タクシーは田舎道を走り、慶州の街に入った。周りには有名なホテルが並んでいる。それを横目に見て、タクシーはまだ走る。街並みを過ぎて郊外に出た。そこに小さなホテル街があった。ひと目でモーテル街と分かる。タクシーはその中の比較的大きなホテルの駐車場に入った。以前はモーテルだったところを一般の人が入れるホテルに改装したようだ。全世界のホテルを予約できるサイトで探して2つ星のホテルを見つけたのだが、これで星がついているのかと思うような外観だ。チェックインには早いので、荷物を預け、乗ってきたタクシーで「シルラミレニアムパーク」に向かった。

 10分ほどで、到着した。ここは韓流ドラマをメインにしたテーマパークだ。ロケ地にもなっており、ここで撮影された映画やドラマのポスターがいたるところに貼られている。「善徳女王(ソンドクジョオウ)」や「花郎(ファラン)」といった私も見たことがあるドラマの舞台がそのまま残っている。よく出てきた建物があったので、近くへ行ってみると、屋根や壁のほとんどが発泡スチロールでできていた。これなら早くできるし、軽いからロケには最適なのかもしれない。

 妻は、ここでも歓声のあげっぱなしだった。善徳女王になったつもりでふるまっている。ショータイムになると、ステージではアクションをはじめ、花火や音楽で盛り上がっている。観客はやんやの歓声だ。アクロバット的な技もあり、30分ほどのショーはあっという間に終わった。

 夕方になり、お腹がすいてきた。昼は慶州パンを食べただけだったからだ。そこで、隣接のレストランに入った。そしてカルビ麺を注文した。日本でいう冷麺だ。

でてきた麺を一口食べてみて、妻と顔を見合わせた。ゴムのような感触で、嚙み切れないのだ。

「なにこれ?」

と、韓国通を自称する妻も不思議な顔をしていた。日本で食べた冷麺とは大違いだ。スープはおいしかったので、それを飲み干し、カルビと付け合わせのキムチやナムルを食べてお腹を満たした。麺はほとんどが残った。一応マナーには合っているが。


 ホテルにもどり、小さなカウンターでチェックインをした。その際、メモに書いて翌日のタクシー貸し切りを依頼した。一日で1万円ほどだという。

 エレベーターで2階にあがり、薄暗い廊下の先に自分たちの部屋があった。部屋の中はふつうのツィンベッドルームだ。部屋の中はリニューアルしたみたいだ。だが、窓からの景色は最悪だ。周りの景色はモーテルの看板だらけ。けばけばしいネオンサインがカーテンごしにも見える。これでぐっすり眠れるか心配になった。

 救いは日本のBSが見られることだった。いつも見ている番組を見ている内に眠気に誘われた。

 

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